不動産業界の課題と今後の動向は? 「不動産業ビジョン2030」の全体像を解説
人口減少や少子高齢化が毎日のように社会問題として取り上げられる昨今、不動産業界における課題と今後の動向はどのようなものでしょうか。国土交通省がおよそ四半世紀ぶりにとりまとめた、2019年4月の「不動産業ビジョン2030」の全体像を紹介しながら、不動産業界の今後を考えてみましょう。
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不動産業界が抱える課題と動向
「不動産業ビジョン2030」は、令和の時代における不動産業の発展を支える官民共通の指針として策定されたものです。ビジョンの策定にあたっては、不動産業が「我が国の豊かな国民生活、経済成長等を支える重要な基幹産業」であることを再確認し、不動産業の将来像や目標に向かって官民一体となって取り組みを推進する必要性が述べられています。
まず、不動産業界の現在の市場環境がどのようなものであるか、課題や変化とともに確認してみましょう。
不動産業界を取り巻く社会情勢
少子高齢化や人口減少、避けられない自然災害はもちろんのこと、不動産業界特有の主な課題として、空き家や空き地の増加、住宅や商業施設の老朽化が挙げられます。
利活用されていない空き家や空き地は近年増加傾向が続いており、今後も世帯数の減少に伴い、同様の傾向が続くと見込まれています。
次にマンションやオフィスの築年数にも目を向けてみましょう。日本において築40年を超えるマンションは、2017年からの20年間で279万戸増加すると見込まれています。また、東京23区にあるオフィスの平均築年数は、2019年時点で30.9年です。新たなオフィスビルの開業も見られる一方、今ある建物の老朽化も確実に進んでいきます。
しかし、課題ばかりではなく、チャンスといえる社会情勢もあります。例えば、テレワークの浸透によって場所に縛られずに働ける環境が整い、ECサイトの普及もあってインターネットでの買い物も容易になりました。つまり、不動産業界においては、利便性の高い立地が高い価値を持つという従来の傾向が緩やかになってきていると考えられます。
また、新型コロナウイルスの蔓延を原因とする減少はあったものの、訪日外国人・在留外国人は増加傾向にあり、世界の中で選ばれる都市を形成する必要性や、外国人向け住宅の需要増など、不動産業界の成長につながるテーマも存在しています。
(出典:国土交通省 不動産業ビジョン2030)
不動産市場に起きている変化
不動産市場においては、消費者・企業・投資家それぞれのニーズ変化が起きています。
消費者ニーズの変化は、「家の所有から家の利用へ」です。持ち家か賃貸か、という永遠のテーマに変化が起きています。国土交通省の調査によると、依然として持ち家志向が多数派ではあるものの、土地が有利な資産であると考える人の割合は年々低下しており、持ち家にこだわらない人も増加傾向にあります。
企業ニーズの変化は、「快適性・利便性の高いオフィス」と「テレワークの導入」です。優秀な人材の確保や生産性向上の観点から、オフィス環境の改善に対する企業のニーズが高まっています。また、コロナ禍を経て、週5日出勤のワークスタイルから、テレワークも取り入れた柔軟な働き方に変わった人も多いのではないでしょうか。この変化に合わせ、サテライトオフィスやシェアオフィスを導入する企業も増えています。
最後となる投資家ニーズの変化は、ESGやSDGsへの配慮を求める動きが広がっている点にあります。つまり、不動産業界において、省エネや防災、地域社会への貢献といった切り口が重要性を増していると考えられるのです。
今後の不動産業界が目指す姿
「不動産業ビジョン2030」では、不動産業界が支えるものとして次の3つを挙げています。これからの不動産業界が担うべき姿を確認してみましょう。
不動産業界が支えるもの①豊かな住生活
良質な住宅の供給や、ライフステージに合わせた円滑な住み替え、さらには住宅の資産価値維持によって人々の生活の基盤を支えることこそ、不動産業界の貢献が期待される点です。期待に応えるためには、人々が住まいに関して持つ十人十色のニーズを細やかに捉えていく必要があるでしょう。
不動産業界が支えるもの②我が国の持続的成長
オフィスや製造・物流拠点、ホテルやリゾート施設、商業施設の供給や維持管理によって、国内外からヒト・モノ・カネ・情報を呼び込むこと、さらに新たな価値やイノベーションの創出を促していくことが不動産業界の重要な役割です。
不動産業界が支えるもの③人々の交流の「場」
人口減少や少子高齢化の中でも、人との交流促進や、まちににぎわいを生み出すための「場」づくりが、不動産業界には期待されています。例えば、課題の1つである空き家をカフェとして再生させ、交流の場やイノベーションの場として活用する取り組みは、不動産業界だからこそ提供できるものでしょう。
(出典:国土交通省 不動産業ビジョン2030)
民間企業の役割
不動産業界がこれら3つを支えていくために、民間企業はどのような役割を果たすべきでしょうか。
「不動産業ビジョン2030」では、トータルサービスの提供に言及しています。例えば、交通や運送といった他業種との連携により、”住む”にとどまらない価値を創出し、多様なニーズに応えていくといったものです。不動産業界を取り巻く情勢の変化に対応し、新しいライフスタイルと、それを実現できる住まい・オフィスを併せて提案していく姿勢が必要です。
また、AIやIoTの活用による不動産業界全体の業務効率化や、不動産業界従事者の満足度向上による担い手の確保、利用者の利便性向上などにも民間企業は取り組むべきであるとしています。
国や行政の役割
一方、民間企業が役割を果たせるよう後押しするために、国や行政は何をすべきでしょうか。大きくは、市場環境の整備、社会のニーズの変化を踏まえた政策展開、不動産業界への適切な指導監督を挙げていますが、もう少し具体的な取り組みを見てみましょう。
例えば、“住む”にとどまらない価値として、子育て支援や高齢者の買い物代行といったサービスが地域や不動産の価値にどう影響するかという検証が、政策課題の1つとして挙げられています。付随サービスの効果が実証されれば、民間企業の事業参入ハードルも大きく下がり、トータルサービスとしての不動産事業も一歩進展するでしょう。
今後の持続的な発展にむけて
人口減少や少子高齢化が不動産業界にとって大きな脅威であることに変わりはありません。しかし、新たな技術の活用を推し進めながら、社会のニーズやライフスタイルの変化を捉え、令和時代の「不動産最適活用」という新たな活路を見出すことは可能と考えられます。
住む、働く、余暇を過ごすための「場」や「空間」をつくるために、決して欠かせないのが不動産業界です。他業種や国・行政と連携しながら、変化するニーズに対応し、新たなライフスタイルや価値を提供していくことに期待が膨らみます。
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