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【2025年省エネ基準適合義務化】進めるべき対応準備とは

この記事を目にする多くの読者には、2022(令和4)年6月に可決成立した改正建築物省エネ法(脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律)について、その詳細を殊更に説明する必要はないと考えます。

建築、不動産に関わる事業者にとってそれくらいインパクトがあり知れ渡った改正だったわけですが、2025年の基準適合義務化の施行までにどのような対応準備を進めるべきかあらためて整理したいと思います。

目次[非表示]

  1. 1.改正法の目的は「脱炭素社会の実現」。省エネ性能の加速と木材利用の促進で目指す
  2. 2.改正法が進んだ背景の想像…「ゾンビ企業」への配慮の終わり
  3. 3.2050年カーボンニュートラルを目指すにあたり業界が取り組むべきこと ゾンビ企業のレッテルを貼られないために
  4. 4.「意識の醸成」「ハード整備」「ソフト整備」を同時に、継続的に積層させること

改正法の目的は「脱炭素社会の実現」。省エネ性能の加速と木材利用の促進で目指す

法律名に「脱炭素社会の実現に資する」とあるように、改正法では建築物の省エネルギー性能向上についてそれ自体を目的とせず、炭素吸収源としての木材利用の拡大を含め脱炭素社会実現のための「手段」として位置付けた扱い方をしています。改正法成立が一気に進んだ背景を考えるにあたってはこの点に着目することがポイントだと思います。

これまでの建築物省エネ化普及に関する議論は、制度の対象範囲や経済合理性との整合といった建築産業内の都合をもとにしており、極論ですが制度設計自体やその水準のあり方自体が目的化しかねなかった議論とも言えます。

それに対して、改正法は、真の目的を2050カーボンニュートラルという世界との約束の実現とおき、そのための必然かつ不可避な「手段」として扱ったという点が大きかったと思います。

「手段」としての省エネ対策を進めるにあたっての中心的な取り組みは

①2025年の全新築住宅・非住宅の省エネ基準適合義務化
②既存ストックの性能向上改修を後押しする金融支援策
③性能向上施策の手前(2024年)での省エネ性能表示の推進

加えて6月の改正省エネ法成立に先行した断熱性能にかかわる上位等級の創設が外せないポイントです。また木材利用の促進については防火、構造に関する規制の合理化が図られた点も挙げられます。

改正法が進んだ背景の想像…「ゾンビ企業」への配慮の終わり

今回の「省エネ基準適合義務化」の前段階に、小規模建築物に関しては省エネ性能への適合に関する「説明義務」という段階がありました。説明義務化という段階が存在した背景としてよく聞くのが中小工務店の(省エネ基準)適合のための技術不足などです。

今回も2025年の適合義務化までに2年半余りの猶予期間が設けられましたが、最終的に事業者にとって対応(基準適合)期限が明確に区切られたという点で、これまでとは大きな違いがあると思います。

これまで「適合への猶予」ついて慎重であった環境がなぜ一気に変わったのでしょうか。背景として大きいのは先ほど触れた「真の目的」達成に向けた加速という議論の目的の変化が大きいと思いますが、例えば住宅市場で言えば、そもそも新築住宅着工規模が縮小する見通しの中で「技術的ゾンビ企業」への配慮を再考する好タイミングであったという理由も想像できなくはありません。

2050年カーボンニュートラルを目指すにあたり業界が取り組むべきこと ゾンビ企業のレッテルを貼られないために

2050年カーボンニュートラル達成という目標に向けて、建築請負を事業とする企業が新たに追加される上位基準に適合した建築物を施工するための施工技術の更新(向上)や実現に必要な建築資材の変更といった取り組みの実施は言うまでもないことです(もししないという判断があるとすれば、請負事業をやめる、もしくは下請け事業に徹するということとほぼ同じだと思います。もっとも性能に関わる技術について不理解なままの会社は下請け会社としても選ばれない可能性も高そうです)。

これに加え、今回の改正では建築物(不動産)取引を担う不動産会社にとっても省エネ性能に関する適応、特に気密・断熱に関わる「建築に関する知識」の更新(向上)が求められるはずです。象徴的な改正点である不動産取引時の省エネ性能表示の導入など技術議論だけではない、総合的な取り組みが同時に導入されることからも明白です。

1.顧客からの「共感」を醸成するためのリカレント教育

事業者に求められる対策の中で、後回しにされがちだが実は重要な取り組みの一つに従業員・現場作業員のリカレント教育の実施があります。中でも「省エネ性能を向上させた商品・サービスを自分たちはなぜ提供するのか」という企業姿勢をとらえ直し、顧客からの共感を重視するマインドセットの置き換えが重要だと考えます。

なぜか。それは性能向上対応に関わる費用上昇や資材価格高騰など商品・サービス価格の上昇が避けられない状況だからです。近年のマーケティング(集客や換金化のための施策)では「良いものをより安く」が追求されてきました。

しかし、新基準が明らかになり従来の商品・サービスが「良いもの」と言い切れなくなります。その上、価格上昇も避けられないとなれば今までの常識に従った取り組み方では事業の継続・成長は困難です。そうした見通しの中で原価高騰や高性能化「だけ」を理由にした商品・サービス提供を続ければ、顧客の「理解」は得られても「共感」を得ることはできず、結果的に失速する可能性が高いと考えます。

そうした環境変化を商機にできるかは、価格を改定せざるを得なくなるという変化の中で本当に良いものは高いという「新常識」の浸透を実現しなくてはなりません。言い換えれば、顧客接点において対価の理由について理解の強要ではなく共感の醸成に変えられるかを考えなくてはいけないのです。

顧客が共感する瞬間の例として、売り手が顧客のことを顧客以上に考えていることがわかるといったシーンがあります。顧客(家族)の健康、安心と安全、快適、さらには将来にわたっての資産価値や市場価値を顧客以上に考えている企業であるか、そのような企業姿勢を社内、外注先を含めたサービス提供に関わるチーム全体に浸透させるインナーブランディングが必要になってくると考えます。

2.事業領域の拡大

顧客が建築発注や物件取引の際に企業姿勢を判断材料にできるほど、取り組み姿勢に関わる情報が顧客に浸透するまでには時間もかかります。また、ゾンビ企業が市場から撤退したとしても市場の縮小傾向が変わるわけではなく、既存の主要市場である新築住宅だけに目を向けているのは、今回の法改正がもたらす商機を逃しかねません。

鍵はストックアンドリノベーションです。改正法の中でも既存ストックの性能向上改修を後押しする金融支援策の実施が盛り込まれることで、すでに改修市場の拡大が見据えられている点に注目です。

何より国内住宅ストックはすでに5,200万世帯近くもある巨大市場です。そのうち、リフォーム等による省エネ性能向上を行うことで活用できる対象は2,200万戸から3,500万戸と示されています(国土交通省資料参照)。


(画像引用元:国土交通省『我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)』)

これまでフォーカスされてこなかった既存住宅の断熱性能向上や気密性能向上の技術進化、先の金融支援策のような環境整備も今回の法改正を契機にさらに進展していくことが考えられます。

ストックアンドリノベーション市場を「先取り」する断熱改修事業への注目と具体的な取り組みによる事業領域拡大は、企業の持続可能性にとっても重要な一手となりそうです。

「意識の醸成」「ハード整備」「ソフト整備」を同時に、継続的に積層させること

最後に、今回の法改正への対応は、大袈裟な例えですが過去の日本における公害問題や都市のゴミ問題のような大きな社会問題を克服してきたプロセスと同様の条件整備が必要だと考えます。

条件整備とは

①(生活者の)知識と意識の向上
②(ストックを含む)ハードの性能向上
​​​​​​​③(事業者からの)提供価値の向上

という3つが並行的に変わることが必要になってくると考えます。

ここまで主に②と③について考えを述べてきましたが、省エネ基準の存在の認知、その義務化、既存の基準が最高ではないという知識、比較するための(省エネ性能表示などの)情報取得といった生活者への啓発・啓蒙も大切な取り組みとなるはずです。これをメディアや行政に頼ることなく、事業者が自ら行うことで、先ほど述べた「共感の醸成」は一層進むのではないかと思います。

矢部 智仁
矢部 智仁
合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中。

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