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コロナ後を見据えた賃貸市場の回復期はいつから始まるか

LIFULL HOME’S総研の中山です。

コロナ禍が収束する方向に進み始め、外国人旅行者の受け入れ人数も緩和されるなど、日常を取り戻す試みが始まっています。観光関連事業は人が来ないと何事も始まりませんから緩和策は歓迎すべきですが、不動産事業にも良い影響があります。

旅館やホテルなど観光事業に直接関わっている不動産セクターは確実に活性化しますし、民泊事業も息を吹き返す可能性があります。またコロナで大打撃だった飲食店も、空き店舗が活用されることで地域経済の活性化にもつながっていくことでしょう。

一方で、仕事の効率化という意味でテレワークやオンライン会議は今後も継続しますから、コロナによって生活スタイル全般が変化したことには疑いの余地はありません。コロナ禍を経てコロナ前に戻るもの、コロナで変化するもの、また新たに生まれるもの、これらを受け入れつつ日々の業務に取り組みたいものです。

目次[非表示]

  1. 1.2022年初から賃貸物件の空室率が明確に改善し始めた
  2. 2.大阪・名古屋・福岡では首都圏のようなエリア内偏在も変化も起きず

2022年初から賃貸物件の空室率が明確に改善し始めた

少し前のことですが、2022年初はコロナ禍の第6波が全国を覆い、緊急事態宣言および蔓延防止等重点措置が発出されていたため、全国で最も賃貸住宅の需要が多い首都圏および東京都においても、特に単身者向けの物件を中心に空室率が2020年以降高止まりする状況にありました。

その傾向が、若年層へのワクチン接種が以前にも増して積極的に行われるようになった昨年夏以降、変化し始め、2022年に入ってからは空室率が縮小する方向に動いています。

これに伴って、都心ではやや弱含み、準近郊・郊外エリアでは若干上昇していた相場賃料がいずれも横ばいへと変化し始めました。つまり、首都圏においてはコロナ禍で継続していた都心からの脱出、賃料コストの負担軽減、居住性と快適性を求めた郊外方面への転居といったいくつかのトレンドにも変化が表れたと見ることができます。

ただし、住宅着工統計によると東京都内の賃貸住宅着工数は毎月5,500戸前後で安定しているのに対して、世帯数および東京都の移動人口は2021年後半以降も減少および転出超過に歯止めが掛かっていなかったため、明らかな供給過剰状態にありました。日本銀行の金融システムレポートによると、2020年以降の首都圏賃貸住宅在庫件数は1年強の期間で10万戸から20万戸へと2倍に膨らんでいます。

このため、一部の地域では新築の募集時点からフリーレント期間の設定を余儀なくされる物件も散見され、都心の賃貸住宅市場の縮小が指摘されたのですが、これも2022年に入ってからは世帯数と移動人口の回復によって不安材料が減少しています。

このような状況を考える限り、首都圏、特に東京23区と東京都内における賃貸住宅需要は、コロナ禍を脱し、回復基調を示し始めたと見ることができます。

ちなみに、周辺3県ではコロナ禍においても空室率は東京都および東京23区のような大きな変化はなく、県ごとにおおむね横ばいから若干の縮小で推移しています。これは都心離れしたユーザーが周辺3県に転居し、それ以上外側のエリアには拡散しなかったことを意味しています。

つまり、コロナ禍における首都圏の賃貸ユーザーは、東京都からは出ていったが首都圏からは出ていかなかったということになります。首都圏域内での賃貸ユーザーの“偏在”がこのような現象を起こしたと見るべきでしょう。

大阪・名古屋・福岡では首都圏のようなエリア内偏在も変化も起きず

一方、首都圏以外の都市圏では、コロナの影響による市街地中心部での賃貸ユーザーの減少傾向、および相場賃料の弱含みといった状況はほぼ発生していません(2020年4月の第1回緊急事態宣言時に若干の賃料弱含みは見られました)。

現状でも大阪・名古屋および福岡などの都市圏における市街地中心部の賃貸住宅市場はコロナ前から大きな変化はなく、安定推移しているという見方ができます。空室率の推移はいずれの都市圏でも前月比で1%以内にとどまっていることから、需要と供給のバランスは安定しています。

では、なぜこのような賃貸住宅市場の違いが発生したのでしょうか。

それは首都圏と首都圏以外の地域特性によるものでした。首都圏は東京都だけでなく周辺3県も含めた広大な圏域があり、都心から電車で1時間程度郊外方面に転居しても生活圏としての違いは大きくありません。対して大阪・名古屋・福岡は圏域が首都圏ほど広くないので、同じく郊外方面に1時間程度離れると生活圏が大きく異なってしまい、具体的な居住イメージが持ちにくくなります。

また、首都圏では、都心周辺と郊外エリアの賃料相場には2倍以上の格差があって転居することの経済的メリットが明らかですが、首都圏以外ではその差が1.5倍以下で、郊外方面に転居しても、転居コストを考慮するとメリットを享受しにくいのです。

何より郊外へ転居するための前提となるテレワークの実施率が首都圏と首都圏以外では大きく異なり、首都圏では東京都のテレワーク実施率が2021年のピーク時で65%に達したのに対して、首都圏以外では高くても30%以下という調査結果が出ています(人材派遣関連のパーソル総合研究所によれば、大阪府のテレワーク実施率は2021年8月時点で28%でした)。

これはテレワークに親和性の高い金融・保険・情報通信などの業種がほぼ東京都内に集中していること、またテレワークを実施しやすいとされる従業員規模の大きい企業が同じく東京都内に多いことなどが背景にあります。コロナ禍における労働環境の違いが、このようなマーケットの違いを明確にしました。

このような市場動向を見ていくと、首都圏における賃貸市況はすでに底を打っていて回復基調にあること、首都圏以外の都市圏ではコロナ前から市況自体には大きな変化がなく堅調といえること、がわかります。コロナで激変したといわれる賃貸住宅市場ですが、冷静に状況を俯瞰することが大切です。

 
中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

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