生活保護受給者のニーズは高い? 賃貸物件契約におけるメリット・リスク・注意点を解説
賃貸物件を経営する際には、入居者の事情やニーズについても的確に把握しておくことが大切です。特に、経営の方向性としては、さまざまな事情で生活保護を受給している入居希望者をどのように受け入れるかが重要なテーマとなります。
今回は生活保護受給者を受け入れるメリットとリスク、賃貸借契約における注意点を見ていきましょう。
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目次[非表示]
- 1.賃貸物件における生活保護受給者のニーズは高い
- 1.1.高齢者の生活保護受給者の増加
- 1.2.高齢者の居住状況
- 2.生活保護受給者を受け入れるメリット
- 2.1.長期安定的な収入が見込める
- 2.2.ニーズが重複しにくい
- 2.3.家賃の滞納リスクを下げられる
- 2.4.万が一の際もケースワーカーに相談できる
- 3.生活保護受給者と契約をするリスク
- 3.1.代理納付がない場合のリスク
- 3.2.高齢者特有のリスク
- 3.2.1.リスク軽減につながる制度の変化
- 4.生活保護受給者と契約を行うときの注意点
- 4.1.入居審査を行う
- 4.2.ケースワーカーとの連携を強化する
賃貸物件における生活保護受給者のニーズは高い
賃貸物件において、生活保護受給者によるニーズは安定的に存在しています。特に近年では高齢の生活保護受給者が多く、そうした方からの賃貸物件のニーズは高いといえるでしょう。
高齢者の生活保護受給者の増加
厚生労働省のデータによれば、2022年3月時点で、生活保護受給者の56%が65歳以上の高齢者に該当すると示されています。受給者全体の人数は、2022年時点で約200万人のため、そのうち高齢者は110万人相当と計算できます。
統計データが示されている最初の年(平成7年)では、高齢者の生活保護受給者は約30万人であったため、約25年で3.5倍近くに増加しているということです。日本では現在でも高齢化が進んでおり、今後もますます全体としての割合は増えていくと考えられます。
高齢者の居住状況
国土交通省の「高齢者の住まいに関する現状と施策の動向」によれば、2022年時点で、高齢者の居住状況は持ち家3,280万戸に対して賃貸住宅1,906万戸とされています。そのうち、施設の入所や公的賃貸住宅への入居を除くと、民間の賃貸物件では約10分の1にあたる183万戸が高齢者に貸し出されている状況です。
後述するさまざまな理由により、高齢者を受け入れる民間の賃貸住宅は少なく、公的なサービスに頼らざるを得ない状況が続いています。こうした現状を踏まえると、高齢者を中心に、生活保護受給者からの民間賃貸住宅へのニーズはとても高いといえるでしょう。
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生活保護受給者を受け入れるメリット
賃貸経営を行ううえで、生活保護受給者を受け入れることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、現実的な側面から4つのポイントに分けて見ていきましょう。
長期安定的な収入が見込める
生活保護受給者は入居できる物件に制約があり、審査や契約上の手続きも煩雑になることから、あまり引越しをしないという特性があります。特に高齢の方は入居審査が厳しくなりやすいことから、一度入居をすれば、長期的に利用してもらえるケースが多いです。
ニーズが重複しにくい
生活保護受給者の場合は、多くの入居希望者が求めるニーズと重複しにくいのも特徴です。たとえば、生活保護を受けている間は、原則として自家用車の所有ができないため、駐車スペースがない物件でも問題なく入居を見込めます。
また、日当たり条件などで不人気になりやすい1階の部屋でも、高齢の方であれば利便性の面から好まれやすい傾向があります。このように、ニーズが重複しにくいため、入居希望者が集まりにくい物件でも空室になりにくいのがメリットです。
家賃の滞納リスクを下げられる
生活保護では家賃を自治体が補助するため、きちんと徴収できる仕組みさえ整っていれば、支払いが滞る心配が少ないでしょう。特定の自治体では、代理納付によって家賃補助分を直接保健福祉センターなどから支払われる仕組みとなっているため、滞納リスクを防げるのもメリットです。
ただし、自治体によっては代理納付の制度を導入していないところもあるため、事前に調べておく必要はあります。
万が一の際もケースワーカーに相談できる
生活保護受給者には、福祉事務所に所属するケースワーカーが担当者としてついているため、万が一の際にはスムーズに相談することができます。入居者同士のトラブルや家賃の支払いトラブルなどが起きても、専門家である第三者に相談できるのは心強いポイントといえます。
生活保護受給者と契約をするリスク
続いて、生活保護受給者に賃貸物件を貸し出すリスクについても見ていきましょう。
代理納付がない場合のリスク
生活保護では住宅扶助の仕組みが整えられているため、家賃に充てられるお金そのものは、安定的に受給者のもとに支給されます。しかし、代理納付の仕組みが設けられていない自治体では、一度受給者の手元に家賃分のお金も支給されるため、滞納の可能性が生じてしまいます。
生活保護費は生活に必要な最低限度の範囲で支給されるため、受給者がその他の生活費等に流用することがあると、家賃を支払える資金力はすぐになくなってしまうのです。ケースワーカーを通じて督促などを行うことも可能ですが、手続きが増えてしまうため、賃貸経営者としては負担となります。
高齢者特有のリスク
これまでに見てきたように、生活保護受給者の過半数が高齢者であるため、孤独死や認知症による近隣とのトラブルといった特有のリスクが存在するのも確かです。特に孤独死の場合は、発見が遅れるといわゆる事故物件化してしまい、不動産の価値が下落する原因となります。
また、認知症についても、近隣の入居者とのトラブルが繰り返し発生する場合には、ほかの入居者の退去につながってしまう恐れがあります。そのため、高齢の生活保護受給者を受け入れる際には、高齢者特有のリスクも十分に理解して検討することが大切です。
リスク軽減につながる制度の変化
高齢者の住環境の整備は、日本全体の課題となっており、政府では国土交通省を中心にさまざまな取り組みが行われています。そのうちの一つが、2021年10月に制定された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」です。
このガイドラインは、「孤独死を懸念して物件を貸し出せない」という賃貸経営者の心理的なハードルを下げるのが目的であり、次のような内容になっています。
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生活保護受給者の受け入れを行ううえでは、ガイドラインの内容にも目を通しておくとよいでしょう。
生活保護受給者と契約を行うときの注意点
生活保護受給者との賃貸借契約では、リスクを避けるための事前準備が重要となります。ここでは、主な対応策について見ていきましょう。
入居審査を行う
生活保護受給者については、一般の入居希望者のように年収や勤務先などの条件を確かめる機会はありません。しかし、トラブルなどのリスクを避けるためには、入居審査を行って借主の人柄やコミュニケーション能力をチェックしておくほうが安心です。
対面でのやりとりを通じて、「近隣とのトラブルを起こさないか」「支給されたお金をきちんと管理できるか」などを確かめておくとよいでしょう。
ケースワーカーとの連携を強化する
ケースワーカーは、入居者が何らかのトラブルを起こしたときに、真っ先に相談できる重要な存在です。入居者との間に公的な立場で介入してもらえるため、家賃滞納や近隣トラブルの際にも速やかに手を打つことができます。
また、代理納付を扱っている自治体であれば、ケースワーカーに手続きの相談をしておくとよいでしょう。代理納付は受給者自身の同意が必要となるため、早い段階で話をつけておくと安心です。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:賃貸で生活保護受給者を受け入れるメリットは?
A:住宅扶助の制度が確立されているため、安定した家賃収入が見込めるのがメリットです。また、駐車場がなくても借りてもらえるなど、一般の入居希望者とはニーズが重複しにくいのも特徴といえます。
Q:生活保護受給者に物件を貸し出す際の注意点は?
A:まずは近隣トラブルや家賃滞納を避けるためにも、きちんと入居審査を行うのがポイントです。そのうえで、自治体によっては代理納付の手続きに対応しているところもあるので、家賃滞納を避けるためにも積極的に相談してみるといいでしょう。
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