不動産業界におけるストック型ビジネスとは? 2030年問題と対策を解説
一般的に、不動産業界における利益創出の方法といえば、一件ずつの販売や契約獲得によって成り立つ「フロー型ビジネス」が基本とされてきました。しかし、複雑かつ先行き不透明な現代にあって、フロー型ビジネスのみに頼る収益構造ではどうしても経営が不安定になりがちです。
そこで、不動産業界においても継続的に収益が得られる「ストック型のビジネスモデル」の重要性が注目を集めています。今回は、これからの不動産業界を取り巻く課題と対策、そして具体的な取組みとしてのストック型ビジネスモデルについて解説します。
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目次[非表示]
- 1.2030年問題とは?
- 1.1.少子高齢化に伴う人口減少
- 1.2.空き家の増加・マンションストックの老朽化
- 1.3.働き方改革の進展
- 1.4.環境課題への適応
- 2.2030年問題が不動産業界に与える影響
- 2.1.人材不足の深刻化と人件費高騰
- 2.2.住宅購入者の減少
- 3.不動産業界における2030年問題への対策
- 3.1.デジタル化による業務フローの改善
- 3.1.1.業務効率化の具体例
- 3.2.多様な人材の活用
- 3.3.時代に合わせたビジネスモデルの構築
- 4.ストック型ビジネスの具体例
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2030年問題とは?
「2030年問題」とは、人口構造の変化によって国内のさまざまな仕組み・制度に及ぶ影響の総称です。ここでは、国土交通省の『不動産業ビジョン2030』より、不動産業界に関連のある主要な変化を見ていきましょう。
少子高齢化に伴う人口減少
2030年問題における大きな要素として挙げられるのが人口構造の変化です。少子高齢化により、生産年齢人口(15~64歳)は2015年から2030年にかけて853万人減少し、反対に高齢人口は329万人増加するとされています。
空き家の増加・マンションストックの老朽化
2018年までの30年間で、国内における空き家総数は394万戸から846万戸へと増加しており、周辺環境への悪影響などによって問題となっています。また、マンションのストックについても築40年を超える物件が20年間で279万戸も増加し、既存ストックの老朽化問題も顕在化しています。
これらの問題を解消するために中古住宅の流通を活性化させることが、不動産業界の新たな使命といっても過言ではありません。
働き方改革の進展
働き方改革の進展により、不動産業界でも古い仕組みを刷新していく必要性が高まっています。不動産業界には、長時間労働の制限と生産年齢人口の減少により、深刻な人手不足を抱える現場も決して少なくありません。
限られた人的資源で競争力を保つには、IT技術の活用などによって生産性を向上させるとともに、新たな収益構造の確立が求められるのです。
環境課題への適応
持続可能な社会の実現へ向けて、住宅業界においても環境課題への適応が強く求められるようになっています。2024年現在、特に大きなトピックとしては「住宅ローン減税の要件に省エネ基準が加えられたこと」が挙げられます。
2024年以降に建築確認を受ける新設住宅については、一定の省エネ基準を満たさなければ住宅ローン減税を受けることができなくなりました。この変化は、当然ながら住宅に対する消費者ニーズにも大きな影響を与えると考えられます。
2030年問題が不動産業界に与える影響
2030年問題は国内のさまざまな仕組みに影響を与えるものですが、特に「衣食住」の「住」に関わる不動産業界では、大きな影響が予想されます。ここでは、特に不動産会社にもたらされる影響について、さらに詳しく見ていきましょう。
人材不足の深刻化と人件費高騰
前述のように今後のビジネス環境は、労働人口の減少と働き方改革の進展により、深刻な人手不足に見舞われると想定されます。不動産業界においては、他業界も含めた人材獲得競争の激化が起こり、採用難に陥ってしまうケースも少なくはないでしょう。
近年ではワークライフバランスを重視する求職者も増えていることで、「高すぎる売上目標」や「長時間勤務」などは、従来よりも採用を難しくさせてしまいます。また、関連する建築業界においては、2024年4月から長時間労働の上限規制が適用されることにより、人件費の高騰が課題となっています。
人件費が上がれば、そのまま住宅価格の高騰にもつながるため、不動産業界にも大きな影響を及ぼすと考えられるでしょう。
住宅購入者の減少
住宅販売においては、「単身世帯の増加」「若者世帯の減少」により、メインとなる消費者層が激減してしまうことが大きなリスクとなります。消費者の母数が減少するため、これまでと同じ戦略では売上が低下してしまい、競争力を失う可能性が高まります。
不動産業界における2030年問題への対策
2030年問題が不動産業界にもたらす影響を端的にまとめれば、「人材不足」と「住宅ニーズの減少」の2つに分けることができます。ここでは、2つの主要な課題を解消するために、個々の不動産会社が取り組むべき対策について見ていきましょう。
デジタル化による業務フローの改善
深刻な担い手不足による影響を解消するためには、IT技術の活用によって生産性を向上させることが近道となります。不動産業界は比較的新しい技術の導入が浸透しにくい面があり、老朽化システムや紙媒体を中心とした業務フローが残っている会社も少なくはありません。
まずは、業務を支える基本的なシステムを見直し、少ない人員でも回せるような仕組みを整えることが重要です。具体的には、次のような施策が挙げられます。
業務効率化の具体例
・ITツールによる顧客管理
・入居者管理ツールによる管理業務の効率化
・オンラインサービスによる内見業務・重説の効率化
・ペーパーレス化によるコスト削減
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多様な人材の活用
人材不足を解消するためには、多様な人材を活用できる可能性を模索することも大切です。代表的な方法としては、「シニア世代の活用」があります。
65歳以上の労働意欲を持つ方の割合は増えており、豊富な経験や人脈を持つベテランの活躍はさまざまな業界で期待されています。社内における定年年齢の引き上げや、業務委託による労働機会の確保などを検討してみるのも一つの方法です。
また、「フレックスタイム制」や「テレワーク」の実現といった柔軟性のある働き方を確立すれば、育児や介護との両立を希望する人材に活躍してもらえる環境を提供することができます。
時代に合わせたビジネスモデルの構築
住宅販売戸数の減少リスクを考慮すると、個々の不動産会社には新たなビジネスモデルの構築が迫られているとも捉えられます。そこで重要となるのが、新規契約に頼らずに収益を獲得できる「ストック型ビジネス」の構築です。
たとえば、既存住宅の活用機会が増えることを見越して「リフォーム・リノベーションに力を入れる」、地域とのつながりを深めて「見守りサービスや生活相談サービスと連携する」といった方向性が考えられます。
ストック型ビジネスの具体例
ストック型ビジネスにはさまざまな形態があります。ここでは、不動産業界における具体例を見ていきましょう。
賃貸経営
マンションやビルなどを賃貸し、家賃収入を得るのはストック型ビジネスの代表的なモデルです。自社で利用していた物件やビルを賃貸物件として転用し、一般の入居者や法人に貸し出すことで、安定的かつ継続的な収益が見込めます。
また、「遊休地に太陽光発電を設置する」「都心の空室をトランクルームや貸会議室として活用する」といった方法もストック型ビジネスの代表的なケースです。
定期メンテナンス
ビルやマンションの定期メンテナンスなどの管理業務も、継続的に利用してもらえるという点で見ればストック型ビジネスの一つです。不動産会社の業務内容との相性が良いため、仲介や販売を中心としている企業であれば、新たに取り組む価値は大いにあるといえます。
会員制サービス
ウォーターサーバのレンタル契約やフィットネスジムの利用契約といった会員制サービスも、代表的なストック型のビジネスモデルです。地域密着型で営業する不動産会社であれば、会員制サービスにはさまざまな可能性が考えられます。
また、高齢者を対象とした見守りサービスや、高齢の入居者を受け入れる賃貸経営者に向けた原状回復費用補償サービスなど、高齢化に合わせたサービスを扱う会社も増えています。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:2030年問題が不動産業界に与える影響とは?
A:2030年問題とは少子高齢化による人口動態の変化によって起こる影響の総称です。雇用や年金制度などにさまざまな影響が及ぶと予測されており、不動産業界においても「人材不足」や「住宅ニーズの減少」といった形で課題をもたらす可能性があります。
Q:不動産業界におけるストック型ビジネスにはどんなものがある?
A:代表的なのは賃貸経営による家賃収入の獲得です。一般の入居者を募るだけでなく、法人に貸し出したり、会議室やトランクルームとして活用したりといったさまざまな方法があります。また、地域に根差した不動産会社であれば、見守りサービスなどの会員制サービスも有力な方法になり得ます。