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日本の住宅ローン金利がアメリカの利上げやウクライナ侵攻で変動する可能性は?

LIFULL HOME’S総研の中山です。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、世界情勢は急激に不安定になっています。ウクライナのNATO加盟を阻止することが目的とされ、一義的にはウクライナ東部の親ロシア派住民を守るためと称しての侵攻です。

これによって多くの尊い人命が失われ、多くの建物・施設が破壊され、数多くの武器や弾薬が使用されることで環境に与える負荷も極めて高くなります。

またウクライナやロシアは世界の小麦倉庫といわれるエリアでもあり、今後穀物価格の高騰やエネルギー価格の上昇によるインフレも予測されますから、一刻も早く侵攻が終わることを願わずにはいられません。

今回は、日本の住宅ローン金利がアメリカの利上げやウクライナ侵攻で変動する可能性についてお話ししていきます。

目次[非表示]

  1. 1.アメリカではインフレ対策、日本ではデフレ対策に政策金利が活用される
  2. 2.アメリカの政策金利引き上げでは日本は連動しないが・・・懸念材料はウクライナ侵攻

アメリカではインフレ対策、日本ではデフレ対策に政策金利が活用される

2022年初の為替相場は、コロナ禍でのリスク選好の円売りにアメリカの政策金利の利上げ観測に伴うドル買いが重なり、1ドル116円台に円安ドル高が進んで始まりました。その後、インフレ率の想定外の上昇による利上げ観測が高まったことでアメリカの金利が上昇し、円安は一旦収束しました。

このようにアメリカの政策金利動向は為替相場にも直接影響を与え、テーパリング(量的緩和策による資産買い入れを段階的に減らす措置)開始前から、為替相場に影響するほどの関心事となっているのは事実です。

アメリカのテーパリングは2022年6月から3月に前倒しして開始されることになっており、FRBによる利上げもドットチャートによると年内に既に3回予定されていますから、政策金利の利上げはインフレ対策として完全に既定路線となっています。

先日のバイデン大統領の一般教書演説でもインフレ対策としての政策金利の引き上げに言及しました。アメリカの2021年11月の消費者物価指数(CPI)は6.8%という高い上昇率を示しており、以降もCPIの高止まりおよび上昇は継続していますから、これが政策金利の引き上げ前倒しに影響したものと考えられます。

また、イングランド銀行も12月中旬に0.25%の利上げ実施を決定し、コロナ禍でのインフレ対策は市場経済を下支えする上では選択の余地なく実施される状況にあると言えます。唯一の不安材料はロシアのウクライナ侵攻です。侵攻によって利上げ見送りの観測が市場で徐々に高まってきていることも事実です。

アメリカの政策金利引き上げでは日本は連動しないが・・・懸念材料はウクライナ侵攻

一方、日本では日銀の金融政策決定会合において大規模緩和方針が維持・継続されるだけでなく、2022年2月14日には金利0.25%で無制限に買い入れる国債の”指値オペ”を実施して、ゼロ金利&低金利政策維持を明確に打ち出しています。

アメリカとイギリスでは利上げの方針(テーパリング準備中のユーロ圏ではまだ利上げする状況にはないとECB総裁が発言していますが)が打ち出されているのに対し、”指値オペ”の実施によって金利を低位に誘導して資金を借りやすくすることで経済を支えてきた日本の金融政策との違いを鮮明にしたと言えます。

仮に、アメリカが利上げを実施すると日米の金利差は拡大することになりますから、ドル買い円売りが進み、円安による輸入コストが膨らんで企業収益や消費者物価の上昇という意図せぬインフレが発生する可能性が出てきます。

そのため、金利を上げるためには緩やかなインフレと賃金上昇という経済拡大期へのシナリオが必須になります。岸田政権の掲げる「成長と分配」はその端緒についたばかりで、コロナ禍で伸び悩む企業収益を考慮すれば賃金上昇には現実感が希薄で、日本では政策金利を引き上げる可能性はほぼ皆無ということになるでしょう。

もし、アメリカに追随して政策金利を引き上げることになれば、短期プライムレート(PR:クレジットスコアの高い企業に貸付ける1年未満の融資金利)も上昇することになりますが、変動金利型の住宅ローンはこの短期PRに連動しており、住宅ローン金利も上昇し始める可能性が高まります(固定金利は長期PRと連動しています)。

つまり、日本で政策金利を引き上げることは住宅ローン金利の上昇を招き、国内経済を下支えする住宅市場に大きな影響を与えることになるのです。

ただし、平時ではこれまでなかなか想定できなかった日本の政策金利の引き上げですが、ロシアのウクライナ侵攻によって物の価格、特にエネルギーや穀物、資材など国内のインフラを支える重要な物資の価格が相次いで上昇する状況にあります。

これら物資の市場価格の上昇は日本国内でのCPIの上昇を招き、予期せぬインフレになる可能性があります。そうなると、アメリカ同様に政策金利を引き上げてインフレを抑え込む方向に動くこともシナリオとしては考えておく必要があります。

2022年3月初旬における住宅ローンの最低金利は、変動金利で0.310%、35年固定金利で0.995%です。侵攻が現段階ではいつ終結するのか全く予断を許さないことを考慮すれば、わずか0.6ポイント程度の差であれば固定金利で借り入れることを積極的に提案すべき状況が徐々に迫ってきていると考えておくべきでしょう。

ウクライナ侵攻と日本の住宅ローン金利が直接関わることはありません。しかし、このように巡り巡って影響を受ける可能性はイメージしておく必要があると思います。

つまり、政府・日銀は政策金利を引き上げることは現状想定していませんが、予期せぬCPIの上昇を受けて政策金利を引き上げざるを得なくなる可能性がゼロではないこと、および予防措置的に固定金利で住宅ローンを借り入れる提案をするケースが考えられることをぜひ覚えておいてください。

 
中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

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