農地付き空き家に期待されることと「『農地付き空き家』の手引き」について解説
人口減少や都市部への人口集中により、空き家の増加は全国的な課題となっています。特に地方部では、遊休農地とセットになった「農地付き空き家」が数多く存在しており、その利活用が地域活性化の重要なテーマにもなっています。
今回は農地付き空き家に関する国の取り組みと、国土交通省が策定したガイドライン「『農地付き空き家』の手引き」の内容について見ていきましょう。
目次[非表示]
- 1.農地付き空き家とは
- 2.農地付き空き家に関する国の取り組み
- 2.1.取り組みの背景
- 2.2.具体的な取り組みの流れ
- 3.「『農地付き空き家』の手引き」の内容
- 3.1.空き家をめぐる動向
- 3.2.空き家バンク制度の立ち上げ
- 3.3.農地付き空き家提供の流れ
- 3.4.取り組み事例
- 3.5.関連制度等の紹介
- 4.2023年の農地法改正に伴う重要な変更点
- 4.1.従来の農地法におけるルール
- 4.2.農地の権利取得に係る下限面積要件の廃止
農地付き空き家とは
農地付き空き家とは、その名のとおり空き家と農地がセットになった物件のことです。物件の入居後はすぐに家庭菜園や畑仕事をスタートできるのが魅力であり、地方部での暮らしに憧れる都市部の人々から注目が集まり始めています。
もともと、農地付き空き家は空き家バンクで扱われていた物件種別のことであり、用語そのものは一部の市町村で使われていました。しかし、放棄された空き家や耕作地の増加が問題視されるなかで、2018年には国土交通省が「『農地付き空き家』の手引き」というガイドラインを制定し、国レベルで利活用に力が入れられるようになりました。
売主にとっては住宅と農地を一度に手放せるのがメリットであり、買主にとっても既存住宅と農地がまとめて取得しやすくなることで、地方移住のハードルが下がるのがメリットです。
農地付き空き家に関する国の取り組み
農地付き空き家の活用促進は、国が主導して行う大規模な取り組みとなっています。ここでは、実施に至った背景も含めて、具体的な取り組みの内容について見ていきましょう。
取り組みの背景
人口減少や地方部の過疎化などによって、地方部では空き家の増加が長らく問題視されてきた課題となっています。国土交通省のガイドラインによれば、2013年に約820万戸あった空き家の総数は、10年間で1,400万戸にまで増加するという推計が紹介されています。
一方、総務省が2016年度に行った「『田園回帰』に関する調査研究」では、若い世代を中心に地方への移住の前向きな動きが見られたという結果が示されています。これは、地方部の遊休地に十分な利活用の可能性があるとも捉えられるでしょう。
こうしたなかで、農作業へのニーズを持った移住希望者に地方部の空き家や遊休農地を活用してもらい、地方創生や地域の活力の維持・向上につなげるという趣旨で農地付き空き家に関する取り組みが本格的に実施されていきました。
具体的な取り組みの流れ
国土交通省では、2018年3月に「『農地付き空き家』の手引き」を公表し、空き家や遊休農地に関する取り組みのスタンスを明確化しました。これは、円滑な利活用に関する制度や手続きの流れ、取り組み事例などを取りまとめたものです。
その後、2020年には地域再生法に「既存住宅活用農村地域等移住促進事業」制度が定められ、農地付き空き家の取得支援がさらに促進されていきます。さらに、2023年4月には農地法の改正が行われると、農地の権利取得に関する要件の一部が廃止され、ますます農地付き空き家を取得しやすい環境が構築されるようになりました。
(出典:「『農地付き空き家』の手引き」)
「『農地付き空き家』の手引き」の内容
「『農地付き空き家』の手引き」は、以下のような内容で構成されています。
内容の構成
|
ここでは、それぞれの内容について簡単に整理しながら確認していきましょう。
空き家をめぐる動向
手引きではまず、都市部や若者世代における田園回帰の傾向と、空き家の現状についてさまざまなデータが紹介されています。
空き家バンク制度の立ち上げ
続いて、具体的な取り組みとして空き家バンク制度の立ち上げに関する検討事項と制度要項が記載されています。空き家バンクの目的や制度の細かなルールなどが主な内容であり、登録申し込みの方法、登録事項の変更・抹消、情報提供の方法、定住アドバイザーの設置等などについて書かれています。
農地付き空き家提供の流れ
農地付き空き家が提供される主な流れは、次のように紹介されています。
農地付き空き家が提供される流れ
1.空き家バンクから所有者へ空き家情報の募集をかける |
また、このほかに、移住定住アドバイザーの設置やお試し移住プログラムの提供、就農支援プログラムの提供に関する施策との連携も効果的であるとされています。
取り組み事例
手引きでは、農地付き空き家に関する具体的な参考事例も紹介されています。たとえば、兵庫県宍粟市が2010年という早期に空き家バンクをスタートし、移住定住相談会の継続的な実施などにより一定の成果を上げている様子が紹介されています。
また、大分県武田市の例では、ワンストップ相談体制による移住・定住施策の推進、地域おこし協力隊の積極的な活用などによって移住サポートが行われていることに触れられています。空き家バンクへの着手も2005年と早く、手引きが作成された2018年時点で「成果済み163件」「利用希望登録者数1,077世帯」と大きな成果が表れています。
関連制度等の紹介
手引きでは最後に関連する制度の紹介が行われています。全国版空き家バンクや空き家再生等事業、各種就農支援制度、移住・二地域居住への支援制度がまとめて掲載されており、それぞれの内容が簡単に紹介されています。
(出典:「『農地付き空き家』の手引き」)
2023年の農地法改正に伴う重要な変更点
これまで見てきたように、「『農地付き空き家』の手引き」では農地付き空き家の具体的な取扱いについても詳しく記載されています。そのうえで、2023年の農地法改正に伴い、手引きの内容にも変更点が生じているため注意が必要です。
ここでは、農地法改正の具体的な内容と影響について見ていきましょう。
従来の農地法におけるルール
従来の農地法(1952年法律第229号)では、農地を取得する際には農業委員会の許可を必要とし、原則として「取得後の農地面積の合計が50a以上(北海道は2ha以上)」あることが許可の要件(農地の権利取得に係る下限面積要件)とされていました。
1aは「10m×10m=100平米」の広さを表す単位なので、50aともなればその広さは5,000平米(1,500坪強)にもなります。しかし、ほとんどの場合、空き家に付随する農地は小規模でありこの基準を満たしていません。
そこで、従来では農業委員会が地域の実情に応じて、空き家に付随する農地を「別段の面積」として定めて許可をするという特例が設けられていました。「『農地付き空き家』の手引き」もこの従来のルールに基づいて作成されています。
農地の権利取得に係る下限面積要件の廃止
2023年4月1日に、「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律」により改正された農地法が施行されると、それまで設けられていた農地の権利取得に係る下限面積要件が廃止されました。これは、経営規模の大小にかかわらず、農業に新規参入する方を地域内外から取り込み、農地の利用を促進しやすくすることを目的としています。
この変更により、農地付き空き家の取引の手順から「別段面積に関する手続き」が省略され、よりスムーズに売買・賃貸借が行えるようになりました。法改正による取り扱いの簡略化により、今後はますます農地付き空き家の利活用が進んでいくと期待されています。
(出典:「『農地付き空き家』の手引き」)
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:農地付き空き家とは?
A:農地が付属した既存住宅のことであり、地方部の人口減少などによって年々増加傾向にあります。都心部での田園回帰の傾向に伴い、地方創生を進めるための財産として、国レベルでの活用促進が進められています。
Q:「『農地付き空き家』の手引き」とは?
A:国土交通省が2018年に策定したガイドラインのことです。内容は空き家の現状や農地付き空き家に関する取り組み、取引の流れ、積極的に取り組む自治体の事例、関連制度の紹介などで構成されています。
≫ 不動産仲介・管理業務で役立つ営業ノウハウなどをお届け『セミナー・イベント』