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東京都が太陽光パネルに続いてEV充電設備設置も義務化することの意味

LIFULL HOME’S総研の中山です。

今回は、2022年末に東京都議会で可決・成立した「改正環境確保条例」を中心に、今後展開が進む可能性が高いEV(電気自動車)充電設備について解説します。

私は、環境省の再生可能エネルギーへの切り替えに関するナッジ事業(わずかなアプローチで人のアクションを変えるといった意味の事業です)に参画しているのですが、国に続いて、東京都や横浜市、千葉市など相次いでEV充電設備の設置についての補助金を拠出するようになり、自動車のEV化を強力に推し進めることによって、温暖化効果ガスの排出を抑制しようという行政サイドの意識・意向を強く感じています。

目次[非表示]

  1. 1.2025年4月から大手住宅メーカー&マンションデベロッパーなどに設置義務

2025年4月から大手住宅メーカー&マンションデベロッパーなどに設置義務

2022年12月、商業施設やオフィスビル、マンション(賃貸物件含む)などすべての新築建築物にEV(電気自動車)充電設備の設置を義務づける東京都の「改正環境確保条例」が可決・成立しました。EV充電設備の設置義務化は全国初で、条例の適用開始は2年後の2025年4月です。新築マンションには2025年度以降駐車台数の2割以上の充電設備の設置が義務付けられることになります。

この「改正環境確保条例」は、先に成立した太陽光パネル設置義務化条例と同様に、住宅の特定供給事業者が対象となっており、一般消費者=購入者は直接の対象とはなっていません。特定供給事業者とは都内で年間供給延床面積が合計2万平米以上のハウスメーカーおよびマンションデベロッパーで、特定供給事業者向けには「建築物環境報告書制度」が新設され、都の基準に適合したEV充電設備・断熱・省エネ性能、再エネ設備(太陽光パネル)の設置が義務付けられます。

併せて、延床面積が2000平米以上の大規模建物の建築主には、従来の「建築物環境計画書制度」の強化・拡充によってEV充電設備の義務付け・誘導を行い、専用駐車場と共用駐車場に分けて基準が設けられる予定です(2000平米未満の中小規模建物は充電設備の整備義務と誘導基準が設けられます)。

これに加えて、足元のEV普及状況や普及の後押しのための実装整備基準と、将来の整備負担を軽減するための配管等整備基準を設定し、第三者による充電サービス一体の整備手法についても導入可能な整備基準を設けることになっています。EV充電設備の設置義務化に伴う特定供給事業者側のコスト負担は、資材価格高騰の折でもありますから、そのまま分譲価格に転嫁できるかがポイントになりそうです。

東京都内で分譲される新築マンションの価格がさらに上昇すれば、買い手が大きく減少して市場がシュリンクする可能性があるからです。

併せて、東京都は2023年度からEV充電設備設置のための既存マンション向けの補助上限81万円を2倍超の171万円に引き上げ、設置調査費も補助対象に追加することを計画しています(急速充電設備&超急速充電設備は高額なため別途補助金の上限が設定されます)。

この補助金制度と条例を普及促進策セットとして、2030年までに都内のマンションに設置されるEV充電設備を6万基まで増やすことが目標とされています。なお、東京都は併せて廃棄物を排出しないという意味の「ゼロエミッション東京」を実現するため、2030年までに都内の新車販売の50%をゼロエミッション車(ZEV)とする目標も掲げており、この目標を達成するためにもEV充電設備の設置拡充は必須です。

ただし、足元(2021年度末時点)ではわずか393基しか設置されていませんから、今後8年ほどで現状の152倍ものEV充電設備が設置できるのか、極めて高い目標と言わざるを得ません。

マンションのEV充電器設置への補助金制度ですが、既に横浜市や千葉市で導入されており、2023年度には神奈川県と千葉県でも創設される予定ですから、首都圏では急速にEVの普及に向けての環境整備が進むことになるのは歓迎すべきことです。

しかし現状では、EVを所有するマンション住民はまだまだ少数派なので、国と東京都などの補助金を活用すればほぼ負担なくEV充電設備が設置できるとしても、本当に必要なのか実感の持てない住民が多数を占めていて、管理組合で否決されて設置できないというケースが多数あるとされています。

確かにガソリン車は近所のスタンドに給油に行くのに、EVはマンション内で充電可能というのは釈然としないと感じる住民がいることも否定できません。しかし、これはコスト負担の問題というよりも環境維持・保全の観点から考えるべき問題ですから、次世代に禍根を残さないためにもEV充電設備の設置を第一歩として温暖化対策について前向きに検討していただきたいものです。

このように、国や自治体が地球環境の維持・保全のために導入するエネルギー関連施策は、常にコストの問題と密接に関係しています。性能に優れた住宅も温室効果ガスを排出しないEVも、現状ではまだ高コストであるが故に導入・購入に踏み切れないケースが多数あり、それがための補助金制度ではあるのですが、マンション住民の無関心・無理解による合意形成の難しさといった状況も踏まえて、ユーザーに積極的にアプローチしていく必要があります。

今後EVユーザーの家探しに備えて、既にEV充電設備を設置しているマンションや近くにEV充電スタンドがあるかどうかなどについても情報収集を怠らないようにしてください。そういった情報が必要になる時代は、すぐそこまで来ています。

 
中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

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