住宅産業に大きな影響がある“建設業の2024年問題”とは?~課題解決編~
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課題は1つ1つ解決していくしか方法がない状況にある 国交省の行政指導がどこまで効くかが鍵
LIFULL HOME’S総研の中山です。
建設業の2024年問題について①問題提起編をお読みいただいた方は、事態がかなり深刻で、5年も猶予があったのに何ら状況が改善していないという現状を認識されたと思います。では、この問題山積の状況はどのように解決していけばよいのでしょうか。
課題解決に向けての処方箋1.長時間労働の是正
国交省の「建設業における働き方改革」によれば、建設工事全体の64.0%が4週4休以下で、週休2日制(4週8休)を導入している企業は5.8%にとどまります。
現状打破のためには、週休2日制の導入や建設現場の休日拡大など、何が何でも長時間労働の常態化を是正する必要がありますが、現実問題として就業時間の減少は工期遅れを招く要因となるため、如何にして建設工事の発注者の意向を踏まえて適正な工期設定を実施するか、またその工期設定を発注者に了承してもらうかが現実的な解決策です。
ただし、工期の長期化はコストの上昇を招く可能性もあり、住宅価格に反映されることになれば、現状の資材価格の上昇に加えて更なる物件価格上昇要因になりかねませんから、発注者側の理解は必要不可欠です。
課題解決に向けての処方箋2.適正な給与体系の確立・社会保険加入の徹底
建設業界は「きつい」「危険」「汚い」=3K業種と言われており、さらに健康保険や厚生年金保険などの未加入も多く、法定福利費を適正に負担しない企業が少なくないと指摘されています。
就業者の高齢化対策には新たな人材確保が必須条件ですから、技能・経験を反映した給与体系の確立、社会保険への加入を最低基準に据えるなど、労働環境の抜本的な変革が必要です。少なくとも各産業界で既に大前提となっている社会保険への加入は、今すぐできる対策として取り組むべきです。
課題解決に向けての処方箋3.ICT積極活用など生産性の向上
2024年4月以降の最大の懸念材料は、就業時間の減少による労働生産性の低下であることは疑いの余地がありません。生産年齢人口の減少と人材不足の解消に向けて、長時間労働の是正や時間外労働の規制を強めれば、法適用以前の生産性を確保するのはほぼ不可能だからです。
労働生産性を維持し高めるには、ICTの活用によるDX化の推進が挙げられます(国交省はi-Constructionと表現しています)。労働効率を高め、機材と資材の効率的な活用にも取り組むためには、事業活動のデジタル化を推進する必要があり、何よりそういった企業文化を今すぐ醸成することが大切です。ICTの導入およびDX化には一定の時間とコストを要しますから、2024年4月に向けて今すぐ着手しなければなりません。
課題解決に向けての処方箋4.建設キャリアアップシステムの積極的活用
建設キャリアアップシステム(CCUS)は、建設業への就労者情報を一括管理する国交省が開発したシステムです。特に若年層就労者について、技能に応じた給与や待遇を確保し、ステップアップを促す目的があるとのことですが、より現実的な課題としては、建設業の年齢別賃金(賃金カーブ)のピークが製造業全体より早い40歳前後であることが挙げられます。
つまり、生産性に現れない管理能力や後進の指導など、経験に裏付けられたスキルや現場でのコツが、評価に反映されていない状態を打開するためにも、このシステムの活用が求められます。
また、一般に建設技能者は異なる事業者の現場で都度経験を積んでいくため、その能力が統一的に評価される業界横断的な仕組みが存在せず、スキルアップが処遇改善につながらないという課題がありました。
今後はCCUSに蓄積された情報によって各技能者の評価が適切に行われ、処遇改善に結びつけること、さらには人材育成に努め優秀な技能者をかかえる事業者の施工能力が見えるようになれば、課題の解決に繋がると考えます。
“建設業の2024年問題”は、建設業界が抱える構造的な課題と不可分の関係にあって、その解決・解消に向けての方策は、いくつかを除いて時間を要するものが多くあります。
「働き方改革関連法」が建設業界にも適用されるまで残り1年弱という事実を認識し、国交省の指導の下に、長時間労働の解消や若年層就労者の入職促進を実現するだけでなく、工事の発注者となるマンションデベロッパーやハウスメーカーなど多くの企業にも理解を求めることが、何より重要な課題解決へのプロセスとなります。
働き方改革実現会議の実行計画に「(2024年4月の)施行に向けて、発注者の理解と協力も得ながら、労働時間の段階的な短縮に向けた取組を強力に推進する」と明記されている通り、同法が適用されても建設業の労働生産性が低下しないよう、建設業に支えられ、そして建設業を支えてもいる不動産・住宅業界、オフィス・物流・運輸業界、そして金融業界が連携してこの問題の解決に取り組まなければなりません。
もはや、待ったなしの状況にあることを強く認識し、他人事ではなく自分事として対応することが求められているのです。
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