【不動産業の開業ノウハウ】事務所の設置要件について
不動産業を開業する場合、事務所の設置が宅地建物取引業法で定められています。事務所の設置には、専用の出入り口や独立したスペースの確保、専任の宅地建物取引士の設置など、さまざまな要件が設けられています。
これから不動産業界への参入を考えている方は、事務所の立地だけでなく、法令で定められた事務所の要件について知っておくことが重要です。
この記事では、開業に必須となる事務所の定義をはじめ、事務所を構える場所でどのような設置要件があるか解説します。なお、不動産業界で独立開業するまでの流れについては、こちらの記事をご覧ください。
目次[非表示]
- 1.宅地建物取引業法における事務所の定義
- 1.1.①本店または支店
- 1.2.②継続的に業務を行うことができる施設
- 1.3.③契約を締結する権限を有する使用人を置く
- 1.4.④専任の宅地建物取引士の設置
- 2.【場所別】事務所として認められる要件
- 2.1.①自宅の一部を事務所にする場合
- 2.2.②レンタルオフィスを事務所にする場合
- 2.3.③テナントを事務所にする場合
- 3.事務所に掲示・備え付けるもの
- 4.まとめ
宅地建物取引業法における事務所の定義
宅地建物取引業を営む場合、国土交通大臣または都道府県知事の免許を受ける必要があります。『宅地建物取引業法』第3条で、免許を受ける要件の一つとなっているのが“事務所の設置”です。
また、『宅地建物取引業法施行令』第1条の2と『宅地建物取引業法』第31条の3では、不動産業を営む事務所について、次の4つを定義しています。
▽宅地建物取引業法施行令第1条の2
① 本店または支店
② 継続的に業務を行うことができる施設
③ 契約を締結する権限を有する使用人を置く
▽宅地建物取引業法第31条の3
④ 専任の宅地建物取引士の設置
ここではそれぞれの要件について、以下で解説します。
(出典:e-Gove法令検索『宅地建物取引業法』『宅地建物取引業法施行令』)
①本店または支店
宅地建物取引業法上の事務所として施設を利用する場合は、会社法に基づいた商業登記が必要です。支店で宅建業務を行い、本店では行わない場合についても、本店は法律上は事務所という扱いになります。
(出典:国土交通省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』/埼玉県庁『免許要件① 事務所について』)
②継続的に業務を行うことができる施設
事務所の設置要件の一つに、宅建事業の営業活動の場として“継続的に使用できる施設”であることが挙げられます。
たとえば、以下のような場所は、継続的に業務を行える施設とはみなされません。
▼継続的に業務ができる場所としてみなされない施設例
- 月単位の契約期間で設備を賃借するマンスリーオフィス
- 建物として登記できないコンテナハウス
(出典:国土交通省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』/埼玉県庁『免許要件① 事務所について』)
③契約を締結する権限を有する使用人を置く
事務所には、常勤の政令で定める使用人(政令使用人)を置く必要があります。
政令で定める使用人とは、事務所の代表者で、宅建業に関わる契約を締結する権限を有する者のことです。『宅地建物取引業法施行令』第2条の2において、事務所への設置が義務づけられています。
使用人にあたる人物には、支店長や営業部長などが挙げられますが、同一営業所に限っては、政令使用人と専任の宅地建物取引士を兼ねることも可能です。
なお、使用人は事務所での常勤性が求められるため、他社の職員や代表取締役など常勤の職・地位についている場合は、原則として兼任できません。
(出典:国土交通省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』/埼玉県庁『免許要件① 事務所について』/e-Gov法令検索『宅地建物取引業法施行令』)
④専任の宅地建物取引士の設置
『宅地建物取引業法施行規則』第15条の5の3では、1つの事務所につき、業務に従事する者5人に1人の割合で、専任の宅地建物取引士を置くことが義務づけられています。
ここでいう専任とは、事務所に常勤して、宅建業務に従事することを専門とする状態を指します。専任の宅地建物取引士として認められないケースは次のとおりです。
▼専任の宅地建物取引士として認められないケース
- 通勤が不可能な遠方の地域に住んでいる
- 非常勤やパートのように、会社の営業時間より勤務時間が短い
- 別の勤務先の退社後に、宅建業務に従事する
- 大学に在学している
なお、宅地建物取引士の資格や試験については、こちらの記事で解説しています。
≫ 宅建を取得するメリットとは? 試験の合格率や難易度も解説
(出典:国土交通省『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』/埼玉県庁『免許要件① 事務所について』/e-Gov法令検索『宅地建物取引業法』)
【場所別】事務所として認められる要件
事務所にする施設の選択肢として、主に自宅・レンタルオフィス・テナントの3つが挙げられます。いずれの場合も、独立して専属的に使用できる施設を確保する必要があります。
ここからは、3つのケース別に事務所の設置要件について解説します。
①自宅の一部を事務所にする場合
自宅の一部を事務所にする場合は、居住空間と事務所を区別して、独立性を確保する必要があります。
▼設置要件を満たす例
- 居住用と事務所用とを分けた玄関があり、ほかの部屋を通らずに事務所までたどり着ける
- 事務所として使用する部屋は、ほかの部屋と壁で区切られており、居住空間と分けられている
- 事務所として使用する部屋はそれ以外の用途で使用しない
(出典:公益社団法人 全日本不動産協会 『開業までの流れ』『不動産開業における「事務所の必須要件」とは?』/埼玉県庁『免許要件① 事務所について』)
②レンタルオフィスを事務所にする場合
レンタルオフィスを事務所にする場合は、自社専用の入り口と、他社とは別の個室を設けるとともに、顧客との応接場所を確保する必要があります。
▼設置要件を満たす例
- ビルの入り口から他社のスペースを通らずに自社のスペースにたどり着ける
- 他社の事務所との間が、壁あるいは180cm以上の高さで仕切られている
- 固定されたパーテーションや間仕切りがある
(出典:公益社団法人 全日本不動産協会 『不動産開業における「事務所の必須要件」とは?』/埼玉県庁『免許要件① 事務所について』)
③テナントを事務所にする場合
テナントは、事務所の要件の一つである“専属的に利用できる”形態を満たしており、セキュリティやプライバシー保護の観点からも、好ましいとされています。
ビルに備わっている店舗用テナントは、セキュリティ管理が行われているほか、複数の法人・他社の顧客などが自社のスペースに出入りする心配がないことが一般的です。
不動産業は、取り扱う金額が高額なうえ、顧客の住所や収入などの個人情報を多数取り扱うため、セキュリティが強固な事務所が適しています。
テナントを選定する際は、人通りの多い路面に入り口がある、交通アクセスが良いなど、立地条件や人の流れを加味して選ぶことがポイントです。
(出典:公益社団法人 全日本不動産協会 『不動産開業における「事務所の必須要件」とは?』/埼玉県庁『免許要件① 事務所について』)
事務所に掲示・備え付けるもの
不動産会社の事務所には、『宅地建物取引業法』で掲示・備え付けが義務づけられているものが4点あります。
▼掲示・備え付けが必要なもの
- 報酬額の掲示(宅地建物取引業法第46条)
- 従業員名簿の備え付け(宅地建物取引業法第48条)
- 帳簿の備え付け(宅地建物取引業法第49条)
- 標識の掲示(宅地建物取引業法第50条)
報酬額と標識については、事務所ごとに公衆の見やすい場所に掲示する必要があります。帳簿には、取引に関わる建物の所在地や面積など、定められた事項の記載が必要です。
従業員名簿は、事務所ごとに備え付けるとともに、従業員の氏名や証明書の番号などを記載することが定められています。
(出典:e-Gov法令検索『宅地建物取引業法』/公益社団法人 全日本不動産協会 『不動産開業における「事務所の必須要件」とは?』/国土交通省北陸地方整備局『宅地建物取引業免許後における義務等について』)
まとめ
この記事では、不動産会社の事務所設置の要件について、以下の項目で解説しました。
- 宅地建物取引業法における事務所の定義
- 事務所として認められる要件
- 不動産会社の事務所に掲示・備え付けるもの
不動産業を開業するには、『宅地建物取引業法』で定められた要件を満たす事務所を構える必要があります。
自宅の一部やレンタルオフィスなどを事務所として利用する場合には、居住空間・他法人との空間を区別して、独立かつ専属的に利用できるスペースが必要です。
事務所の要件を満たすかどうか不明な場合は、都道府県庁の窓口へ事前に相談することもできます。
不動産業界で独立開業を考えている方は、今回挙げた事務所の要件を踏まえて、立地や物件選定を進めてみてはいかがでしょうか。
なお、以下の記事では、独立開業に向けた事前準備や開業の流れについて解説しています。併せてご確認ください。
≫ 不動産の独立開業への道! 事前準備や開業の流れを知ろう
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