不動産クラウドファンディングとは? 仕組みや社会に与える影響を解説
近年、不動産クラウドファンディングの人気が上昇傾向にあり、市場に参入する事業者も増えつつあります。「自社も参入したほうがよいのだろうか」と悩んでいる事業者もいるかもしれません。しかし、不動産クラウドファンディングへの参入には、クリアしなければならないハードルがいくつか存在しています。
本記事では、不動産クラウドファンディングの仕組みや市場規模、社会に与える影響について見ていきます。参入するにあたって必要な要素も解説するため、これから不動産クラウドファンディングに参入しようと考えている事業者の方の参考となるでしょう。
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不動産クラウドファンディングとは
不動産クラウドファンディングとは、複数の投資家から出資を募り、集まった資金で不動産投資を行う手法です。事業者がインターネット上で小口化した不動産を販売することで、投資家は比較的少額の資金で不動産投資に参加できます。投資で得た家賃収入や売却益は、出資額に応じて投資家に還元される仕組みです。
不動産クラウドファンディング事業を行うにあたっては、不動産特定共同事業法の電子取引業務の許可を得る必要があります。
不動産クラウドファンディングが生まれた背景
「不動産特定共同事業法」は不動産市場が低迷していた状況を打開するために、1995年に施行されました。この法律は、銀行の不良債権問題や地価の下落に対処し、不動産市場を活性化させることを目的としています。
しかし、不動産特定共同事業の許可を得るためのハードルは高く、不動産ファンドビジネスの発展が難しい状況でした。そこで、2017年に同法が改正されることになります。
この改正では、小規模不動産特定共同事業の特例が導入され、一定の要件を満たすことで、小規模事業の範囲内であれば、登録制で事業を開始できるようになりました。さらにインターネット上で書面交付や投資募集を行うための規定も整備され、インターネット時代に適した不動産投資の形が出来上がったのです。
(出典:国土交通省 不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック)
不動産クラウドファンディングの市場規模は年々増加
不動産クラウドファンディングの市場規模は年々増加しています。
国土交通省が公表している「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」によると、不動産クラウドファンディングの出資額は、2018年は12億7,000万円にとどまっていたところ、2022年には604億3,000万円と、約48倍まで成長しています。
(出典:国土交通省 不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック)
また、不動産クラウドファンディングの件数も2018年の26件から、2022年では419件と右肩上がりで伸び続けています。これらのデータから、不動産クラウドファンディングに参入する事業者とサービスを活用する個人投資家が増加傾向にあることがわかります。
不動産クラウドファンディングが社会に与える影響
不動産クラウドファンディングは国土交通省によって整備されている、社会にとって重要性の高い仕組みです。ここからは、不動産クラウドファンディングの発展が社会にどういった影響を与えるかを見ていきます。
資金調達難の解消
不動産クラウドファンディングが発展することで、事業者は資金調達難を解消しやすくなります。
地方の物件や空き家などの開発に対しては、金融機関からの融資を受けにくいのが現状です。また、仮に融資を受けられたとしても、担保価値が低いと融資額も少額になってしまいます。こうしたこともあり、資金不足が原因で計画を断念せざるを得ないケースも少なくありません。
そこで不動産クラウドファンディングを活用することで、全国の個人投資家から資金を集めることができ、地方の物件などに対する資金調達がしやすくなるのです。
地域経済の活性化
不動産クラウドファンディングはまちづくりの自分事化を図ることにつながり、地域経済の活性化を促せます。
たとえば、まちのシンボルとなるような不動産開発を行う場合、地域住民の関心や興味が十分でなければ、開発後の稼働率は低迷し、事業が失敗に終わるケースもあるでしょう。 そ
の点、不動産クラウドファンディングを利用すれば、地域住民自身がプロジェクトに対して直接投資することが可能となり、結果として地域に対する関心や責任感が高まりやすくなります。
さらに、地域住民が投資に参加することで、そのプロジェクトが地域の文化や歴史を尊重したものであるか、地域に根ざした持続可能な開発であるかという意識が加わり、より質の高いまちづくりを期待できます。
行政負担の圧縮
不動産クラウドファンディングは行政負担の圧縮にも貢献します。
歴史的価値の高い建築物の場合、自治体が保存や改修を行おうとしても、財政難のために実行できなかったり、維持できなかったりするケースがあります。
また、所有地を活用して必要な施設の開発を行いたいけれど、あまりコストをかけられない自治体もあるでしょう。
こういった場合に不動産クラウドファンディングを活用することで、自治体が目指す地域活性化を応援したい人々から資金を調達でき、行政負担を圧縮しながら重要なプロジェクトを推進することができるのです。
個人投資家に与えるメリット
ここからは、個人投資家が得られるメリットを紹介します。主なメリットは次の3つです。
- 少額から投資できる
- インターネットを介して簡単に契約できる
- 高い利回りが期待できる
順に詳しく見ていきましょう。
少額から投資できる
通常、実物不動産に投資する場合は数百万円~数千万円の資金が必要であり、銀行から融資を受けて買い付けることが一般的です。そのため、年収が高い場合や、まとまった資産を保有している場合でないと、不動産投資に参加することが困難でした。
しかし、不動産クラウドファンディングでは、まとまった資金を用意できなくても、1万円や10万円程度の少額資金ですぐに不動産投資を始められます。
インターネットを介して簡単に契約できる
不動産クラウドファンディングは、物件選びから契約まで、すべての手続きをインターネット上で行えます。実物不動産のように対面で売買契約や賃貸借契約の締結をする必要がなく、手間がかかりません。
時間に余裕がない方でも、スマホやパソコンだけで手軽に投資ができるでしょう。
高い利回りが期待できる
不動産クラウドファンディングは預貯金や債券といった金融商品よりも高い利回りが期待できます。不動産クラウドファンディングの平均利回りは5%を超えており、物件によっては10%を超えるものも存在します。
ただし、不動産クラウドファンディングは元本が保証されておらず、市場の状況によっては元本割れを起こしてしまうことも考えられます。リスクを十分理解して取り組む必要があるでしょう。
不動産クラウドファンディングに参入するために必要なこと
不動産クラウドファンディングは市場規模が年々拡大していることもあり、新規参入を検討している事業者も多いかもしれません。 ここからは、新規参入するにあたって必要なポイントを解説していきます。
ITシステムの導入
まずはシステムの導入です。不動産クラウドファンディングはインターネット上で取引が行われるため、効率的で安全なITシステムが不可欠です。これには、プラットフォームの開発や、データの安全を保つためのセキュリティ対策といったシステムの構築が必要になるでしょう。
不動産クラウドファンディングではインターネット上で以下の作業が行われます。
【募集】
- 物件紹介
- 投資家登録
【契約】
- ファンド申し込み
- 契約時書面作成
【分配】
- 分配金の払い込み
- 源泉徴収
- 支払調書の作成
これらの作業は金融商品取引法や不動産特定共同事業法といった法律に基づく必要があるため、弁護士などの専門家と共同で導入を進めていくことが重要です。
高利回りの維持
不動産クラウドファンディングで効率的に資金調達するためには、高利回りの物件を提供することが重要です。同業との競争だけでなく、ほかの金融商品よりも高い利回りを維持する必要があります。
不動産クラウドファンディングには、分配金を受け取った投資家が節税効果を期待できる制度がありません。投資信託や株式投資であればNISAなどの税制優遇制度を活用でき、保険商品であれば生命保険料控除などを活用できますが、不動産クラウドファンディングにはこうしたものがないのです。
そのため、不動産クラウドファンディングが提供する利回りがほかの金融商品と同程度だとしても、実質的な利回りで劣ってしまうため、投資家は魅力を感じにくくなります。
物件の確保
近年は不動産クラウドファンディングの人気が高まっており、事業者が新たな物件を公開後すぐに予定の資金調達額に達してしまい、募集が締め切られてしまう状況です。そのため、毎月安定して魅力的な物件を提供しなければ、投資家は競合他社に流れてしまう可能性が高まります。
また、高利回りの物件を安定的に提供し続けていくためには、事業者側の物件の価値を見極める能力も重要です。良質な物件を定期的に提供することが、投資家を引きつけ、ビジネスの持続性を高める鍵となるでしょう。
不動産クラウドファンディングの今後の成長に期待
不動産クラウドファンディングは、複数の投資家から出資を募り、集まった資金で不動産に投資する手法です。不動産クラウドファンディングの市場規模は急拡大を続けており、新規参入する事業者も増加中です。
クラウドファンディングの発展によって「地域経済の活性化」や「行政負担の圧縮」が期待できるため、社会全体にとってもよい影響を与えると考えられます。
現在は、事業者が新たに物件を公開してもすぐに募集が締め切られてしまう状況であることから、まだまだ需要と供給が安定していない状況です。これは、不動産クラウドファンディングの成長余地が大きいことを潜在的に示しており、今後さらなる発展が期待できるといえるでしょう。
(出典:国土交通省 不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック)
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