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高齢者と賃貸借契約を結ぶ際の注意点とトラブル回避のポイント

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内閣府の『令和3年版高齢社会白書』によると、2020年10月1日時点で日本の総人口1億2,571万人のうち、高齢者(65歳以上)の占める割合は28.8%となっています。さらに、2036年には33.3%まで上昇して、3人に1人が高齢者になる社会が到来すると推計されています。

今後も高齢化が進むなか、高齢者が暮らすための“サービス付き高齢者向け住宅”をはじめとする、賃貸住宅の需要も高まると考えられます。

賃貸仲介・管理会社は、高齢者と賃貸借契約を結ぶ際の注意点について理解したうえで、トラブル回避のための対策を講じることが重要です。

この記事では、高齢者と賃貸借契約を結ぶ際の注意点とトラブル回避のポイントについて解説します。

(出典:内閣府『令和3年版高齢社会白書』)

目次[非表示]

  1. 1.高齢者と賃貸借契約を結ぶ際の注意点
  2. 2.認知症や持病の悪化から派生するトラブル
  3. 3.孤立死から派生するトラブル
  4. 4.契約解除・残置物処理から派生するトラブル
  5. 5.高齢者との賃貸借トラブルを回避するポイント
    1. 5.1.①入居者の相続人を連帯保証人にする
    2. 5.2.②家賃保証会社を利用してもらう
    3. 5.3.③保険に加入する
  6. 6.高齢社会に求められる賃貸住宅のあり方
  7. 7.まとめ

高齢者と賃貸借契約を結ぶ際の注意点

総務省の『平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計』によると、65歳以上の高齢者世帯数は2,253 万4,000世帯です。そのうち、借家(賃貸住宅)に住んでいる世帯の割合は、単身世帯が33.5%、夫婦のみの世帯が12.5%となっています。今後、高齢化の進展に伴って、賃貸住宅の需要はさらに高まると考えられます。

そうしたなか、高齢者が賃貸住宅に入居するうえでの懸念点がいくつかあります。ここからは、高齢者と賃貸借契約を結ぶ際の注意点について解説します。

(出典:総務省統計局『平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計』)

認知症や持病の悪化から派生するトラブル

高齢者が入居する際に注意したいことの一つは、入居者が認知症になったり、持病が悪化したりする可能性がある点です。サポート・介護を行う親族がいない高齢者の場合、管理会社が対応に追われてしまうケースがあります。

令和3年版高齢社会白書』によると、65歳以上で要支援・要介護者の認定を受けた人は近年増加傾向にあり、第1号被保険者の18.3%を占めています。

要介護者の方が介護が必要になった主な原因には、以下が挙げられます。

▼介護が必要になった原因

  • 認知症:18.1%
  • 脳血管疾患(脳卒中):15.0%
  • 高齢による衰弱:13.3%
  • 骨折・転倒:13.0%

高齢入居者の認知症や持病の悪化が進んだ場合に直面する可能性があるトラブルは、以下のとおりです。

▼認知症・持病悪化によって起こり得るトラブル

  • 深夜の徘徊、大声などの迷惑行為が行われる
  • 家賃の支払いを忘れてしまう、または1人で入金ができなくなる

(出典:内閣府『令和3年版高齢社会白書』)

孤立死から派生するトラブル

単身世帯の高齢者が入居する場合に起こり得るのが孤立死です。親族や定期的にケアを行うパートナーがいない場合、死亡の発見が遅れてしまい、住宅に汚損が生じてしまうケースが考えられます。

(出典:『令和3年版高齢社会白書』)

令和3年版高齢社会白書』では、高齢者の孤立死と考えられる事例が多数発生していると報告されています。2019年の東京23区内における65歳以上の単身世帯の自宅での死亡者数は3,936人となっており、増加傾向にあります。

高齢入居者の孤立死が生じると、賃貸仲介・管理会社に以下のようなトラブルが発生する可能性があります。

▼高齢入居者の孤立死によって起こり得るトラブル

  • 汚損・異臭などを消すための特殊清掃が必要になり、原状回復費用が増加する
  • 死亡状況によっては心理的瑕疵(かし)がある物件とされ、賃料の値下げが必要になったり、客付けが困難になったりする

(出典:内閣府『令和3年版高齢社会白書』)

契約解除・残置物処理から派生するトラブル

高齢者が死亡した場合、相続人の捜索や契約解除に関する手続きが必要になります。相続人が見つからない場合は、賃貸管理会社に金銭的・労力的な負担が発生する可能性があります。

賃貸借契約において、民法第896条に基づき、入居者(契約者)が死亡した場合の賃借権は、相続人に引き継がれます。入居者が死亡した場合でも、賃貸管理会社や大家が一方的に契約を終了することはできません。

賃貸管理会社は、入居者の相続人を捜索したうえで、賃貸借契約の解除、残置物の処理、未収家賃の支払いなどを依頼する必要があります。

また、死亡した入居者の相続人が見つからなかった場合には、以下のようなトラブルや損失が発生する可能性があります。

▼相続人が見つからない場合のトラブル例

  • 契約解除手続きができずに、新たな入居者を募集できない
  • 弁護士や財産管理人へ報酬の支払いが発生する
  • 原状回復費用を請求できない

(出典:e-Gov法令検索『民法(明治二十九年法律第八十九号)』)

高齢者との賃貸借トラブルを回避するポイント

高齢者との賃貸借契約トラブルを回避するためには、事前の対策が必要です。ここからは、トラブルを回避する3つのポイントを紹介します。


①入居者の相続人を連帯保証人にする

高齢入居者との賃貸借契約トラブルを回避するために、連帯保証人を相続人に限定するという対策があります。

連帯保証人とは、契約者が債務不履行になった際に、代わりに支払い義務を負う人のことです。病気・認知症が原因で賃料が未納になっている場合、または孤立死によって住居の汚損が発生した際には、連帯保証人に対して未収賃料や原状回復費用などを請求できます。

連帯保証人を設定する際、入居者の家族・親戚といった相続人に限定することで、死亡や債務不履行時に速やかに連絡を取りやすくなり、スムーズに対応を進められます。


②家賃保証会社を利用してもらう

賃貸借契約を締結する際、連帯保証人を立てる代わりに、家賃保証会社を利用してもらう方法があります。

家賃保証会社とは、入居者の家賃を貸主に保証する会社です。入居者は、家賃保証会社に対して保証料を支払います。入居者が家賃を滞納した場合に、代わりに家賃を支払ってもらえるため、賃料未回収の発生を避けられます。

家族がいない、または親族と疎遠であるといった事情で連帯保証人を立てられない高齢者には、加入を検討してもらいます。

ただし、家賃保証会社の利用には入居者の年齢や収入などの加入条件が設けられており、審査にクリアする必要があります。


③保険に加入する

貸主となる管理会社(または大家)が、保険に加入するのも一つの方法です。

ここでいう保険とは、入居者が自殺や孤立死、事故などで死亡した場合に、管理会社が被った損失を保険会社が補償してくれる保険のことです。

補償内容には、死亡によって生じた住宅の汚損に対する原状回復費用、賃料の値引きや空室期間による損失などが挙げられます。

高齢社会に求められる賃貸住宅のあり方

高齢化によって、今後賃貸住宅のニーズはさらに高まると考えられます。高齢社会をビジネスチャンスと捉えて、高齢者向けの賃貸住宅・サービスを提供できれば、利益につながる可能性もあります。

しかし、高齢入居者が増えれば、賃料滞納や孤立死など、貸主側の負担が増えることも事実です。貸主と親族、両者の負担を軽減するためには、高齢者が入居しやすく、将来にわたって安心して暮らせる賃貸住宅の提供が求められます。

同時に、高齢入居者の介護・支援に伴う親族の負担を軽減するサポートや貸主側の負担を軽減できる新たな契約形態を導入することも重要です。

▼高齢社会に求められる賃貸住宅サービス

  • サービス付き高齢者向け住宅への登録
    サービス付き高齢者向け住宅とは、高齢単身世帯・夫婦世帯が居住できる賃貸等の住宅のこと。賃貸借契約と生活支援サービス(状況把握・生活相談等)契約を一体化しており、介護に伴う負担を軽減できます。

  • 終身建物賃貸借契約の導入
    終身建物賃貸借契約とは、賃借人が死亡することによって賃貸借契約が終了する契約のこと。相続人に賃借権が引き継がれないため、スムーズな明け渡しが可能になります。

まとめ

この記事では、日本の高齢化に関するデータを基に、以下の項目について解説しました。

  • 高齢者と賃貸借契約を結ぶ際の注意点
  • 高齢者との賃貸借トラブルを回避するポイント
  • 高齢社会に求められる賃貸住宅のあり方

高齢者との賃貸借契約には、認知症や持病悪化、孤立死などに伴う家賃滞納・原状回復費用の増加・相続手続きの長期化などが起こる可能性について理解しておく必要があります。

一方で、高齢化の進展によって高齢者向けの住宅需要は高まると予想されるため、不動産業界においてはビジネスチャンスとも捉えられます。

高齢者との賃貸借契約を結ぶ際は、連帯保証人の設定をはじめ、家賃保証会社の利用、保険加入などにより、トラブルを回避するための対策を講じることが重要です。

また、貸主側がトラブルへ対処する際の負担や親族への負担を軽減するために、サービス付き高齢者向け住宅への登録、終身建物賃貸借契約の導入も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

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