枠_左上
枠_右上

業界ネタ・トピックス

枠_左下
枠_右下

改正建築物省エネ法の施行まで1年半。賃貸住宅の省エネ化を進めるべき理由②

LIFULL HOME’S総研の中山です。

前半では2025年4月に施行される改正建築物省エネ法によって住宅の何が変わるのかについて解説しました。

後半は、住宅の省エネ基準とは何かを把握したうえで、実際の省エネ基準住宅とはどういうものか、また、なぜ法が施行される2025年4月以前の段階で、この省エネ基準を満たす賃貸住宅を建設する、もしくは省エネ改修などを提案する必要があるのか、について解説します。

目次[非表示]

  1. 1.省エネ基準適合住宅とは何か。その定義は
  2. 2.それでも今後省エネ基準適合“以下”の賃貸住宅を建設してはいけない理由

省エネ基準適合住宅とは何か。その定義は

結論から述べると、省エネ基準に適合している住宅とは、「断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上の住宅」と定義されます。つまり、これまで最高等級であった断熱等性能等級4は省エネ基準適合の最低条件に変わったことになり、換言すれば、これまで設定されていた断熱性能はそれほど高い水準ではなかったということになるわけです。

これまで、断熱性能の向上という「理想」とコストアップという「現実」の間で、なかなか世界的な省エネ基準との乖離を埋められなかったのですが、これだけ地球温暖化が進むとコストがどうのと言っていられる状況ではなくなってきたともいえるわけです。

また、長期優良住宅に認定されるには、「断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6」が必要で(ほかにも劣化対策や耐震性などの認定要件があります)、ネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH住宅)も同様に「断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6」の省エネ性能が求められており、現状では単に省エネ基準に適合している住宅というだけでなく、断熱性能も一次エネルギー消費量もそれを上回る住宅の普及が推進されていることから、急速に日本の住宅の省エネ性能は向上し始めているという見方もできます。

ただし、全国の住宅総戸数約6,300万戸に占める省エネ基準適合住宅の数は、2023年時点で新築住宅約86万戸の80%程度(うちZEH仕様は約25%)に留まっていますから、日本の全住戸を現行の省エネ基準に適合させるために改修・建て替えなどを現在のペースで実施しようとすれば90年以上の年月が必要となる計算です。つまり、日本の省エネ基準適合住宅の普及については、まだまだ端緒についたばかりと言わざるを得ません。

それでも今後省エネ基準適合“以下”の賃貸住宅を建設してはいけない理由

このように、日本における住宅の省エネ化は、そのスタートから約45年もの年月が経過しているにもかかわらず遅々として進んでこなかったことが明らかです。同時に、市場関係者の尽力によってここ数年急速にその普及スピードが速まっていることも事実ですが、一方で、年々温暖化が進んで夏期には国内でも最高気温40度超を記録することが常態化しており、台風や大雨など自然災害も激甚化の一途をたどっています。

日本という一国の問題ではなく地球規模の問題として、これ以上の温暖化を防ぎ、また自然災害の激甚化を防ぐには、現状では温室効果ガスの排出を可能な限り抑制し、再生可能エネルギーを効率よく活用し続けるしか方法がありませんから、賃貸住宅市場においても省エネ基準適合住宅“以上”の賃貸住宅を新規供給し、また既存の賃貸住宅では現行の省エネ基準に適合させるべく改修および建て替えを推進していかなければなりません。

考えを将来に向けて進めると、今後住宅市場において“商品”としての賃貸住宅の価値を維持するためには、立地条件や利便性などとともに、住宅の省エネ基準適合状況が徐々にその存在意義を高めていくことが確実視されます。

つまり、2025年4月までのわずかな期間に主にコスト面などの問題から、あえて省エネ基準に適合していない賃貸住宅を安価に建設しても、数年後~10年後以降の市場においてその“商品価値”は省エネ基準に適合している住宅よりも明らかに劣後してしまいますから、今から新たに賃貸住宅を建設しようと考えるのであれば、少なくとも2025年4月以降に適用される省エネ基準に最低限適合している必要がありますし、可能であれば(将来の基準の引き上げも想定して)さらに基準の高いZEH賃貸住宅や長期優良住宅仕様、低炭素住宅仕様などの賃貸住宅の建築・購入を検討するべきということになります。

また、2025年4月以降は、賃貸住宅流通に関する融資条件に省エネ基準に適合しているか否かという条項が加えられる可能性があり(もしくは省エネ基準適合の賃貸住宅の購入について金利優遇対応するなどの措置も考えられます)、賃貸住宅の流通においても、今後省エネ基準に適合しているか否かが“商品価値”を左右する要因の一つとなり得ることをイメージし、省エネ改修後に売却する、もしくは省エネ基準に適合している賃貸住宅を購入するなどの現実的な対応が求められます。

2025年4月の全新築建築物に対する省エネ基準の適合義務化は、単に住宅性能を引き上げるだけでなく、そう遠くない将来には賃貸市場における“商品”としての住宅の価値を(もちろん賃料水準も)大きく変えてしまう可能性があります。それを具体的にイメージし、賃貸住宅においても省エネ基準の策定がなぜ必要なのか、また省エネ基準に適合していることがなぜ重要なのかということを、企業も消費者もより強く意識しなければならなくなります。省エネ基準が賃貸住宅の“商品価値”を決める時代が間もなくやって来るのです。

 ≫関連コラム
  『改正建築物省エネ法の施行まで1年半。賃貸住宅の省エネ化を進めるべき理由①

  改正建築物省エネ法の施行まで1年半。賃貸住宅の省エネ化を進めるべき理由① 2025年4月に施行される改正建築物省エネ法とは具体的にどのようなものか?住宅の何が変わるのか、について解説いたします。 LIFULL HOME'S Business 仲介・管理
 
中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

関連する最新コラム

キーワードから検索

footer logo
不動産業・住宅業にかかわる「会社や人」の課題を発見・解決し、
成果をもたらす行動スイッチをONにするメディア
業務支援サービス提供企業の方へ
LIFULL HOME'S Businessへ自社のサービスを掲載。
全国の不動産・住宅会社様へアピールいただけます!
facebook

Facebook
コラムやセミナー、業界情報などの最新情報をいち早くお届けします。

その他のビジネス向けサービス