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相続税算定の“最終兵器” 財産評価基本通達総則6項が与える衝撃②

LIFULL HOME’S総研の中山です。

前回は、2022年4月中旬に結審したある最高裁判決を基に、「財産評価基本通達総則6項」がどういうものであるのか、またタワーマンション節税が国からどのように評価されているかなどについて説明しました。

※前回の記事はこちらからご確認ください
​​​​​​​  ≫  相続税算定の“最終兵器” 財産評価基本通達総則6項が与える衝撃①

行き過ぎた節税対策=租税回避行為と認定されてしまうと覆すことは容易ではなく、ほぼ100%国税当局の意向に沿って相続税が追徴される可能性があります。

では、今回はより具体的に、どういった「節税行為」が「租税回避行為」と認定される可能性があるのかについて説明します。もちろん「租税回避行為」が具体的に該当する要件を国が公表するはずもありませんから、蓋然性が高いであろう行為を専門家にヒアリングした内容などを基に、なるべく詳しく説明したいと思います。

目次[非表示]

  1. 1.改めて「財産評価基本通達総則6項」とは何か
  2. 2.何をもって「租税回避行為」とされるのか
    1. 2.1.①相続発生3年以内(36ヶ月以内)に購入した高額不動産であること
    2. 2.2.②相続開始後間もない時期に売却していること(36ヶ月以内が目安)
    3. 2.3.③借入金の完済予定日が購入者の平均余命を大きく逸脱していること
    4. 2.4.④購入者が近い将来相続の発生が予想されるような高齢者であること
    5. 2.5.⑤主たる購入原資が借入金であること
    6. 2.6.⑥路線価算定で相続税評価額が市場価格の50%以下となるような不動産であること
    7. 2.7.⑦当該不動産購入に“相続税逃れ”以外の合理的な目的が見当たらないこと

改めて「財産評価基本通達総則6項」とは何か

前回の繰り返しになりますが、財産評価基本通達は1964年に制定された相続税を算定するための基本方針と方法を記したもので、その総則の六には、「この通達の定めによつて評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と記載されています。

この「財産評価基本通達総則6項」こそが、相続税路線価などに基づいて正しく相続税評価額を算定し申告したとしても、その内容および申告額が「著しく不適当」と国税当局が判断した場合は、改めて国税側が鑑定評価などに基づいて評価額を算定し直し、納税者側の申告額との差分を更正処分によって追徴できる、という根拠になります。

つまり、相続税の対象となる資産の評価額は、国民が等しく妥当であると判断できる基準によって算定されるべきであり、露骨な節税行為(に見える操作)によって、持つ者は節税が可能だが持たざる者は節税の余地がないという不公平感を助長することがあってはならないという国税当局および国の“意思表示”と見ることができます。

この「著しく不適当」な節税行為を「租税回避行為」ということも前回説明した通りですが、法規などに明確な定義があるわけではなく、一般に本来租税負担が発生するはずなのに何らかの意図的な行為によってその租税負担を免れる行為、と解釈されています。

何をもって「租税回避行為」とされるのか

では、この国税当局にとって大変使い勝手の良い“錦の御旗”ともいえる財産評価基本通達総則6項に基づいて心象が形成され、国税当局が「著しく不適当=租税回避行為」との認定をする基準はあるのでしょうか。以下、取りまとめた結果を列挙します。

①相続発生3年以内(36ヶ月以内)に購入した高額不動産であること

この3年という期間に根拠はなく、少なくともまだ相続を想定していない時期に購入しているか否かということが判断材料の一つとなっています。ただし、全く根拠がないということでもなく、非上場企業が3年以内に取得した不動産を対象として、相続税評価額ではなく取引額を基準として相続が行われていることを類推解釈したともいわれています。

②相続開始後間もない時期に売却していること(36ヶ月以内が目安)

これも①同様に相続発生から少なくとも3年程度は現金化して資産を付け替えるなどの行為は目立つから控えたほうがよいとの判断によるものです。もちろん相続税を納めるために現金に換える必要があって売却することも想定されますが(この場合は譲渡所得税が軽減される特例あり)、相続税納付後3年以内に売却して現金化するといったケースは、租税回避行為と認定される可能性が高まります。

③借入金の完済予定日が購入者の平均余命を大きく逸脱していること

④購入者が近い将来相続の発生が予想されるような高齢者であること

いずれも被相続人の“年齢要件”です。③は借入金を起こすこと、④は自己資金で購入することを想定しています。例えば、借入金の完済予定日が100歳を超えていたり、95歳で数億円もの不動産購入を行ったりした場合などは、相続発生時にチェックが入ると考えておくべきです。

⑤主たる購入原資が借入金であること

借入金で資産を購入してもそれは当事者の自由ですし、購入資金を借り入れたことが取引上、都合が良いということはあり得ます。それでも資産を保有する者が借入金で購入することの合理性は確認される可能性が高いということです。

⑥路線価算定で相続税評価額が市場価格の50%以下となるような不動産であること

これはタワーマンション節税などが典型的です。タワーマンションの上層階は市場価格が高額ですが、相続税評価額はマンション前面に敷かれた相続税路線価によってほぼ一律に算定されるため、市場価格と相続税評価額には大きな差が発生することが少なくありません。相続税評価額と市場価格(鑑定評価額)の差が2倍以上の場合は、国税当局から確認を受ける可能性が高いと認識すべきでしょう。

⑦当該不動産購入に“相続税逃れ”以外の合理的な目的が見当たらないこと

上記①~⑥に該当するような状況や行為がなくても、国税当局が総合的に判断して相続税の軽減を主な目的とした売買であるとしか考えられないケースについては、調査の対象になる可能性があるということです。

このように、相続税に関連した不動産の評価および相続税の算定については、年々国税当局の“監視の目”が厳しくなっています。私たちは小規模宅地等の特例や、死亡退職金および生命保険金の非課税枠などを活用し、“適正な節税”によって、相続した資産を維持・活用することを考えたいものです。

 
中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

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