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じわりと上昇し続ける住宅ローン金利 今後の推移は?

LIFULL HOME’S総研の中山です。

ロシアによるウクライナ侵攻が5ヶ月を超え、膠着状態が続いていることから長期化する公算が高まっています。侵攻を契機として、世界的なサプライチェーンの脆弱化が発生し、また日米欧の金融政策の違いから、政策金利に格差が発生し、円安基調に推移することで輸入に頼るエネルギー・資材、食糧などの調達コストも上昇するなかで、長期金利の上昇傾向まで表れています。

物件価格はコストアップによって今後値上がりする可能性が高いと言われており、その上住宅ローン金利まで上昇しては住宅市場にとって大変厳しい状況が訪れかねません。

今回は気になる住宅ローン金利の行方について考えてみたいと思います。

目次[非表示]

  1. 1.2022年に入って住宅ローン固定金利が上昇 そのワケは?
  2. 2.日銀の金融政策は限界にも見えるがそれでも住宅ローン金利は大きく上昇しない⁉

2022年に入って住宅ローン固定金利が上昇 そのワケは?

上記の世界的なエネルギー・資材価格、食糧価格の高騰は、消費者物価指数を大きく引き上げ、インフレを誘発します。実際にアメリカでは前年比で10%程度のインフレが発生しており、その抑制が急務となっていました。

インフレを抑制するためには金融引き締めを実施して政策金利を引き上げ、消費を落とし過ぎないように留意しつつ景気を抑制するというのが正常な金融政策ですので、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は2022年に入って3月に利上げを開始し、さらに5月から3ヶ月連続で利上げして現状ではゼロ金利から2%台へと急激に金利を上げています。ヨーロッパのECB(欧州中央銀行)はアメリカほどではありませんが、それでも7月にゼロ金利を解除して0.5%の金利引き上げを決定しました。

一方の日本は、同じく7月の金融政策決定会合で金融緩和の維持を決め、引き続き長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を実施し、短期金利については、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用、長期金利についても、10年物国債金利が0%程度で推移するよう、上限を設けずに必要な金額の長期国債の買入れを行うこととしました。

また、この方針を実現するために10年物国債金利を対象として0.25%の利回りでの指値オペを毎営業日実施することも確認されています。

このような金融政策の違いによって、主に日米の金利差が拡大することになり、金利のつかない円を売ってドルを買うという流れが生まれ、円安に推移することでコストアップがさらに加速することになるのですが、今回は金利の話に留めます。

皮肉なことに、この上限を設けずに必要な金額の長期国債の買入れを行うこと=指値オペを実施することで、市場にある大半の国債を購入した結果、それ以上のコントロールができなくなって金利が上昇する現象が発生しました。

上記のように長期金利=新発10年物国債の金利を0.25%以下に誘導することが目標の日銀の金融政策は、6月初旬からその0.25%を上回って関係者を慌てさせることとなりました。

日銀の金融政策は限界にも見えるがそれでも住宅ローン金利は大きく上昇しない⁉

少しさかのぼると、2021年末に0.045%で推移していた長期金利は年明け早々に0.1%台に上昇し、その後は0.2%前半で推移して6月以降の0.25%超えに達したわけですが、この間、1.3%前後で推移していた住宅ローン35年固定金利は1.5%台に上昇、同様に5年固定金利は0.8%前後から1.0%前後へ、10年固定金利も0.8%超の水準から1.1%前後へと各々上昇しています。

この短期間での長期金利の急激な上昇は、7月の後半から8月にかけてアメリカの実質金利が低下傾向にあることから落ち着きを取り戻し始めていますが、依然として世界的な経済情勢の変化によって、日銀のイールドカーブ・コントロールが直ちに効かなくなる状況が起き得ることを示しています。

住宅ローンをこれから申請する住宅購入者は、世界情勢を頭の片隅に入れながら住宅ローン商品を選択する姿勢が求められますから、的確なアドバイスが必要な場面があると思われます。

一方、住宅ローンの変動金利は、短期金利と連動しているため、長期金利が上昇基調で推移しても一向に変化する様子はなく、過去5年程度を俯瞰しても住宅ローン変動金利は0.4~0.5%の水準で極めて安定的に推移しています。現状では、長期金利が最低でも2%前後の水準に達しなければ短期金利の上昇は見込めませんから、日銀の金融緩和策が継続する限り、変動金利の上昇はないとほぼ断言できる状況です。

つまり、住宅ローンの固定金利は比較的変動しやすく、変動金利は変動しにくいという逆説的な表現が当てはまるのです。固定金利は借り入れた時から金利が変わらないということであり、借り入れる以前のボラティリティは相応に大きく、変動金利のボラティリティは極めて小さいと認識する必要があります。

住宅ローンの金利は、日本銀行の黒田総裁の任期満了後も基本的には金融緩和策の維持・継続によって低位に据え置かれる公算が高いと考えられますが、住宅ローンを組むうえで唯一の不安要素は、この6~7月に発生した指値オペでも回避しきれない長期金利の上昇です。

日銀が半ば恣意的に抑え込もうとしても市場の反発で抗し切れない事態は今後も発生する可能性はあるので、住宅ローンを借り入れるなら変動金利で借り入れるのが、現時点での最良の選択と言えます。

金利の上昇リスクに常にさらされている固定金利と、金融緩和下ではほぼ上昇することが想定できない変動金利、金利水準自体も重要なポイントですが、その特性を理解した上で住宅ローンの申し込みをしたいものですね。

 
中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

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