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円安動向と都心回帰は首都圏&都内の賃料相場に影響を与えるのか

LIFULL HOME’S総研の中山です。

前回のコラムで、首都圏の移動人口が転入超過の基調を取り戻してきたことをお伝えしました。2022年に入ってから徐々に転入者が増加し始めており、転出者が一定であることから転入超過(出ていく人より入ってくる人のほうが多い状況)となっていた。

ただ、憂慮すべきは現在のコロナウイルス感染症第7波の拡大による爆発的な新規感染者の増加です。不幸中の幸いで重症化する感染者は比較的少ないと言われていますが、報道を見る限り死者数や医療現場は逼迫の度を増しており、予断を許さない状況になっていますので、今後も安定的に東京都および東京23区内への人口流入が継続するかは微妙な状況と言えます。

今回は都心への人口回帰と円安基調がもたらす賃料推移の今後について、首都圏を対象に分析します。

目次[非表示]

  1. 1.首都圏&都心では賃料が上昇傾向で推移し始めているが…
  2. 2.東京23区の2022年6月移動人口は2ヶ月連続の“転出超過”に


首都圏&都心では賃料が上昇傾向で推移し始めているが…

これも前回のコラムでお伝えしたことですが、近畿圏および中部圏の賃料相場がおおむね横ばいに推移しているのに対して、首都圏全域または都心エリアでの賃料が明らかに強含んでいます。

繰り返しになりますが、専有面積30㎡未満のワンルームタイプ(1K含む)の月額募集賃料は、2022年3月以降勢いを取り戻しており、2022年6月の首都圏平均では7.7万円前後、東京都平均で8.6万円超、都心6区(港区や中央区など)では11.7万円強の賃料水準となっており、いずれも対前年同月比では1%前後ながら、コロナ禍前の2019年当時と比較すると3%、都心6区では5%超の上昇を示しています。

ただし、これは募集賃料ベースであり、賃貸ユーザーがLIFULL HOME’S内で検索し実際に問い合わせるなどの行動を起こした“反響賃料”を見ると、2021年後半から徐々にその平均が弱含み始めており、市場では都心の高額な賃貸物件に空室が出ると最近はすぐには埋まらないとの声も聞かれるようになりました。

円安によるインフレの発生で消費者物価が上昇する傾向にありますから、生活費全般を見直す必要に迫られるケースが増えてくれば、おのずと賃料のできるだけ安価な物件を借りよう、借りたいと考えるのは当然のことです。

また、こういった比較的高額な賃料を設定している物件については、ネット上の広告で「フリーレント期間」を明示している物件も増加する傾向にあります。賃料を改定せずに実質的な値引きを行なうことをオーナーサイドと予め決めておき、賃貸契約に向けてユーザーの背中を押す効果も期待しているようです。

東京23区の2022年6月移動人口は2ヶ月連続の“転出超過”に

一見すると安定して徐々に上昇している印象を受ける首都圏の賃料相場の推移ですが、上記の通り、実際には長期化するコロナ禍の影響や円安による物価の高騰、および根本的な問題として所得の伸び悩みなどが背景にあり、なかなか順調に回復しているとは言い難い状況です。

さらに、悪いことに2022年6月中旬頃から新規のコロナウイルス感染者が明らかに増加し始め、7月には第7波に入り東京で1日あたり4万人超、全国でも過去最高の25万人弱が感染する状況に至り、再び東京および東京23区、都心部に流入してくる人の数は漸減し始めています。

特に東京23区の移動人口は2022年5月に327人、6月にも514人の“転出超過”=他の地域から流入してくる人よりも流出する人のほうが多い状態が2ヶ月連続して発生しました。これだけ多くのコロナウイルス感染者が発生すると東京都心部への人流の移動が回避される可能性が高まりますから、これは長期的に見れば賃料相場の低下要因となり得ます。

一方の円安ですが、これは主に海外から輸入する資材価格およびエネルギー価格に影響を与えるだけでなく、食糧や国内で生産される牛や豚、鶏などの家畜飼料の価格も押し上げており、つまりは生活全般にかかるコストが上がってしまうという状況を生んでいます。

所得を簡単に増やすことが困難である以上、生活費を見直す必要が出てくる家計も少なくないと考えられますから、賃貸ユーザーは郊外方面に転居して賃料コストを下げたり、駅から離れるかもしくは一回り小ぶりな物件に借り換えたりといった生活防衛手段を講じるケースが増えることも想定しなければなりません。そうなると、これも賃料相場を押し下げる要因の一つになり得るわけです。

ただし、インフレによって生活費全般が高騰することに困っているのは賃貸ユーザーだけではありません。専業の大家さんも同様に困っている可能性がありますから、円安の状況が長期化すれば、その先に値上げ交渉が行われる可能性もあるかも知れません。

今回は主に首都圏の賃料について、円安や賃貸ユーザーの都心回帰が与える影響について考えましたが、実は大阪も名古屋も福岡もその他のエリアも、これまで移動人口が転入超過で賃料水準が安定していた地域から徐々に人口流出が発生しているという事実があります。

これまでは転出超過とならなかった大阪市や名古屋市などでも2021年後半以降、月によっては転出超過となることがあるので、どのエリアでも生活防衛のために賃料の高いエリアから人が転出する可能性が出てきていることになります。

不動産・住宅マーケットの状況だけでなく、経済全般の動きについても情報感度を高めておくことは、今後の業務に必ず役立ちます。情報収集も業務の合間に怠りなくお願いします。

 
中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

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