郊外化に物価上昇…2023年の賃貸住宅市場はどうなる?
LIFULL HOME’S総研の中山です。
年初にあたり、2023年の賃貸住宅市場の行く末を考えてみたいと思います。今年は卯年、証券市場では“ウサギは跳ねる”と景気が拡大する縁起の良い年とされています(ちなみに私は年男です)。
昨年からサプライチェーンの逼迫による消費者物価の高騰が続いており、それに対応するための金融引き締めについて取り沙汰されるようになりましたから、4月以降、誰が新しい日銀の総裁になってどのような金融政策を実施していくのか、大変気になるところです。
これから1~3月にかけて賃貸住宅市場の繁忙期に突入します。コロナ禍では緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出され、ここ数年の繁忙期はやや低調に推移した感があります。今年は移動制限や海外渡航についても特段の制限はありませんので、コロナ前の繁忙期に戻ることを期待したいと思います。
コロナ禍での賃貸市場を少し振り返ってみると…
2020年以降コロナ禍が急激に拡大し、感染防止を最優先するべく各企業・学校は先を争うようにテレワークやオンライン授業に切り替えました。これによって毎日の通勤・通学がなくなり、またオンもオフも自宅で対応する必要が出てきたために、それに対応するべく一回り広い&一部屋多い賃貸住宅に対する需要が拡大しました。
当然予算が変わらなければ、都心および近郊では借りることができませんから、2020年の夏以降、毎日会社・学校に通わない前提で郊外方面への賃貸ニーズの拡散が発生し始めたのです。それでもやはり生活する場を変えるというのは決してハードルが低いことではありませんから、当初は小さな動きにとどまっていて賃貸市場に影響を与えるほどではありませんでした。
その動きは徐々に大きくなっていき、2021年以降賃料水準の高い都心のワンルームを中心に空室が目立ち始め、またこれまでは空いたらすぐに埋まった立地条件の良いワンルームでも数ヶ月空室が続くといった現象が起きました。
その傾向は2022年も続き、特に都心や市街地中心部の賃料水準の高いワンルーム、1LDKなどは苦戦を強いられました。さらにコロナ禍で転勤なども大きく減少したため、繁忙期での単身赴任などの賃貸ニーズも減ったことで特に各市街地中心部およびその周辺エリアでの賃貸市場が停滞したわけです。
折悪しく、五輪効果などで新たな賃貸需要を見込んだ賃貸住宅の建設も増えていたことも需要と供給のバランスを大きく損なう結果につながりました。現在でも、フリーレントや家具・家電のプレゼントなど、様々な特典や付加価値をつけなければ埋まらないという物件は少なくありません。
2023年の賃貸市場はテレワークの実施率推移&消費者物価の動向次第?
このように振り返ってみると、ここ数年の賃貸市場の停滞の要因は、コロナ禍でのテレワークの実施をきっかけとした生活環境のドラスティックな変化によるものだったことがわかります。足元でのテレワークの実施率推移を確認すると、例えば東京都の2023年1月の発表では52.4%で実施されており、特に社員数300人以上の企業では76.3%と4社に3社以上が実施している状況です。
2022年末から再び感染拡大が始まり、コロナ第8波が発生していることを考慮しても、容易にテレワークの実施率は下がらないでしょうから、コロナ禍の収束=テレワーク実施率の明確な低下といった状況が見えてこないと、2023年も都心・近郊ほか交通利便性が高くて賃料も高いエリアの需要回復は芳しくないと考えておくべきでしょう。
また、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻を端緒として、世界的なエネルギー・資材価格、食糧価格の上昇が発生し、各国で消費者物価の高騰が起きています。日本も例外ではないのですが、GDPギャップといわれる供給に対する需要の弱さもあって、日本の消費者物価の上昇率は海外の毎月10%を超えるような動きは示していません。
それでも2~4%程度の物価上昇率を記録する状況となり、生活コスト全般を抑える目的で、賃料水準の比較的安価な郊外方面へ転居する賃貸ユーザーも徐々に増え始めています。
このように考察を進めると、2023年は準近郊&郊外での賃貸需要の高まりに着目した体制作りや物件開発がポイントになる可能性が高いと考えられます。もちろんテレワーク対応可能な個室の設置や、業務・学習に対応可能な共有スペースの併設など、これまでの賃貸になかった新たな需要に対応することも求められています。
また、コロナ禍でライフスタイルが変わり、自宅で過ごす時間が増えたことでインターネット回線の快適性が重視されています。仕事でも映画・動画鑑賞など余暇を過ごすにもネット環境は大切なインフラですから、あるだけではNGで回線スピードという品質が求められています。
さらに、自宅で過ごすことが多くなった賃貸ユーザーはペット相談可の物件を選択する傾向が強まっています。これまで相談可でも実質お断りの物件は、条件を見直して実際にペットが飼えるようにすることが空室リスクの軽減につながります。
相応に設備対応が必要なケースもありますが、一歩踏み込んで複数頭飼育可にするとか、爬虫類OKにするのもユーザーからの支持を高めるポイントです。ウサギが跳ねるのを待つのではなく、自ら跳ねさせる工夫をすることが大切な一年になりそうですね。
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