擁壁トラブルを防ぐ仲介実務|現地調査と法令確認、重説の記載方法を解説

傾斜地や高低差のある土地取引において、「擁壁」の取扱いに悩む仲介担当者の方も多いのではないでしょうか。
擁壁が関連する不動産売買では、物件だけでなく擁壁についても法令の適合性や将来的な是正の必要性について、正確な説明が求められます。
本記事では、擁壁のある物件を安全に取引するために欠かせない現地調査のポイントや、トラブルを未然に防ぐ重要事項説明書の実務について、裁判例を交えて解説します。
不動産取引で擁壁トラブルに注意すべき理由
不動産の所有者には物件を適切に維持管理する義務があり、擁壁についても、その安全性や適法性を守る必要があります。
仲介する不動産会社においても、単に「古い擁壁がある」「ひび割れがある」と現況を説明するだけでは不十分です。過去の裁判例を見ても、将来的に再構築が必要になる可能性や法的制限にまで踏み込んで説明しなければ、説明義務違反を問われるリスクがあります。
また、擁壁の再構築には数百万円から1,000万円を超える費用がかかるケースもあり、法的責任を問われた場合、仲介手数料を遥かに上回る損害賠償の支払いに発展しかねません。
さらに、検査済証のない不適格擁壁は金融機関の担保評価にも影響し、買主が住宅ローンを利用できない可能性がある点にも注意が必要です。
擁壁について仲介担当者が行うべき調査と説明
擁壁が関係する土地取引において、仲介担当者が行うべき調査と説明について解説します。
擁壁の簡易チェック
擁壁が崩壊する大きな要因が、雨水が抜けずに土圧が上昇することです。国交省の「我が家の擁壁チェックシート(案)」などを参考に、現地で目視確認を行い、排水状況と変状(ひび割れや変形など)をチェックしましょう。
排水機能 |
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変状 |
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DIY型賃貸はオーナー・借主だけでなく、不動産会社にとっても新たなビジネスチャンスを生む可能性がある手法といえます。
不適格擁壁の場合の対応
現地調査で以下のような擁壁であることがわかった場合、現行の建築基準法には適合しない既存不適格である可能性が高いと判断してください。
二段擁壁 | 古い擁壁の上に新しい擁壁が継ぎ足されているもの |
増し積み擁壁 | 擁壁の上にブロックや別の石積みが施工されているもの |
空石積み擁壁 | 石やブロックを積み上げ、目地にセメントが充填されていない擁壁 |
張り出し床版付擁壁 | 擁壁の上部に床版を張り出して設けているもの |

(出典:宅地擁壁について|国土交通省)
これらの擁壁は、法的・構造的に安全性が担保されていません。購入希望者には、将来の建て替え時に行政から是正工事を指導されるリスクがあることなどを説明する必要があります。
擁壁にまつわる法律・法令の確認
現地確認と並行して、擁壁に関する法律・法令について確認を行います。
● 建築基準法
高さ2mを超える擁壁については、建築時に検査済証が交付されているか確認します。検査済証がない場合、適法でない可能性があるため再建築時の指導内容を確認します。
● 宅地造成および特定盛土等規制法
対象地が規制区域内であれば、宅造許可や検査済証があるかを確認します。なければ宅造許可以外で造られた擁壁の可能性があります。
● 自治体の条例
高さ2m以下の擁壁であっても、自治体のがけ条例の対象となり、「擁壁の高さの2倍以上の距離を空けて建築」といった制限がかかるケースがあります。
擁壁トラブルを回避する重要事項説明の記載方法

擁壁トラブルを回避するための重要事項説明の記載方法を、判例を踏まえつつ解説します。
判例に学ぶ説明義務違反のリスク
擁壁に関する説明義務違反があったとして、仲介した双方の不動産会社に対し、約2,000万円もの賠償を命じた判例(東京地判 平28・11・18)を紹介します。
事案の概要 | がけ条例に違反する擁壁がある中古住宅の取引です。 仲介担当者は、条例違反や検査済証がないことを認識していたにもかかわらず、買主に明確に伝えていませんでした。 重要事項説明書には「擁壁には土圧によるひび割れや傾きの可能性もある」「買主は対象不動産の周辺環境、隣接地の状況、周辺施設等を確認したうえで、売買契約を行う」など、物理的なリスクのみを記載していました。 |
裁判所の判断 | 重要事項説明書の記載は「土地の物理的な状況を記述したにすぎず、法令違反(がけ条例違反)の状態を説明したことにはならない」とし、売主側・買主側双方の仲介不動産会社に対し、条例違反を解消するための擁壁設置費用など、約2,082万円の損害賠償を命じました。 |
本件では、重要事項説明の作成は売主側の不動産会社が行ったものの、買主側の不動産会社が独自の調査・説明を怠ったとして連帯責任を負いました。
擁壁トラブルを防ぐ重説記載例
擁壁トラブルを防ぐには、生じうるリスクを買主に正しく認識してもらう必要があります。
一例として、検査済証がない擁壁がある場合の重要事項説明の記載例を紹介します。
▼記載例
対象不動産の敷地内○側に存する擁壁については、建築基準法に基づく検査済証が存在せず、現行の法令に抵触している可能性があり、対象不動産建物を増・改築、再建築する場合、所轄官庁から当該擁壁の築造替や補強工事などの指導を受ける場合があります。 また、対象不動産に建物の建築等を行わない場合も、擁壁下の土地所有者等から、当該擁壁の大規模な補修や築造し直しを求められる場合があります。擁壁の再築造や改修などには多額の費用が生じますが、すべて買主の負担となることを容認するものとします。 |
擁壁の再構築・補修費用相場
既存擁壁に問題がある場合、擁壁の再構築や補修にはどれくらいの費用がかかるのでしょうか。買主に資金計画を提案するためには、費用相場を知っておく必要があります。
・擁壁の新設・再構築
擁壁といってもさまざまな構造・工法がありますが、最も多く採用される「RC(鉄筋コンクリート)擁壁」の費用は、1m2あたり3万〜10万円程度が目安です。
たとえば、高さ2m、長さ10m(20m2)の擁壁の新設には、60万~200万円程度の費用が必要になります。重機が入らない狭小地や残土の搬出量が多い土地ではさらに高くなる傾向です。
すでに擁壁がある場所に再構築する場合は、既存擁壁の解体費も必要となります。相場は1m2あたり5,000~3万円程度と、擁壁の種類で費用が異なります。
・既存擁壁の補修費用
既存擁壁の主な補修費用の相場は以下のとおりです。
水抜き穴の設置 | 3万円~/1ヶ所 |
ひび割れの補修 | 3万円程度/1m |
石積み補強工事 | 4万~10万円/1m2 |
なお、自治体によって擁壁の設置や補修に対する助成金制度を設けている場合があります。たとえば横浜市では、一定の条件のもと、がけ崩れの未然防止のための擁壁工事や解体除去費用として、上限400万円(対象工事費の3分の1などの条件あり)の助成を受けられます。
(参照:崖地防災対策工事助成金制度|横浜市)
まとめ
擁壁が関連するトラブルが発生した場合の損害賠償額は大きく、仲介する不動産会社にとってはリスクの高い取引です。しかし、現地調査や関連する法令の確認を徹底し、正確な情報のもと、顧客に納得して購入してもらえればトラブルは防げます。
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