不動産会社が知っておくべき「空家対策特別措置法の改正ポイント」
2015年5月に施行された「空家対策特別措置法」が改正され、2023年12月に施行されました。
全国で空き家問題が深刻化するなか、これまでの措置法では空き家の減少が見込みにくいことから、勧告の対象となる空き家の範囲を増やし、空き家活用を促進するために規制を緩和する措置などを盛り込む形での改正となりました。
そこでこの記事では、不動産事業における空き家の売買や管理の需要にも関連する、空家対策特別措置法の概要や改正ポイントについて解説します。
目次[非表示]
- 1.空家対策特別措置法の概要
- 1.1.空家対策特別措置法とは?
- 1.2.空家対策特別措置法における特定空家とは?
- 1.3.空家対策特別措置法における罰則
- 2.空家対策特別措置法の改正の背景
- 3.空家対策特別措置法の改正ポイント
- 3.1.1.空き家の活用拡大
- 3.2.2.特定空家になる前段階からの管理の確保
- 3.3.3.特定空家の除去
- 4.まとめ|空家対策特別措置法の改正が不動産事業に与える影響
空家対策特別措置法の概要
はじめに、空家対策特別措置法の概要を背景を含めてお伝えします。
空家対策特別措置法とは?
空家対策特別措置法(正式名称:空家等対策の推進に関する特別措置法)は、2013年時点で全国約820万戸と、年々増加する空き家に対応するために2015年に施行されました。
適切に管理されていない空き家は地震や台風で倒壊する危険があるだけでなく、地域の景観を損ね、治安の悪化につながる可能性があります。
空家対策特別措置法によって、「特定空家」等に指定された空き家に対して、市区町村から適切に管理するよう助言・指導、あるいは勧告・命令を行えるようになりました。
空家対策特別措置法における特定空家とは?
空家対策特別措置法の対象となる「特定空家等」とは、以下のような状態の空き家を指します。
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態
老朽化や不同沈下によって建物自体が傾いている、あるいは門扉やガラス窓が外れかけている状態などは、倒壊や通行人にけがをさせる可能性があります。
また、ゴミの不法投棄によって悪臭を放っていたり、ゴキブリやネズミなどの害虫や害獣が発生している空き家は、不衛生なだけでなく町の美観を損なっていると判断されるでしょう。こういった空き家は、特定空家に認定される可能性があるのです。
(出典:国土交通省「「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針」)
空家対策特別措置法における罰則
特定空家に指定されると、市区町村が定めた手続きに則って罰則が適用されることがあります。
特定空家に指定された場合、市区町村は空き家の所有者に事前に通知したうえで、空き家への立ち入り調査を行うことができます。外観からの調査では足りない場合、必要最小限の範囲で敷地内に立ち入って、建築物に触れるなどの調査が可能です。
そのうえで、空き家の所有者に対して「助言・指導」を行い、自らの意思で状態を改善することを求めます。それでも改善されない場合に出されるのが「勧告」です。所有者に相当の猶予期間を設けたうえで、必要な措置を取ることを勧告します。
勧告を受けると固定資産税等における住宅用地の特例の対象から除外されることになり、固定資産税額は最大6倍、都市計画税は最大3倍になる可能性があります。
勧告に対しても所有者が対処しない場合、市区町村は改善の「命令」を出すことができるようになります。この命令は勧告までとは異なり行政処分であり、不服がある所有者は異議申し立てをすることが可能です。この命令に違反した所有者は、50万円以下の過料が科されます。
そして、命令したものの対応しない場合や定めた期限までに完了しない場合の最終的な罰則が「行政代執行」です。
行政代執行は、所有者に代わって行政が空き家等の改善措置を実行し、かかった費用を所有者に請求する制度です。
たとえば、所有者に代わり建物を解体する場合、作業者への報酬や資材費、第三者に支払う補償などの費用について、国税を滞納している場合と同様の強制徴収が認められます。
空家対策特別措置法の改正の背景
空家等対策特別措置法が改正され、2023年12月13日に施行されました。
同法は2015年に施行されたものの、1998年から2018年までの20年間で、使用目的のない空き家数が約1.9倍に増え、今後さらに増加する見通しであることから改正に至りました。
それまでの空家等対策特別措置法は、緊急性を踏まえ、周辺に著しい悪影響を及ぼす特定空家への対策を中心に行うものでしたが、特定空家となってからの対応では限界があります。
そこで、「空き家の活用を拡大」「悪化を防止する空き家管理」「特定空家の除去」という三つの観点からの対応を強化する形で空家対策特別措置法は改正されました。
(出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律について」p.3)
空家対策特別措置法の改正ポイント
ここでは、空家対策特別措置法の改正ポイントについて解説します。
1.空き家の活用拡大
市区町村は、中心市街地や地域再生拠点など、空き家の活用が必要と考えられる区域を「空家等活用促進区域」として定め、規制の合理化等の措置を講じることができます。区域内では、所有者に対して活用指針に沿った空き家活用を要請することも可能です。
たとえば、建築基準法では、幅員4m以上の道路に2m以上接道していなければ、建て替えや改築はできません。それが、市区町村が定める「敷地特定適用要件」に該当する空き家であれば、4m未満の道路でも建て替えや改築ができるようになります。
そのほかにも、都市計画法によって用途地域別に建築できる種類の建物が制限されている場所でも、市区町村が定める「用途特例適用要件」に該当する用途への変更がしやすくなるなどのメリットがあります。
また、地方住宅供給公社やUR(都市再生機構)、住宅金融支援機構は、市区町村から委託を受け、空き家の買取分譲やまちづくりの計画策定などによって市区町村を支援することが可能です。
さらに、空き家の活用や管理に積極的に取り組むNPO法人や社団法人を「空家等管理活用支援法人」に指定し、空き家所有者と活用希望者のマッチングや相談窓口の設置などの取り組みが行われています。
2.特定空家になる前段階からの管理の確保
周囲に著しい悪影響を及ぼす特定空家になる前に空き家の管理を確保する観点から、国は、所有者が定期的に空き家の換気や通水、庭木の伐採などを行うことを定めた管理指針を示しました。
市区町村は、放置すれば特定空家になる恐れのある「管理不全空家」に対して管理指針に即した措置を指導し、指導しても改善が見られない場合は勧告を行うことが可能です。
勧告を受けた場合、特定空家と同様、住宅用地の特例の適用対象外となり、固定資産税額が上がる可能性があります。
つまり、改正によって、固定資産税に関する罰則を受ける空き家が特定空家だけでなく管理不全空家まで広がったといえます。
また、市区町村は電力会社などに空き家の所有者情報の提供を求めることができると明確化されたほか、所有者の代わりに建物管理を行う「管理不全建物管理人」の選任を裁判所に請求することが可能となりました。
3.特定空家の除去
今回の改正は、特定空家の除去をより円滑に行うことにもつながっています。
改正前は特定空家の所有者から報告徴収する権限がありませんでしたが、改正法ではこれを市区町村に付与し、特定空家への勧告、命令をより円滑に行えるようになりました。
また、改正前は、緊急時でも特定空家の除去などの代執行を行うためには命令を経る必要がありましたが、改正後は、緊急時には命令等の手続きを経ずに代執行が可能となりました。
さらに代執行費用の徴収についても、改正前は、略式代執行(所有者不明時の代執行)を行った後に所有者が判明した場合、費用を徴収するには裁判所の確定判決が必要でした。
改正後は、略式代執行や緊急代執行においても、通常の代執行と同様に、強制的に費用を徴収することが可能です。
また民法では、土地や建物の所有者が不明である場合、利害関係人の請求によって、裁判所が選任した財産管理人が管理や処分を行うことが認められています。
改正後は、空家等の適切な管理のために特に必要と認められる場合には、利害関係人だけでなく市区町村長にも財産管理人の選任請求が認められるようになりました。
法改正を受け、空き家の対処に困った不動産オーナーから、空き家の活用や相続などに関しての相談が今後増える可能性があります
まとめ|空家対策特別措置法の改正が不動産事業に与える影響
空家対策特別措置法の改正によって、空家等活用促進区域では、空き家の建て替えや改築が可能となるケースが増えることが予想されます。
また、特定空家だけでなく管理不全空家も固定資産税の特例から除外される可能性があるため、今後空き家所有者が何らかの対策を求められるケースも増えるでしょう。
このように、不動産事業者にとっても、空き家所有者からの相談が増え、空き家の売却や建て替え、物件管理の需要が増えることが考えられます。ぜひ参考にしてください。
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