2030年問題とは? 不動産業界における環境変化と対策
現在の日本は、少子高齢化に伴う年金制度への不安や働き手の不足など、さまざまな社会問題を抱えています。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行により、ビジネスにおいても先行き不透明な状況です。
特に、不動産業界で取り上げられているのが“2030年問題”です。この先に待ち受ける2030年に向けて、「不動産業界にどのような影響があるのか分からない」「どのような対応が求められるのか知りたい」と考えている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、2030年問題とは何か、また不動産業界を取り巻く環境の変化やその対策について紹介します。
目次[非表示]
- 1.2030年問題とは
- 1.1.①少子高齢化・人口減少
- 1.2.②空き家の増加・既存ストックの老朽化
- 1.3.③生活環境・企業活動の変化
- 1.4.④働き方改革の進展
- 1.5.⑤国際競争力の強化
- 1.6.⑥国土構造の変化
- 1.7.⑦環境問題の制約
- 1.8.⑧消費者ニーズの変化
- 1.9.⑨自然災害の激甚化
- 2.不動産業界における2030年問題への対策
- 2.1.①時代に合わせた住宅・サービスの提案
- 2.2.②自治体・他事業と連携した空き家の活用
- 2.3.③IT技術の導入
- 3.まとめ
2030年問題とは
2030年問題とは、2030年に日本で表面化すると考えられる社会問題の総称です。2030年には、少子高齢化による人口減少や人口構造の変化により、雇用、年金制度などにさまざまな影響が及ぶと予測されています。
国土交通省の『不動産業ビジョン2030』によると、不動産業界を取り巻く社会経済情勢にも以下のような9つの変化があるとされています。
①少子高齢化・人口減少
日本の総人口は、2008年の約1億 2,800万人をピークに減少の一途をたどっており、2030年には約1億1,900万人になると見込まれています。
また、生産年齢人口(15~64歳)は、2015~2030年にかけて853万人減少し、高齢人口(65歳以上)は329万人増加するとされています。
このような少子高齢化の進展は、“夫婦と子”世代の減少、単身世帯の増加につながることから、住宅ニーズにも変化が表れるといえるでしょう。
②空き家の増加・既存ストックの老朽化
国内における空き家の総数は、2018年までの30年間で394万戸から846万戸へと増加しています。賃貸・売却用を除き、利活用されていない空き家の数に関しては、347万戸にまで増加。5年前の2013年と比べても29万戸の増加となっています。
さらに今後は、2017年から20年間で、築40年を超えるマンションが279万戸増加し、既存ストックの老朽化問題も顕著になると予測されています。
不動産業界においては、中古住宅の流通を活性化させるために、空き家や既存ストックの利活用が求められます。
(出典:総務省統計局『平成30年住宅・土地統計調査住宅数概数集計結果の概要』)
③生活環境・企業活動の変化
2030年には、インターネットやIoTなど、IT技術のさらなる発展により、生活環境・企業活動が変化すると考えられています。
オンライン契約やオンライン内見といったIT技術を取り入れたサービス提供により、不動産会社の立地に関する制約も緩やかになることが予測できます。
デジタル社会を迎えるこれからの時代、不動産業界が競争優位性を構築するためには、IT技術を活用したよりよいサービス、暮らしの提供が求められるでしょう。
④働き方改革の進展
不動産業界に限ったことではありませんが、少子高齢化による働き手不足を解消することを目的として、働き方改革がさらに進展すると考えられます。
限られた労働力を有効活用し、生産性の向上やワークライフバランスを実現するためには、一人ひとりに合った柔軟な働き方ができる環境の構築が必要です。
具体的には、仕事と育児・介護を両立できる労働制度の導入やライフステージに合った働き方ができる多様なキャリアパスへと見直しが求められるでしょう。
⑤国際競争力の強化
2030年には、大都市への人口集中によって、アジア主要都市の競争が加速すると考えられます。さらに、外国人旅行者・在留外国人が増加することで、新たな住宅需要の拡大も見込まれています。
不動産業界においても、国際競争力の強化をはじめ、外国人の住まいのニーズに対応することが重要です。
⑥国土構造の変化
2027年には、品川・東京間、2037年頃には、名古屋・大阪間のリニア中央新幹線の開通が予定されており、これらが実現すれば東京圏・名古屋圏・大阪圏といった三大都市間の移動がより身近になります。
主要都市へのアクセスの利便性が向上することにより、人々の生活や働き方にも変化が表れると考えられます。消費者の住宅選びにおいて予測されるのは、デュアルライフ(二拠点生活)という選択肢が新たに広がることです。
今後は、月契約の賃貸住宅やサブスクリプション型住居など、多様化する住宅ニーズへの対応が求められるでしょう。
⑦環境問題の制約
地球温暖化への対策は、世界共通の長期目標とされています。パリ協定をはじめとする国際的な取り組みが推進される一方で、2016年3月時点で、省エネ基準を満たす国内の住宅はストック全体で約8%にとどまっている状況です。
2030年に向けて、人々の生活の基盤となる住宅についても、省エネ住宅・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・低炭素建築物などといった環境への配慮が求められます。
⑧消費者ニーズの変化
高齢化が進むなか、健康への関心度合いが向上している傾向があります。内閣府の『令和3年版 高齢社会白書(全体版)』のうち、団塊の世代の意識調査によると、「収入が伴う仕事をしたい(続けたい)」という人は、60歳以上の高齢者のうち40.2%いるとの結果です。
不動産業界では、高齢者雇用をはじめとする働き方改革の進展とともに、健康的に暮らせる住まい・サービスの提供が求められます。
⑨自然災害の激甚化
近年、地球温暖化に伴う気候変動によって、自然災害が頻発している傾向が見られます。
さらに、今後30年以内で、深刻な被害を及ぼしうる地震の発生率が約70%にも達すると予測されています。
生活基盤となる住宅を扱う不動産業界においては、安心して暮らせる住環境づくりに向けて、防災・減災対策が必要不可欠といえるでしょう。
(出典:国土交通省『不動産業ビジョン2030』/内閣府『平成25年版 高齢社会白書(全体版)』)
不動産業界における2030年問題への対策
さまざまな社会問題が表面化するとされる2030年の日本。不動産業界が2030年問題に対応するためには、どのような対策が必要なのでしょうか。
不動産業界に必要となる2030年問題への対策には、主に3つが挙げられます。
①時代に合わせた住宅・サービスの提案
高齢化による単身世帯の増加、健康意識の高まり、環境保護に対応するためには、時代に合わせた住宅・サービスの提案が求められます。
時代とともに移り変わる社会のニーズに対応することで、新たな需要の創造にもつながります。
▼時代に合わせたニーズへの対応例
管理業
- 地域での見守りや生活相談サービスとの連携
- 民泊の運営、外国人対象の住宅提供
仲介業
- 多様な住宅ニーズに対応できる賃貸物件の提案
(サブスクリプション型住宅、シェアハウス、月契約賃貸住宅等) - 省エネ性能に優れた住宅の取扱い
- リフォーム事業との連携
②自治体・他事業と連携した空き家の活用
人々のライフスタイルやワークスタイルの変化により、地方郊外の住宅・地域が選ばれやすくなる可能性も高まると考えられます。地方郊外にある空き家や既存ストックを有効活用することで、不動産流通市場のさらなる活性化が期待できます。
▼空き家の活用例
管理業
- 空き家リノベーションによる賃貸経営
- 住宅の適切な情報共有による安全性の確保
仲介業
- 空き家バンク活用、自治体による移住者支援の紹介
- インスペクションの実施やリノベーションなど一貫したサービスの提供
③IT技術の導入
IoT・AIなどのIT技術を活用して、新たなサービスや付加価値の提供、ビジネスモデルの変革が求められます。
IT技術を積極的に取り入れることで、競争力の強化、人手不足の解消、防災強化などさまざまな問題の対策につながります。
▼IoT・AIなどを活用したサービスの例
管理業
- ITツールによる災害状況の監視・住民への通知
- 入居者管理ツールによる管理品質の向上
- テレワークの導入による働き手の確保
仲介業
- Web契約やWeb内見の導入による立地に関する制約の解消
- 顧客管理ツールによる営業力の強化
まとめ
2030年問題は、少子高齢化による人口構造の変化によって起こるとされる社会問題のことです。
不動産業界を取り巻く環境にも、住宅ニーズの変化や競争の激化などのさまざまな変化が起こると予測されています。
これらの変化に対応するためには、時代に合わせた住宅・サービスの提案をはじめ、自治体や他事業と連携した空き家の活用、IT技術の導入などの対策が必要です。
2030年に迫る不動産業界の変化に乗り遅れないために、いまから対策を始めてはいかがでしょうか。