火災保険が大幅値上げ。値上げの背景や不動産市場への影響は?
2024年10月から、住宅にかかる火災保険料が値上がりする予定です。火災保険料の値上げは、自然災害などによる火災保険事業の赤字が原因といわれています。それでは、火災保険の値上げは、住宅購入者や賃貸入居者、不動産オーナーにどのような影響を及ぼすのでしょうか。
本記事では、火災保険の値上げの背景と保険料率の引き上げ幅を見ていきます。値上げによる不動産市場への影響についても解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
目次[非表示]
- 1.火災保険料値上げの背景は?
- 1.0.1.火災保険の保険料率
- 1.1.自然災害の増加
- 1.2.築年数の古い住宅の割合が増加
- 2.引き上げ幅は全国平均13%
- 2.1.水災リスク「5段階」に分類
- 3.火災保険料値上げによる不動産市場の影響は?
- 3.1.住宅購入者、賃貸入居者への影響
- 3.2.不動産オーナー、不動産会社への影響
- 4.今後も保険料値上げの可能性が考えられる
火災保険料値上げの背景は?
2023年6月28日に、損害保険の基準料率の算出などを行う「損害保険料率算出機構」が、火災保険の純保険料率を引き上げると発表しました。
そもそも火災保険料は「純保険料率」と「付加保険料率」の2種類で構成されています。純保険料率は、事故が起きた際に保険会社が支払う保険金に充てられる部分です。一方の付加保険料率は、保険会社が事業を進めていくうえで必要な経費に充てられる部分です。
火災保険の保険料率
純保険料率 |
事故が起きた際に保険会社が支払う保険金に充てられる部分 |
---|---|
付加保険料率 |
保険会社が事業を進めていくうえで必要な経費に充てられる部分 |
そのため、純保険料率と付加保険料率どちらかが上がるに伴い、火災保険料も値上がりします。今回は、純保険料率部分が上がることになりました。
純保険料率が上がる主な要因は以下の2点です。
・自然災害の増加
・築年数の古い住宅の割合が増加
以下で詳しく見ていきましょう。
自然災害の増加
火災保険料の値上げは以前から繰り返し行われてきました。
その要因の一つに挙げられるのが、自然災害の増加です。近年の日本では自然災害の数が増加しており、台風や豪雨による洪水・土砂崩れなどに対する保険金の支払い負担が増え、火災保険事業が赤字状態に陥っています。
こうした事情を背景として、将来にわたって安定的に補償を提供し続けるために、損害保険料率算出機構は純保険料率の引き上げに踏み切ったのです。
(出典:金融庁 「火災保険水災料率に関する有識者懇談会」報告書)
築年数の古い住宅の割合が増加
住宅の老朽化も重要な要因の一つです。一般的に、建物は古いほうが災害の被害を受けやすいといわれています。築年数の古い建物の場合、電気や給排水設備などの老朽化を原因とする火災や水濡れリスクが高まります。その結果、台風や大雪などによる損壊が頻発し、保険金の支払い負担が増加しているのです。損害保険料率算出機構が2023年度に公表した2022年度統計の「火災保険・地震保険の概況」によると、築30年以上の住宅の割合は、2017年には28.4%でしたが2021年には33.5%と、増加傾向にあります。
この傾向が今後も続く場合、建物の老朽化によるリスクも増加し続けるため、火災保険料のさらなる値上げが実施される可能性が高いといえるでしょう。
引き上げ幅は全国平均13%
自然災害や築古住宅の増加を理由に、火災保険料は過去数年にわたり繰り返し引き上げられてきました。そして、2024年10月には純保険料率が全国平均で13%引き上げられる予定です。
また、今回の保険料率改定から水災リスクが新たに5段階に細分化され、区分によって異なる改定率が設定されます。水災リスクの細分化については、以下で詳しく解説します。
水災リスク「5段階」に分類
これまで、水災に関する保険料率は全国一律でしたが、今回の改定から5段階に細分化されることになりました。これは、地域によって水災の発生頻度や被害規模が大きく異なるため、平等に評価するための措置です。
各地域をリスクに応じて5段階に分類し、水災リスクが低い地域を1等地、そこから5等地まで、リスクの高さに応じて等地を設定します。保険料についても1等地が一番安く、等地が上がるにつれて高くなる仕組みです。
これにより、1等地の地域の保険料は、細分化前と比較して平均で約6%低い水準となり、反対に5等地の場合は約9%高い水準になります。
なお、水災料率の細分化は市区町村単位となるため、同一の都道府県であっても改定率が異なる場合がある点に注意が必要です。
地域ごとの水災等地は損害保険料率算出機構のホームページで確認することができます。
居住する地域や管理する物件の水災等地について確認しておきたい
火災保険料値上げによる不動産市場の影響は?
ここからは、火災保険料の値上げが住宅購入者や賃貸入居者、不動産オーナーなどにどのような影響を与えるのかを見ていきます。
住宅購入者、賃貸入居者への影響
これから住宅を購入しようと検討している場合、住宅ローン金利の引き上げ以外にも、火災保険料の値上げによる家計負担の増加が想定されます。
また、住宅を購入する際は、希望する地域をある程度定めることが一般的ですが、今後は水害リスクに応じて保険料が変動するため、火災保険料の安い地域を優先的に選ぶ人が増えるかもしれません。
賃貸住宅においては、物件オーナーが火災保険料の値上がり分を賃貸料に上乗せする可能性があります。これにより、特定の地域の賃貸住宅の賃貸料が上昇し、賃貸市場全体の賃貸料水準が上がることが考えられるでしょう。
なお、現在加入中の火災保険料が値上がりするのか気になる方もいるかもしれませんが、すでに加入している火災保険については、契約満期を迎えるまで金額は変更されません。2024年10月以降に加入した保険から、新しい保険料が適用されます。
不動産オーナー、不動産会社への影響
不動産オーナーにとっては、火災保険料の増加は直接的なコスト増につながります。このコスト増を賃貸料に完全に反映できるかどうかは市場状況に依存します。賃貸料を上げすぎると入居者の獲得が難しくなるため、コストと収益のバランスを考慮した戦略が求められるでしょう。
さらに、不動産売買市場においても、火災保険料が高い地域の物件は魅力が低下する可能性があります。物件の価値評価に影響が及び、販売価格が左右されることも想定されます。
また、近年の不動産価格の上昇傾向に火災保険料の増加が加わることで、購入者の家計負担がさらに重くなり、住宅ローンの滞納リスクも高まる可能性があります。そもそも住宅購入を見送る人も出てくるかもしれず、不動産市場全体が冷え込んでしまうケースも想定すべきでしょう。
水災等地や災害の起こりやすさなどが今後の住まい選びに影響を与える可能性があります
今後も保険料値上げの可能性が考えられる
2023年6月28日、損害保険料率算出機構が火災保険の純保険料率を引き上げると発表しました。引き上げ幅は全国平均で13%です。この引き上げの背景には、自然災害の増加による火災保険事業の赤字や築古住宅の増加が挙げられます。
また、今回の改定から水災リスクを5段階に分類されることになります。1等地の地域の保険料は細分化前と比較して平均で約6%低い水準になる一方、5等地の場合は約9%高い水準となります。
火災保険料は数年ごとに値上げが実施されてきましたが、自然災害の増加や建物の老朽化が進むと、今後さらなる値上げも考えられるでしょう。
これから住宅を購入しようと検討している場合は、購入希望の地域の自然災害の状況を事前に確認するなどの工夫が必要になってきます。不動産オーナーについては、購入物件の選択基準の見直しが求められるでしょう。
出典
損害保険料率算出機構 保険料率の算出
https://www.giroj.or.jp/ratemaking/
損害保険料率算出機構 火災保険・地震保険の概況
https://www.giroj.or.jp/publication/outline_k/k_2023.pdf
損害保険料率算出機構 住宅向け火災保険参考純率の水災料率を細分化します
https://www.giroj.or.jp/common/pdf/touchi/202306_announcement_attachment.pdf
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