不動産業による空き家対策推進プログラム|媒介報酬の見直しを含めて解説
2024年6月21日、国土交通省は、近年の空き家・空き室の急増による周辺環境の悪化や不動産の資産価値の低下といった課題の解決に向け、「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定しました。
空き家の媒介報酬の見直しなどが盛り込まれたこの空き家対策推進プログラムは、空き家の解消だけでなく、不動産事業者にとっても、空き家を取り扱うにあたっての収益性などの課題を解決するものとなっています。
この記事では、空き家対策推進プログラムの概要から、不動産事業に与える影響までを解説します。
目次[非表示]
- 1.不動産業による空き家対策推進プログラムについて
- 2.不動産業による空き家対策推進プログラムの概要
- 2.1.・流通に適した空き家等の掘り起こし
- 2.2.・空き家流通のビジネス化支援
- 3.空き家流通のビジネスを支援する4つの取り組み
- 3.1.空き家等に係る媒介報酬規制の見直し
- 3.2.「空き家管理受託のガイドライン」の策定・普及
- 3.3.媒介業務に含まれないコンサルティング業務の促進
- 3.3.1.1.不動産コンサルティングマスター検索システムの創設
- 3.3.2.2.「全国不動産コンサルティングフォーラム」の開催
- 3.3.3.3.課題解決支援ツール等の作成
- 3.3.4.4.媒介報酬規制の適用範囲の明確化
- 3.4.空き家対策の担い手確保~不動産DXによる業務効率化~
- 4.まとめ|今後も拡大が見込まれる空き家流通ビジネス
不動産業による空き家対策推進プログラムについて
初めに、「不動産業による空き家対策推進プログラム」が策定された背景と概要について解説します。
空き家対策推進プログラム策定の背景
全国的に空き家や空き室の増加が課題となる一方で、リモートワークの普及や働き方の多様化に伴い、都市部と地方のそれぞれに拠点を持ち、両方での生活を楽しむ「二地域居住」のニーズも高まっています。
このような状況のなか、物件調査から相続相談、売買ならびに賃貸の仲介までを担う不動産事業者には、これらの課題とニーズへの対応が期待されています。
一方で、地方を中心に、宅地や建物の売買や賃借に関する取引を行う宅地建物取引業者の事務所がない自治体が全1,747市区町村のうちの14%(274自治体)を占めるなど(令和5年国土交通省調べ)、不動産事業者の減少による空き家対策の担い手不足が危惧されている状況です。
このような背景があり、空き家についての相談から利活用まで、不動産事業者がこれまで以上に空き家所有者をサポートできるように、「不動産業による空き家対策推進プログラム」が策定されたのです。
移住相談件数は2021年以降上昇傾向にあります
(出典:国土交通省「不動産業による空き家対策推進プログラム」)
不動産業による空き家対策推進プログラムの概要
「不動産業による空き家対策推進プログラム」は、「流通に適した空き家等の掘り起こし」と「空き家流通のビジネス化支援」という2つの視点から、それぞれ4つの取り組みが図られています。
・流通に適した空き家等の掘り起こし
1. 所有者への相談体制の強化
2. 不動産業における空き家対策の担い手育成
3. 地方公共団体との連携による不動産業の活動拡大
4. 官民一体となった情報発信の強化
このように、空き家を持て余している所有者をサポートするための相談体制の構築や、官民一体となった情報発信の強化が図られています。
また、研修やネットワーク形成を通じた空き家対策の担い手育成や不動産業関連団体を「空き家等管理活用支援法人」に指定しやすい環境づくりなどが盛り込まれています。
・空き家流通のビジネス化支援
1. 空き家等に係る媒介報酬規制の見直し
2. 「空き家管理受託のガイドライン」の策定・普及
3. 媒介業務に含まれないコンサルティング業務の促進
4. 不動産DXにより業務を効率化し、担い手を確保
不動産事業者が空き家に関連するビジネスに積極的に取り組めるよう、媒介報酬の見直しや媒介以外のコンサルティング業務の促進などが盛り込まれています。
また、空き家管理業務を受託する際の標準的なルールとなるガイドラインの策定や、デジタル技術を用いた不動産DXによる空き家対策の担い手の確保が図られています。
空き家の利活用において、不動産業における包括的な課題解決が期待されています
空き家流通のビジネスを支援する4つの取り組み
空き家対策推進プログラムの中でも、不動産事業者に直接関係するのが「空き家流通のビジネス化支援」です。ここでは、この支援に含まれる4つの取り組みについて個別に解説します。
空き家等に係る媒介報酬規制の見直し
1つ目は、空き家の媒介に関する報酬規制の見直しです。
空き家は売買価格や賃料が低くなりやすく、価格に応じて決まる媒介報酬では不動産事業者が積極的に取り扱いづらいという課題を解消しようと定められたのが、この取り組みです。
まず、売買取引においては、宅建業法が定める媒介報酬の原則の例外として、「低廉な空き家等の媒介の特例」が設けられました。
具体的には、物件価格が800万円以下の空き家等について、原則による報酬の上限を超えて、30万円の1.1倍(税込)までを上限とする報酬を受領することが可能になりました。
また、賃貸借取引においては、原則として、貸主・借主の双方から受け取ることができる報酬の合計額は、1ヶ月分の賃料の1.1倍(税込)が上限です。
これに対して、現に長期間使用されておらず、または将来にわたり使用の見込みがない土地や建物については、1ヶ月分の賃料の2.2倍(税込)を上限とする報酬を受け取ることができる、「長期の空家等の媒介の特例」が設けられました。
ただし、この特例では、上乗せ分は貸主からのみ受領できます。
また、これらの特例を適用して報酬を請求する場合、媒介契約締結の際、あらかじめ依頼者に説明し合意を得なければなりません。
空き家等に係る媒介報酬規制の見直し
「空き家管理受託のガイドライン」の策定・普及
2つ目の取り組みとして、空き家管理サービスの需要拡大を図るため、主に不動産事業者を対象に、空き家管理を受託する際の標準的なルールを定めたガイドラインが策定されました。
空き家の所有世帯の家計を支える6割以上が65歳以上であり、空き家所有者の約3割が空き家まで移動するのに1時間以上かかっている現状から、今後、自ら管理することが難しくなり、第三者への委託需要の増加が予測されています。
その一方で、さまざまな主体が空き家の管理サービスを提供しているものの、管理業務の適正化を図る制度がありませんでした。
そこでこのガイドラインでは、空き家管理についての相談や管理委託契約締結時、管理業務を実施する際など、それぞれの場面に応じて、契約書の記載事項や貴重品の搬出、再委託などに関する指針を定めています。
(出典:国土交通省「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」)
媒介業務に含まれないコンサルティング業務の促進
3つ目の取り組みは、媒介業務とは別に行うコンサルティング業務の促進です。
宅建会社や宅地建物取引士には、媒介業務以外に、空き家の活用に関する課題整理や相続の相談、空き家の活用方針の提案といった、空き家所有者などに対する助言・調整業務の実施が期待されています。
具体的には次の4つが挙げられます。
1.不動産コンサルティングマスター検索システムの創設
空き家コンサルティングができる「不動産コンサルティングマスター」を課題別、地域別に検索できるシステムの構築。
2.「全国不動産コンサルティングフォーラム」の開催
空き家等の活用や不動産相続などに取り組むコンサルタントが参加し、先進的な取り組み事例や経験、知見を共有。
3.課題解決支援ツール等の作成
空き家に関する共通課題をテーマごとに検索できる事例紹介サイトなどを立ち上げ、コンサルタントや一般の所有者に情報提供。
4.媒介報酬規制の適用範囲の明確化
コンサルティング業務ついては媒介報酬とは別に報酬を受領でき、書面等により締結した契約に基づいて報酬を受ける場合は、宅建業法における報酬規制の対象とはならない点を明確化。
(出典:国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」の改正)
空き家対策の担い手確保~不動産DXによる業務効率化~
4つ目の取り組みは、空き家対策の担い手となる不動産事業者を維持、確保するための不動産DXによる業務の効率化です。
不動産取引においては、これまでにもオンラインによる重要事項説明や、売買あるいは賃貸契約時の交付書面の電子化など、デジタル化が進められています。
また、専任の宅地建物取引士のテレワークでの勤務や、本来勤務する事務所で一時的に業務が行われていない間に、同一事業者のほかの事務所での業務に従事できることが明確化されています。
さらに、空き家対策の担い手を確保するため、宅建業者向けの「DX関連情報サイト」の構築や、媒介契約から引越しの契約や行政手続きまで、不動産取引に伴う各種手続きをワンストップで行える体制の整備が図られています。
不動産DXにより業務効率化し、担い手を確保
まとめ|今後も拡大が見込まれる空き家流通ビジネス
空き家対策推進プログラムは、全国の空き家問題の解消につながる糸口となるといえるでしょう。不動産事業者にとっては、空き家に関するビジネスに着手しやすくなる取り組みだといえます。
媒介報酬の見直しや媒介以外のコンサルティング業務の促進、空き家の管理業務受注に関するガイドラインなどの施策をうまく活用することで、今後需要の増加が見込まれる空き家流通ビジネスに対応していくことができるでしょう。
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