賃貸不動産営業の成約率を上げるクロージングテクニック
本コラムは不動産賃貸仲介営業における「営業力向上」を目的とした、シリーズコラムです。
第4回までは、「LIFULL HOME'S 接客診断(以下接客診断)」の事例を基に、お客様が求める不動産営業像について考え、前回の第5回では、お客様が求める不動産営業像になるために必要な、潜在的ニーズを引き出すヒアリング術”についてお伝えしてきました。
第1回から見る:不動産賃貸仲介業界向け!来店率を高める初期対応の原則とは
今回は、成約につなげるためのクロージングの方法と気を付ける点について解説します。
本コラムでは、引き続き「顧客視点に立つこと」を意識し、今日から/明日から実践できるイメージを持つこと+相手の立場に寄り添った営業スタイルを身につけましょう。
(参考:LIFULL HOME'S 接客診断について詳しく知りたい方はこちら)
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自社で契約していただくために確認すべき6つのこと
2022年「不動産情報サイト利用者意識アンケート」では、お客様が住み替えを検討される際、約6割が2社以上不動産会社を訪問しているという結果が出ています。つまり複数の不動産会社を比較検討しているということです。
では、他社で決定されるのを防ぎ、自社で契約していただくためには、お客様とのコミュニケーションの中でどのような事項を確認しておくべきか、知っておきましょう。
≪確認事項≫
1 |
他社へすでに訪問をしているか |
---|---|
2 |
どの物件を内見したか、またその感想 |
3 |
なぜその会社へ訪問したのか |
4 |
なぜ当社へ訪問していただいたのか |
5 |
他社への訪問予定があるか、内見予定の物件は何か └自社でも案内が可能であることを伝える※案内が可能かどうかは必ず確認すること |
6 |
物件情報の流通の仕組みについて正しく伝える └ポータルサイト掲載の物件は自社でも取り扱いできる旨、ポータルサイトへ掲載される前の物件情報が取り扱えるため、お客様で探すのではなく自分に任せてほしいと伝え、定期的に物件情報を共有することを約束する。具体的にいつ送るかまで決めておく。 |
1から6までありますが、基本的なヒアリング内容と感じるかもしれません。しかし、6つすべてを100%ヒアリングできている方は少ないのではないでしょうか。また、これがなぜ他社の決定を防ぐことにつながるのか、ピンときていない方もいると思います。
そこについて、これから解説していきます。
1.他社へすでに訪問をしているか
2.どの物件を内見したか、またその感想
ポイント:過去に内見した物件の何が決め手に至らなかったのかを確認すること
上記は一連の流れでヒアリングできると思います。
もし、他の会社へ訪問していて、物件の内見までしているのに自社に来店されているということは、内見した物件で決まっていない可能性が高いことがわかります。
「ちょっと気になったので内見してきました。」といった検討度が最初から低かった可能性を除けば、基本的には他社、もしくは内見した物件が決め手に欠けているということです。
何が決め手に欠けているのかを確認することは、6項目の中で非常に重要です。
3.なぜその会社へ訪問したのか
ポイント:他社の強みを知り、自社も同じサービスが提供できること、より良いサービスが提供できることを伝えること
1で他社へ訪問している場合、なぜその会社に訪問したのかを聞いてみましょう。希望の物件を取り扱っていたから…ということもありますが、お客様が何かを期待して他社へ訪問している場合、その理由を知ることが自社のPRにつながってきます。
お客様が期待したサービスが、自社でも提供できる場合には、「うちの会社でもそのようなサービスがご提供可能です。」もし難しい場合でも、「他社と比較して、うちの会社ではこのようなサービスを提供できます。」といったことをお伝えができます。
要は、他社と比較検討していただくときに、きちんと自社の強み弱みを明確にお伝えできているか、という点が大切です。
4.なぜ当社へ訪問していただいたのか
ポイント:他社との比較で、自社に何を求めているかがわかる
お客様は、問合せをするまでに複数の不動産会社、物件を比較検討しています。あらゆる不動産会社の中で、自社を選んだ理由を知ることで、自社にお客様が求めていることがわかってきます。
5.他社への訪問予定があるか、内見予定の物件は何か
ポイント:自社でも案内が可能であることを伝える※案内が可能かどうかは必ず確認すること
6.物件情報の流通の仕組みについて正しく伝える
ポイント:ポータルサイト掲載の物件は自社でも取り扱いできることや、ポータルサイトへ掲載される前の物件情報が取り扱えることを話し、お客様で探すのではなく自分に任せてほしいと伝え、定期的に物件情報を共有することを約束する。具体的にいつ送るかまで決めておくこと
5と6は、伝え方によっては“強引”に他社へ行かせないようにしている印象を与え、お客様を不安にしてしまうため気をつけましょう。あくまで、お客様に正しい知識をお伝えし、選択肢を示す寄り添いの姿勢が大切です。
他社を見下すのではなく、比較した際に自社の強みをお伝えし、お客様に「あなたにお任せしたい」と選んでいただくためのコミュニケーションを意識します。他社について聞きにくいと感じることもあるでしょうが、会話の中で上記をきちんと聞けているかによって、その後の商談の組み立てや、ヒアリングすべきことが変わってきます。
確認事項を6つお伝えしましたが、ただ確認するのではなく、そこから自社のアピールにつなげていくことで、他社での決定を防ぐことにつながっていきます。
6つの確認事項を実践する前の準備
お客様とのコミュニケーションをとるうえでの確認事項をお伝えしましたが、実践するために重要なことが1つあります。
それは「自社の強み・弱みが明確になっているか」ということです。
先ほどの6つの確認事項をお客様にヒアリングしようと思っても、強み・弱みが明確になっていないとただの確認で終わってしまいます。お伝えしたように、他社で決まることを防ぐには、お客様に自社を選んでいただく必要があります。
自社(店舗)があるエリアで、競合となる他社と比較した際に、強み・弱みとなることをしっかりと言葉にできるように準備しておきましょう。とくに弱みとなる部分は、そこが懸念点となった場合の切り返しトークを準備しておくと安心です。
成約につなげるためのテストクロージングとは
テストクロージングというのは、最終的に「契約してください。」とクロージングする前段階で、意思確認をするものです。お客様が他社と比較検討されている場合、テストクロージングを意識するとよいでしょう。
テストクロージングをうまく活用することで、その後の対応でお客様の住み替え欲求レベルを高めることや、成約に向けたご提案がしやすくなります。具体的な方法はこのあとお伝えします。
テストクロージングで確認すべき3つのポイント
テストクロージングでは下記3つが確認ポイントです。
お客様がどのような考え方をして、どのような価値観を持っている方なのかを知ることで接客対応も変化させます。お客様のタイプに合わせることで、お客様に合ったご提案ができるため、「ここで決めようかな。」と思ってもらいやすくなります。
では、実際にどのように上記3つを確認していくのか、については次のトーク例でお伝えしていきます。
テストクロージングする際のトーク例
テストクロージングのトーク例として4つ挙げています。これをそのまま聞くことが正しいのではなく、どのようなことをクロージングの前に確認しておく必要があるのか、自社では必要なことが聞けているのかを振り返るポイントとして見てください。
1つめのトークのポイントは、
お客様の条件がすべてそろっている物件であれば、すぐに引越すのかどうか
これは第5回でお伝えした“欲求レベル”の確認です。お客様の欲求レベルが今どの段階なのかをしっかり把握し、まだまだ欲求レベルが低い段階の場合、引越ししたい気持ちから、引越ししなくては!という気持ちを醸成していくためのトークにつなげていきます。
第5回の内容を振り返る:不動産仲介営業向け!お客様の潜在的ニーズを引き出すヒアリング術
2つめは、初期費用についてです。
このトークをテストクロージング例であえて入れている理由としては、お客様から初期費用について聞かれることが多いからです。お客様から質問があればお答えすると思いますが、仮に聞かれずに内見・提案…と進み、最終のご契約段階で「え!初期費用ってそんなにかかるんですか」とお客様が予算として考えておらず、ご契約がなくなってしまうケースもあります。テストクロージングとお伝えしていますが、初期費用の予算については、早い段階で確認しておくとよいです。
3つめは、不安点をしっかり解消しておくためにも確認しておいたほうがよいでしょう。
不安に思っていることがあると、お客様が決め切れずに検討となってしまうケースがあります。結果、何がだめだったのかわからない…ということもあります。不安に思っていることを聞き出せるコミュニケーションが大事です。
最後は、お客様の本気度をはかるトークです。接客の中で、「キャンペーンありませんか」「値引きできませんか」といったご相談を受けることがあると思います。
そこで「確認します!」ではなく、しっかりと「この条件が希望通りになったら、ご契約いただけますでしょうか」といった聞き方ができると、お客様の本気度(検討度)がわかります。
4つトーク例を挙げましたが、これがすべてではありません。ぜひトーク例を参考にして、ご自身なりのテストクロージングを実践してみてください。
テストクロージングがうまくいかない場合
テストクロージングのトーク例をお伝えしましたが、必ずしもお客様が前向きな答えを返してくれるわけではありません。そんな「NO」が返ってきた場合、対応で意識するポイントについてお伝えしていきます。
上記トーク例を見てください。お客様へ質問をした際に、「えーと、どうだろう…」と何か気になっていることはありそうでも、話していただけないといったケースがあるのではないでしょうか。
なぜこのような例を挙げているかというと、意外とここから先のヒアリングができていない方が多いからです。「えーと、どうだろう…」には、すぐに引越さない理由が言語化できないところにあるのかもしれません。
そこでもう1つ質問を重ねていくと、「実はすぐに引越すかどうか決めてきたわけじゃないんです。」という正直な気持ちが聞けるかもしれません。ただ、そこで諦めてしまうのではなく、迷いは否定せず、共感したうえで再度動機・条件を確認していきましょう。
例えば、ご自身の体験や他のお客様の体験談として、「なんとなくいい物件があったら引越したいと考えている方も多いですよ」という共感を伝える言葉をいれるだけで、お客様も気持ちが楽になり、改めてヒアリングをしやすくなります。そこから「ちなみに…」と別の動機や条件を一緒に確認・整理していくことで、「引越したい」から「引越さないと!」と欲求レベルが高くなり、時期を早めることにがつながります。
「NO」が返ってきた場合、そこで諦めたり、無理にクロージングをするのではなく、しっかりとヒアリングをすることで、お客様自身に意思決定していただくことが大切です。
成約率をあげるためのクロージングテクニックまとめ
ここまで、自社で決めるための確認事項やテストクロージングについてお伝えしてきました。どちらにおいても“ヒアリング”が大切です。そこで意識していただきたいのは、
欲求レベルを測りながら、適切な量とタイミングで情報を提供することです。
ご自身のトークは2割、残りの8割はお客様に話していただくことを意識します。
ここでポイントなのは“意識すること”です。不動産会社の方がお客様にお伝えする情報は多いと思います。トーク割合を意識せずに話すと、8割~9割を不動産会社様がお話ししている、なんてことになるかもしれません。
まずは2割を意識することで、結果として半々の割合で自身とお客様がお話ししている状況になるのが理想です。ぜひトーク割合を意識して、テストクロージングの実践をしてみましょう。今までクロージングできていなかったケースが成約につながるかもしれません。