マンションの修繕積立金が不足する理由と対策。値上げするときの注意点も解説
マンションで安全・快適な生活を送り、なおかつ資産価値を維持するために必要な修繕積立金ですが、長期修繕計画に対してこの積立金が不足しているマンションも少なくありません。
この記事では、マンション修繕積立金の不足や値上げの現状を踏まえたうえで、管理会社として把握しておきたい修繕積立金が不足する要因や対処法について解説します。
目次[非表示]
- 1.マンション修繕積立金の不足・値上げの状況
- 1.1.修繕積立金の相場
- 1.2.約4割の管理組合が計画に対して不足
- 1.3.修繕積立金の増額幅はおよそ3.6倍
- 2.修繕積立金の不足・値上げの背景
- 2.1.段階増額積立方式の採用
- 2.2.長期修繕計画の見直しがされていない
- 2.3.割高な大規模修繕工事
- 2.4.管理組合の合意形成が難しい
- 2.5.物価や人件費の高騰
- 3.修繕積立金の不足に対する対策
- 4.大規模修繕工事の依頼先や見積もりを見直す
- 5.修繕積立金を値上げするときの注意点
- 6.まとめ
マンション修繕積立金の不足・値上げの状況
最初に、国土交通省の調査を基に、マンションの修繕積立金の相場や積み立て状況について紹介します。
修繕積立金の相場
令和5年度マンション総合調査によると、1戸当たりの修繕積立金は月額1万3,054円となっています(駐車場使用料・専用使用料からの充当額除く)。
規模別で見た場合、総戸数が少ないほど修繕積立金は高い傾向にあり、30戸以下のマンションでは全体の平均より月あたり1,000円~2,000円ほど高くなっています。
参照:国土交通省「令和5年度マンション総合調査」
約4割の管理組合が計画に対して不足
長期修繕計画に必要な修繕積立金が現在の残高を上回ると回答した管理組合は全体の36.6%にのぼり、つまり約4割の管理組合が計画に対して積立金が不足している状態です。
一方、長期修繕計画に必要な金額よりもすでに積み立てた残高のほうが多い管理組合も同じく4割程度です。残りの2割の管理組合が不明と回答しており、修繕積立金が計画どおり積み立てられているかがわからない管理組合も一定数あることがわかります。
修繕積立金の増額幅はおよそ3.6倍
修繕積立金の積立方式について、全体のおよそ半数のマンションが段階積立方式、そのほか・不明のマンションを除く約4割が均等積立方式を採用しています。
加えて、2020年以降完成のマンションについては約86%と完成年次が新しいマンションほど段階積立方式の割合が高い傾向です。
また、段階増額積立方式のマンションについて、長期修繕計画の計画当初から最終計画年までの積立金の値上げ幅を調査したデータもあります。このデータによると、値上げ幅の平均は約3.58倍となっており、新築時の修繕積立金が月あたり8,000円とすると最終的には2万8,640円まで増額することになります。
つまり、これだけの段階的な値上げができなければ、修繕積立金が不足する可能性があるということです。
参照:国土交通省「今後のマンション政策のあり方に関する検討会とりまとめ参考資料集」
修繕積立金の不足・値上げの背景
ここでは、修繕積立金が不足する理由、必要な値上げが行われていない背景について解説します。
段階増額積立方式の採用
修繕積立金が不足する理由として、段階増額積立方式が採用されているものの、必要なだけの値上げが実施されていないことが考えられます。
国土交通省の調査では、計画どおりの額まで増額できた割合は約6割にとどまり、約3割のマンションが計画どおりの値上げができていないと回答しています。
また、そもそも新築時の設定金額が低すぎることも、必要な額までの値上げを難しくする要因の一つです。新築マンションを販売しやすくするために、当初の修繕積立金の額が低く設定されているケースは少なくありません。
参考:修繕積立金の積立方式(完成年次別)
出典:国土交通省「今後のマンション政策のあり方に関する検討会とりまとめ参考資料集」
長期修繕計画の見直しがされていない
長期修繕計画の見直しが定期的に行われていないマンションほど、修繕積立金が不足する可能性が高まります。長期修繕計画ガイドラインでは、計画期間の目安について「30年以上かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上」と定義しており、5年ごとに見直す規定を設けることを推奨しています。
長期間におよぶ修繕計画を立てる際には、台風や地震といった自然災害による計画外の修繕費用や、建築費・人件費の上昇を反映させることが重要です。
割高な大規模修繕工事
大規模修繕工事の費用が割高になっていることも、修繕積立金不足の要因として考えられます。適正な価格で発注するには、見積書に記載の資材の数量や単価が間違っていないか、諸経費が適正であるかなどをチェックすることが重要です。
また、外部のコンサルタントなどを活用しながら複数の工事会社の見積もりを比較することで、工事内容と金額の妥当性を確認できます。
建築価格が上昇傾向にあるものの、工事費用が割高になっていないか、適正であるかは確認しておきたいものです
管理組合の合意形成が難しい
修繕積立金の値上げが必要にもかかわらず、管理組合で合意形成ができず、修繕積立金が不足しているケースもあります。
区分所有者たちで形成される管理組合においては、「高齢のため積立金を支払えない」「ほかのマンションはそこまで高くない」などの反対意見が出ることも予想されるため、値上げは段階を踏んで慎重に進める必要があります。
物価や人件費の高騰
物価や人件費の高騰によって、想定されていた修繕積立金では不足するケースもあります。
特に昨今は、円安や原油高、労働人口の減少に伴い、建築資材や輸送コスト、人件費が高騰しています。
修繕コスト自体の上昇を見込んでいなければ、長期にわたる修繕計画では、計画段階で必要な費用を見積もっていたとしても、実施段階で資金がショートする可能性があります。
修繕積立金の不足に対する対策
ここでは、修繕積立金が不足した場合の対策について紹介します。
マンションの管理体制を見直し修繕積立金に充てる
マンションの管理体制を見直すことで管理費を削減し、修繕積立金に充てる方法が考えられます。具体的には以下のような見直しが挙げられます。
・エレベーターのメンテナンス契約を変更する
・定期清掃や植栽管理の回数を見直す
・管理人の勤務時間帯を短縮する など
また、消防設備や建築設備の点検、水道設備の調査費用の内容と金額を改めて見直すことで、コストを削減できる可能性があります。
安全性や快適性を維持しつつ管理費を削減し、同時に修繕積立金の不足分を充足するための値上げを行うようにすれば、区分所有者の同意を得やすくなるでしょう。
マンションの快適性は保ちつつも、コスト削減が図れるものはないか見直してみましょう
大規模修繕工事の依頼先や見積もりを見直す
大規模修繕工事の依頼先や見積もりを見直すことで、コストを下げられる可能性があります。工事費を抑えるには、建物調査と住民アンケートから必要な工事項目、施工範囲となっているか、再度見直すことも必要です。
限られた予算の中では、場合によっては重要度が高い部分に絞って修繕工事を実施することも考えられます。
そのうえで工事範囲や使用する材料、施工方法などを明確にする仕様書を作成し、候補となる複数の工事業者を選定し見積もりを依頼しましょう。
見積もりの内容について、数量や単価は適正か、材料の詳細や金額の根拠が記載されているかなどを改めてチェックすることが重要です。専門的な知識も必要となるため、建築士などの専門家に依頼してもよいでしょう。
参考:修繕積立金の積立状況
(出典:国土交通省「今後のマンション政策のあり方に関する検討会とりまとめ参考資料集」)
修繕積立金を値上げするときの注意点
修繕積立金を値上げすると、すべての区分所有者の経済的負担が増えます。そのため、いきなり総会に提案するのではなく、段階を踏んで慎重に進めることが重要です。
まず、長期修繕計画を基に、大規模修繕工事の資金計画を確認します。長期修繕計画の精度に不安がある場合は、設計事務所やマンション管理士に新たな長期修繕計画の作成を依頼してもよいでしょう。
計画が決まった後は、いつ頃にいくら修繕積立金を値上げするかを検討します。状況に応じて、複数の値上げパターンを提示してアンケートを実施するなど、区分所有者の合意形成を図ることが大切です。
最後にアンケート結果を基に理事会の方針を決め、総会での決議に進みます。さまざまな意見があるなかで修繕積立金の値上げを行うには、合意形成ができているかを意識しながら、慎重かつ確実に手続きを進めることが大切です。
まとめ
住みやすいマンションを維持するためには、大規模修繕工事を実施できる資金を積み立てることが欠かせません。
十分な金額を積み立てるためには、まず長期修繕計画を定期的に見直し、必要な積立金額を正確に把握しておくことが大切です。
そのうえで、区分所有者にマンションの現状を理解してもらい、合意形成を図りながら慎重に修繕積立金の値上げを進めることが重要といえます。
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