マンション管理士の独占業務の有無と今後の需要について
不動産業に関連する国家資格の一つに、“マンション管理士”があります。マンション管理士の資格を取得することで、マンション管理を適正に行うための専門家として、管理組合やマンションの区分所有者に対して助言・指導を行えます。
現在不動産会社に勤めている人のなかには、知識の向上やキャリアアップのために、資格の取得を検討しながらも、「マンション管理士として具体的にどのような業務を行うのか分からない」「宅地建物取引士のように独占業務はあるのだろうか」などの疑問を抱えている人もいるのではないでしょうか。
この記事では、マンション管理士とはどのような資格か、独占業務の有無や有資格者の需要について解説します。
目次[非表示]
- 1.マンション管理士とは
- 2.マンション管理士の独占業務について
- 3.マンション管理士の需要について
- 4.マンションの老朽化
- 5.マンションストックの増加
- 6.居住者の高齢化
- 7.まとめ
マンション管理士とは
マンション管理士とは、マンションの維持管理に関する助言・指導、管理規約や長期修繕計画の策定、区分所有者間のトラブル対処などを業務とする専門家です。
マンション管理士の資格は、『マンションの管理の適正化の推進に関する法律』に基づき、国家資格に位置づけられています。
試験の合格率は、直近5年間(2017〜2021年)で8〜9%となっており、狭き門といえます。
▼マンション管理士の合格率
試験実施年度 |
合格率 |
---|---|
2017年 |
9.0% |
2018年 |
7.9% |
2019年 |
8.2% |
2020年 |
8.6% |
2021年 |
9.9% |
では、マンション管理士はなぜ必要とされているのでしょうか。その理由として、マンション管理の適正化が挙げられます。
マンション管理を適正に行うには、建物の維持・修繕に関することや管理組合の運営に関する専門的な知識が必要です。ところが、管理組合構成員となるマンションの区分所有者は、専門的知識を十分に有していないことが多く、適正な組合の運営が難しいケースもあります。
また、複数の所有者で建物を区分所有するマンションは、所有者一人ひとりの価値観や経済状態などが異なるため、大規模修繕や管理規約の見直しなど、所有者間の合意形成を図るのが難しく、所有者間でトラブルが発生しやすいという問題もあります。
マンション管理士は、こうした問題について管理組合の管理者やマンション区分所有者から相談を受けた際に、適切な助言・指導を行う役割を担っています。
マンション管理士の資格を取得して、国土交通大臣の登録を受けることで、マンション管理士の名称を用いて以下のような業務に携わることが可能です。
▼マンション管理士が携わる業務
- 管理規約・使用細則・区分所有者間のルール策定や改定
- 長期修繕計画の策定・見直し
- 大規模修繕の計画・実施
- 区分所有者間のトラブル対応
- 居住者の義務違反、管理費の滞納等へのアドバイス など
マンション管理士のさまざまな活動によって、マンション管理組合の運営を支援して、適正な運営を図ることが期待されています。
(出典:公益財団法人 マンション管理センター『平成30年度マンション管理士試験の結果について』『令和3年度マンション管理士試験の結果について』『マンション管理士とは?』)
マンション管理士の独占業務について
現在、法律で定められたマンション管理士の独占業務はありません。
また、マンション管理に関係のある国家資格に“管理業務主任者”がありますが、マンション管理士とは目的や業務内容が異なります。マンション管理士と管理業務主任者の違いは、次のとおりです。
▼マンション管理士
- 管理組合の運営に対して助言・指導などの支援を行うことが目的
- 有資格者のみができる独占業務はない
▼管理業務主任者
- マンション管理事業者が受託した管理業務を適正に実施することが目的
- マンション管理事務所に専任の有資格者を置くことが義務とされている
- 有資格者の独占業務がある
- 管理受託契約に係る重要事項説明(マンションの管理の適正化の推進に関する法律72条)ができる
- 管理受託契約の契約書の記名・押印(マンションの管理の適正化の推進に関する法律73条)ができる
2022年4月1日より、国土交通省によって『マンションの管理の適正化の推進に関する法律』(改正法)が施行されました。この改正法では、適切な管理計画を持つマンションを認定する“管理計画認定制度”が新たに導入されました。
認定基準には、管理組合の運営や管理規約、長期修繕計画の作成・見直しなどの内容が含まれています。これらを業務とするマンション管理士の必要性は、今後さらに高まっていくと考えられます。
(出典:公益財団法人 マンション管理センター『マンション管理士とは?』/国土交通省『マンション管理業者の登録及び登録の更新申請について』『マンション管理業について』『マンション管理・再生ポータルサイト』『マンション管理適正化法・建替円滑化法の改正について』/岡山市『マンション管理計画認定制度とは』/e-GOV法令検索『マンションの管理の適正化の推進に関する法律』
マンション管理士の需要について
マンション管理士には独占業務はありませんが、マンションの老朽化やストック戸数(中古物件)の増加、居住者の高齢化などを背景に、専門知識を有する有資格者の需要は高まると考えられています。
マンションの老朽化
現在、1970年代以降の都市化によって大量供給されたマンションが、築後30年・40年・50年を迎えており、マンションの老朽化が深刻化しています。
国土交通省『マンションストック長寿命化等モデル事業』によると、2020年末時点での築40年を超えるマンションは103.3万戸あり、ストック全体(675.3万戸)の約15%を占めています。さらに、2030年には231.9万戸、2040年には404.6万戸まで増加する見込みです。
画像引用元:『マンションストック長寿命化等モデル事業』
マンションの老朽化に伴い、大規模な修繕や改修が必要になるため、長期修繕計画の策定・実施を業務とするマンション管理士の需要が高まると考えられます。
(出典:国土交通省『マンションストック長寿命化等モデル事業』『コラム マンションの老朽化』)
マンションストックの増加
マンション管理士の需要が高まると考えられる背景の一つに、マンションのストック数の増加があります。
マンションのストック数が増加すれば、マンション管理をめぐるさまざまな問題が顕在化して、管理組合や区分所有者から、専門知識を有するマンション管理士への相談が増えることが予想されます。
国土交通省『マンションストック長寿命化等モデル事業』によると、国内におけるマンションストック数は、1980年代から長期的に増加の一途をたどっています。
『マンションストック長寿命化等モデル事業』を基に作成
これらのストックを長期にわたって有効活用するには、適切な維持管理や計画的な修繕が欠かせません。また、改修・建替えによって耐震性・耐久性などの安全面を確保する必要があります。
さらに、ライフステージが変化した人や高齢者など多様な人々が、安全かつ快適に暮らせるようなユニバーサルデザイン化への取組みも重要です。たとえば、バリアフリー化や車いす・ベビーカーで通行可能な住宅などが挙げられます。
区分所有者間の合意形成を円滑に行いながら、改修・建替えなど必要な措置を図っていくためには、マンション管理に係るノウハウを持つマンション管理士の支援が求められます。
(出典:国土交通省『マンションストック長寿命化等モデル事業』)
居住者の高齢化
築年数の長いマンションでは、居住者の高齢化が見られています。居住者の高齢化が進むなか、適正な管理組合の運営を維持していくには、専門家となるマンション管理士による積極的な支援が必要になります。
2018年に国土交通省が実施した『平成30年度マンション総合調査』では、マンションの区分所有者の世帯主の年齢のうち、50〜70歳代が半数以上を占める結果となりました。
▼マンションの区分所有者の世帯主の年齢(上位3位)
60歳代 |
27.0% |
---|---|
50歳代 |
24.3% |
70歳代 |
19.3% |
マンション居住者の高齢化が進むと、管理組合における役員の人手不足、管理組合活動の停滞・対応力不足によって、十分に機能しなくなるおそれがあります。
さらに、適切な維持管理・修繕等が行われていないマンションは、安全性の低下や居住環境の悪化などの問題にもつながる可能性があります。
適正な管理を行うためには、管理組合や区分所有者に対して助言・指導を行い運営を支援するマンション管理士の存在が必要です。
(出典:国土交通省『コラム マンションの老朽化』『分譲マンションストック500万戸時代に対応したマンション政策のあり方について』『平成30年度マンション総合調査結果-3. 区分所有者向け調査の結果』)
まとめ
この記事では、マンション管理士について、以下の項目を解説しました。
- マンション管理士とは
- マンション管理士の独占業務について
- マンション管理士の需要
マンション管理士は、適正なマンション管理組合を支援する役割を担っています。
現時点では有資格者の独占業務はありませんが、マンションの老朽化やストックの増加、居住者の高齢化などの問題が顕在化していくことで、今後需要が高まると考えられます。
将来求められる知識・知見を身につけるため、また、顧客のよりよい住生活をサポートするために、マンション管理士の資格取得を検討してみてはいかがでしょうか。
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