枠_左上
枠_右上

業界ネタ・トピックス

枠_左下
枠_右下

日銀が金融緩和策を軌道修正 住宅ローン金利に影響はあるのか?

目次[非表示]

  1. 1.植田新体制になって3ヶ月、いよいよ政策金利の軌道修正を実施
  2. 2.住宅ローン固定金利も上昇圧力高まる 変動金利の動きは?
  3. 3.それでも日本経済に大きく影響する住宅ローン金利の急激な上昇だけは避けなければならない

植田新体制になって3ヶ月、いよいよ政策金利の軌道修正を実施

LIFULL HOME’S総研の中山です。

2023年7月下旬、植田新総裁のもとで3回目となる日銀の金融政策決定会合が開催されました。黒田前総裁の金融緩和策を踏襲し、安定的な賃金上昇を伴う物価上昇率2%の達成に向けて粘り強く金融緩和を継続するとの方針でスタートした植田日銀ですが、今回の会合では現在の金融緩和の代表的手法である長短金利操作=イールド・カーブ・コントロール(YCC)について、これまでの方針から軌道修正することを決め、サプライズと受け止められています。

具体的内容としては、①長期金利の上限0.5%は一つの目安と捉え市場動向に応じて一定程度超えることを容認、併せて②これまで0.5%に誘導するべく無制限に毎営業日購入していた連続指し値オペの誘導目標を1.0%に引き上げること、も決定しました。

意外なことに、植田総裁は今回の措置について「金融緩和の持続性を高めるため」と発言しました。つまり、基本的な金融緩和ポジションは継続しつつも、従来のYCCや無制限の指し値オペという強力な手法を弱めて、国債市場における自律性や資金量の増大などに期待した政策変更ということです。

なお、この修正措置の公表当日の長期金利は一時0.575%と9年ぶりの高水準に達したものの、その後0.540%と前日から0.1ポイントの上昇に落ち着き、1.0%という数字に言及するレベルの急伸はありませんでした。

これは債券市場の受け止めが“黒田バズーカ”のようなビッグ・サプライズではなく、7月7日に公表された内田副総裁の発言を通じて、何らか動きがあるとの事前観測の範囲内には収まっていたことを示しています。ただし、以降は0.6%台に突入していますから、金利上昇圧力は徐々に高まっていると見られます。

住宅ローン固定金利も上昇圧力高まる 変動金利の動きは?

黒田前総裁が2022年末に実施した長期金利の誘導目標0.25%から0.5%への変更は、事実上の金融引き締めと市場から受け止められ、以後数カ月にわたって目標上限の0.5%、もしくは0.5%を上回る水準で長期金利が推移しました。その間、長期金利に連動している住宅ローンの固定金利も相次いで金利の引き上げが各金融機関から公表され、例えば住宅ローン35年固定金利は1.6%台から1.9%台へと上昇しました。

その後はやや低下したものの、今回の“植田ショック”を受けて、長期金利は現状の0.5%台から誘導目標の上限である1.0%に達するまでは指し値オペが実施されないため(日銀は他にも様々な国債買い入れ手段を持っています)、住宅ローンの35年固定金利も現状の1.9%台から2%台半ばの水準へと徐々に引き上げられていくことが確実視されます。

折悪しく、住宅ローン減税の仕様も2024年以降の制度変更が決まっており、住宅性能の違いによって設定されている年末住宅ローン元本の上限が各々500~1,000万円引き下げられるため、13年間(中古住宅は10年)の控除総額は50~100万円弱縮小します。

さらにウクライナ侵攻の長期化によるサプライチェーンの逼迫も継続しており、資材およびエネルギー価格の高騰によるコストプッシュ型の住宅価格の上昇も避けられない状況にあります。

一般に金利の上昇は住宅価格の頭打ちおよび下落を招きますが、現状のようにコストプッシュが背景にあると新築住宅の価格は下げるに下げられませんから、短期間で住宅市場のシュリンクが起きる可能性も高まることになります(その場合、先に中古住宅の売れ行きが悪化して価格が下落します)。

コストプッシュ型の価格上昇、住宅購入優遇策の縮小に加えて、金利上昇が重なれば、その可能性は一気に現実のものとなり得ます。

これに対して、唯一動きがほぼないと考えられるのが住宅ローン変動金利です。変動金利は短期金利と連動しており、日銀もマイナス金利を維持することを表明していますから、結果的に現状の0.2%~0.4%台の貸出金利で横ばい推移することになります。固定金利との差も広がりますから、当面は変動金利での借り入れが正解ということになるでしょう。

それでも日本経済に大きく影響する住宅ローン金利の急激な上昇だけは避けなければならない

今回の“植田ショック”によって、今後住宅ローン固定金利が上昇する可能性が極めて高くなったと言えます。したがって、住宅の購入および買い替えを検討していて、住宅ローンを利用しようと考えているユーザーに対しては、購入に関する決断を前倒しするよう助言するべきタイミングです。

さかのぼること30年余り前の90年にバブルは、当時の大蔵省が通達した総量規制(=不動産融資の伸び率が貸出全体伸び率を下回るように求めた規制)によって突如として崩壊し、その後遺症の大きさによって失われた20年(30年とも)という長いデフレ期から抜け出すことができませんでした。

住宅ローン金利の急激な上昇は、確実に住宅市場を縮小させることを考慮して、いつの日か必ず来る本格的な金融引き締め(その端緒が今回の“植田ショック”かも知れません)については、景気後退の引き金を引かないようカンフル剤を的確に投入しつつ、緻密かつ慎重な制度設計で臨んでもらいたいものです。

 ≫ 業務お役立ちコラム

  お役立ちコラム 不動産会社(賃貸仲介、賃貸管理、売買仲介)向けの業務お役立ちコラムをご紹介します。|LIFULL HOME’S Business 仲介・管理は、不動産仲介・賃貸管理にかかわる「会社や人」の課題を発見・解決し、成果をもたらす行動スイッチをONにするメディアです。是非、業務課題解決のためにご活用ください。 LIFULL HOME'S Business 仲介・管理
 
中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

関連する最新コラム

キーワードから検索

footer logo
不動産業・住宅業にかかわる「会社や人」の課題を発見・解決し、
成果をもたらす行動スイッチをONにするメディア
業務支援サービス提供企業の方へ
LIFULL HOME'S Businessへ自社のサービスを掲載。
全国の不動産・住宅会社様へアピールいただけます!
facebook

Facebook
コラムやセミナー、業界情報などの最新情報をいち早くお届けします。

その他のビジネス向けサービス