心理的瑕疵とは? 賃貸物件における不動産会社の告知義務と注意点
賃貸物件を取り扱ううえでは、「心理的瑕疵」という言葉を目にする機会も多いといえます。心理的瑕疵のある物件は、借主が知らないまま契約するとさまざまなトラブルの原因となるため、一定の場合において告知義務が生じます。
そのため、賃貸経営を行う場合は、正しく理解しておくべき代表的な用語といえるでしょう。今回は心理的瑕疵の意味や告知義務のルール、契約時の注意点などについて解説します。
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目次[非表示]
- 1.心理的瑕疵とは
- 2.告知事項の説明義務
- 2.1.告知義務に関する決まり
- 2.2.告知のタイミング
- 3.告知義務の対象に該当しないケース
- 4.心理的瑕疵などの告知義務を説明するときの注意点
- 4.1.入居希望者から事案の有無を確認された場合の対応
- 4.2.告知すべき主な内容
- 4.3.プライバシーへの配慮
心理的瑕疵とは
「心理的瑕疵」とは、不動産取引にあたり、借主や買主にとって心理的に抵抗が生じる恐れがある事柄のことを指します。具体的には、物件内での自殺・他殺・事故死・孤独死などがあげられ、いずれも住み心地や機能としては問題ないものの「心理的に避けたくなる」ような欠点に該当します。
心理的瑕疵の特徴
不動産の瑕疵には、心理的瑕疵以外にも「物理的瑕疵」や「環境的瑕疵」などがあります。物理的瑕疵とは「家が傾いている」「雨漏りがしている」「設備が壊れている」などの不具合を指し、機能面で客観的な欠点が存在している状態を指します。
また、環境的瑕疵には「周囲の工場の音がうるさい」「ごみ処理施設のニオイが気になりやすい」といったものが該当し、これらもある程度の客観性があるのが特徴です。それに対して、心理的瑕疵は明確な不具合ではなく、心理的・精神的な苦痛やストレスを感じてしまう可能性がある欠点を指しています。
そのため、ある程度は受け手の主観による部分も大きく、何を心理的瑕疵とするかは状況によっても異なるといえます。極端に言えば「過去の事件や事故はまったく気にしない」という方もいるため、明確に定義するのが難しいといえるでしょう。
心理的瑕疵の例
明確な定義は難しいといっても、多くの方が共通して不快に感じてしまうという要因はいくつか存在します。具体的には次のようなケースです。
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人の死に関する問題は、多くの方が共通してデリケートに受け止めやすいテーマといえます。特に物件内や建物内での事件や事故、自殺は、自然死と比べても心理的なショックを受けやすく、嫌悪されやすい性質を持っているので注意が必要です。
また、自然死であっても、孤独死による発見の遅れなどが生じた場合は心理的瑕疵につながります。それ以外の要因としては、近隣の嫌悪施設があげられます。
嫌悪施設とは、「風俗店のような住宅地としての品格を下げる施設」「公害発生施設」「火葬場、刑務所などの不快感・嫌悪感を与える施設」などがあげられます。ただし、どの施設が対象となるかは主観的な感覚やイメージ、時代性によっても左右されるため、一様ではありません。
告知事項の説明義務
心理的瑕疵のある物件を取り扱う場合、不動産会社は借主に対して、その事実を伝えなければならないという「告知義務」を負うこととなります。
告知義務に関する決まり
告知義務は宅建業法で定められたルールのため、違反すれば何らかの処分が行われるリスクもあります。また、重大な欠陥を知りながらその事実を隠して契約を結ばせた場合には、民法上の「契約不適合責任」に該当し、損害賠償などが発生する可能性もあるので注意が必要です。
告知のタイミング
瑕疵の告知は、賃貸借契約を結ぶ前の重要事項説明の際に行う必要があります。心理的瑕疵物件であることを記載した書面を交付し、さらに口頭で説明する必要があります。
ただし、実際は契約上のトラブルを避けるために、物件広告に「告知事項あり」と記載するのが一般的です。なお、心理的瑕疵物件であるかどうかの判断は状況によって異なりますが、一般的には該当する事件・事故発生から3年が経過するまでが目安と考えられています。
この点については、国土交通省の「人の死の告知に関するガイドライン」で一定の判断基準が定められているので、次のブロックで詳しく見ていきましょう。
告知義務の対象に該当しないケース
「人の死の告知に関するガイドライン」は、国土交通省によって2021年10月に制定されました。この背景には、高齢化にともなって問題化していた「孤独死の懸念による高齢者への賃貸物件の供給不足」が関係しています。
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ここでは、ガイドラインの内容を踏まえて、告知義務の対象外となるケースを見ていきましょう。
自然死・日常生活の中での死が発生した場合
物件内で人が亡くなっていた場合でも、病死や日常生活における不慮の事故などによるものであれば、原則として告知する義務は発生しません。ただし、死後すぐに発見されず、特殊清掃などの必要性が生じた場合には、告知義務の対象になるとされています。
該当する出来事から3年を経過している場合
賃貸物件においては、事件・事故による死亡であっても、該当する出来事からおおむね3年が経過していれば告知義務は消滅するとされています。ただし、事件性や周知性、社会に与えた影響などが特に大きな事案については、3年が経過しても告知義務の対象から外れることはありません。
隣接する部屋や日常生活において通常使用されない共用部分で事件・事故が発生した場合
集合住宅の場合は、隣接する部屋や非常階段といった通常使用しない部分での事件・事故について、原則として告知事項には該当しないとされています。ただし、共用廊下やエレベーター、エントランスなどのスペースにつては通常使用する部分であるため、おおむね3年が経過するまでの死亡事件・死亡事故に関する事実は告知義務があると考えられます。
心理的瑕疵などの告知義務を説明するときの注意点
告知義務については、ほかにもいくつか注意しておきたいポイントがあります。ここでは、ガイドラインの内容をもとに、見落としがちな注意点をご紹介します。
入居希望者から事案の有無を確認された場合の対応
これまで見てきたように、事件や事故による人の死が生じていたとしても、社会的影響や周知性がある場合を除けば、おおむね3年が経過すると原則として告知義務はなくなります。しかし、借主から事案の有無を確認された場合には、事案の発覚から経過した期間や死因にかかわらず告知義務が発生するとされています。
トラブルを避けるためにも、入居希望者とのやりとりにおいて心理的瑕疵の有無を問われた際には、隠さず的確に答えることが重要です。
告知すべき主な内容
ガイドラインによれば、人の死に関する告知を行うときには、「事案の発生時期(特殊清掃などが行われた場合は発覚時期)」「場所」「死因」などを告げるとされています。そのため、賃貸物件の経営者や管理会社は、あらかじめ事実を正確におさえておくことが大切です。
プライバシーへの配慮
告知義務がある場合でも、心理的瑕疵の状況についてすべてを事細かに伝える必要はありません。ガイドラインでは、亡くなった方や遺族の方の名誉、生活の平穏に十分な配慮を行い、これらを不当に侵害することがないように心がける必要があるとされています。
そのため、氏名や年齢、家族構成といった個人情報や、具体的な死の態様、発見状況などは告知を控える必要があります。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:心理的瑕疵とは?
A:心理的瑕疵とは、借主や買主にとって心理的に抵抗が生じる恐れがある事柄のことを指します。たとえば「物件内での殺人事件や自殺」「重大な事故死」「孤独死による発見の遅れ」などが心理的瑕疵に該当します。
Q:心理的瑕疵を借主に黙っているとどうなる?
A:告知義務があるにもかかわらず、正しく伝えられていない場合は、宅建業法違反に該当します。また、民法上の契約不適合責任に該当すれば、損害賠償などのリスクも発生します。
Q:告知義務はいつまで残る?
A:国土交通省のガイドラインによれば、告知義務に該当する出来事からおおむね3年が経過していれば、告知義務はなくなるとされています。ただし、重大な事件性や周知性、社会的な影響がある場合や、借主から事案について問われた場合には、期間に関係なく告知義務が生じるので注意が必要です。
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