枠_左上
枠_右上

業界ネタ・トピックス

枠_左下
枠_右下

相続税算定の“最終兵器” 財産評価基本通達総則6項が与える衝撃①

LIFULL HOME’S総研の中山です。

コロナ禍が収束する方向に進み始め、外国人旅行者の受け入れ人数も緩和されるなど、コロナ前の日常を取り戻す試みが始まっています。観光関連事業は、観光客が来ないことには何事も始まりませんから緩和策は歓迎すべきですが、翻って不動産事業にも良い影響があります。

まず、旅館やホテルなどの観光事業に直接関わっている不動産セクターは確実に活性化しますし、全くの下火になっていた民泊事業も息を吹き返す可能性が出てきました。またコロナで大きな打撃を受けた飲食店の空き店舗が活用されることで地域経済の活性化にもつながっていくことでしょう。

一方で、仕事の継続性を担保する上で重要な仕組みとなったテレワークやオンライン会議などは今後も継続しますから、コロナによって生活スタイル全般が変化したことには疑いの余地はありません。コロナ禍を経てコロナ前に戻るもの、コロナで変化したままのもの、また新たに生まれるもの、これらを柔軟に受け入れつつ日々の業務に取り組みたいものです。

目次[非表示]

  1. 1.2022年4月19日最高裁判決は国税当局の追徴課税を適法と認定
  2. 2.財産評価基本通達総則6項は国税当局の判断で適用可能

2022年4月19日最高裁判決は国税当局の追徴課税を適法と認定

蔓延防止措置も解除され、コロナ禍が収束に向かいつつある状況だった4月中旬、今後の相続税の課税に関する重要な判決がありました。

この判決によって、これまで相続税対策として当たり前のように実施されてきた手段が(もちろんケース・バイ・ケースですが)通用しなくなる可能性が高くなったことに、不動産業界だけでなく、税理士法人や金融機関も大きな衝撃を受けることになりました。

本件事案をごく簡単に紹介すると、高齢の企業経営者が保有する財産の相続にあたり、8億円超(借入額6.3億円)および5.5億円(同4.25億円)の不動産を購入し、借入金によって不動産を取得した際の相続税および相続財産の圧縮をメリットとして享受しようとしたものです。

納税者側が相続税路線価を基に申告した合計約3.3億円の評価額に対し、国税側が主張した金額(鑑定評価額)は約12.7億円であり、総額および評価額の差は大変大きいものでした。複雑な権利関係の移転などの“租税回避行為”が行われていないにもかかわらず、今回の納税額が妥当であるかどうかについて最高裁まで争われました。

結果は、納税者側の敗訴となり(国税不服審判所/一審の東京地裁/二審の東京高裁すべて納税者側の主張が認められない完全敗訴でした)、課税価格2,826万円で相続税ゼロ円との申告および主張に対し、更正処分によって課税価格約8.9億円、相続税約2.4億円の賦課決定処分が確定しました。

財産評価基本通達総則6項は国税当局の判断で適用可能

この判決のポイントは、不動産の購入額(および相続税回避目的での借り入れ)を前提とした相続税路線価での評価が著しく実際の資産評価額と異なる場合に、今回のタイトルに掲げた「財産評価基本通達総則6項」がどこまで通用するのか、ということに尽きます。

財産評価基本通達とは、1964年に制定された相続税を算定するための基本方針と方法を記したもので、その総則の六には、「この通達の定めによつて評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」との記載があります。

やや曖昧な表現ではありますが、適法・違法を明確に区分しても、時代の流れで「著しく不適当」であれば「長官の指示」で評価、すなわち(慎重な調査に基づいた)国税局担当者の判断によって租税回避行為と見なされることがあり得ることになるのです。

これまではコンセンサスが得られていた(と思われていた)相続税の課税に関する一定の目安がなぜこの“最終兵器”ともいえる財産評価基本通達総則6項を持ち出すことに至ったのか。それは近年盛んに行われているタワーマンション節税が影響しています。

2015年11月に、国税当局は行き過ぎた節税策が行われていないかを厳しくチェックせよとの指示を出しました。露骨な節税行為は課税算定のやり直しも含め、今から60年近く前に制定された財産評価基本通達総則6項を根拠として厳しく対処するべきだとの方針が打ち出されたのです。

2010年以降急激に増加したタワーマンション(の特に上層階)は、市場で売買される価格と相続税路線価:評価額に著しく大きな乖離があります。それは当時の路線価がタワーマンションの階数にかかわらず、一律に評価額を算出する手法を採用していたためでした。

現状では階層に応じてわずかに評価税率にバイアスをかける手法に変更されていますが、それでも階層別効用比(階層ごとの資産性に基づく価格算定基準)の割合を反映したものではないので、相続税評価額と市場価格との隔たりは依然として大きく、それが相続時に節税効果が高いということで盛んに活用されてきたわけです。

これはいわば仕組みの「穴」を利用した知恵ともいえなくはありませんが、そもそも税制の大きな目的の一つは「所得(富)の再配分」であり、累進課税や相続税などによって税負担に差を設けることによって、社会の不公平感や所得格差を是正する役割を担っています。

したがって、タワーマンション節税が持つ者は節税可能だが持たざる者は対応する余地がないという意味で不公平感や所得格差を助長しかねない懸念材料となる可能性があり、それがための課税強化方針の表明であると見ることができます。2015年以降、かなりの数の「租税回避行為」=行き過ぎた節税行為が指摘され、そのすべてに追徴課税が実施されていることはご存じの通りです。このことは、これまでの相続税に関する考え方を変えるきっかけとなりました。

では具体的に何が違うと単なる「節税行為」が「租税回避行為」と受け取られかねないのかについて、次回さらに掘り下げることにします。

 
中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

関連する最新コラム

キーワードから検索

footer logo
不動産業・住宅業にかかわる「会社や人」の課題を発見・解決し、
成果をもたらす行動スイッチをONにするメディア
業務支援サービス提供企業の方へ
LIFULL HOME'S Businessへ自社のサービスを掲載。
全国の不動産・住宅会社様へアピールいただけます!
facebook

Facebook
コラムやセミナー、業界情報などの最新情報をいち早くお届けします。

その他のビジネス向けサービス