計画修繕とは? その必要性や準備・費用について解説
管理物件の築年数の経過に伴い、オーナーへ計画修繕の提案を検討している方もいるのではないでしょうか。本記事では、計画修繕の必要性から、計画修繕に向けた準備や費用など、具体的なケースを取り上げて解説します。
目次[非表示]
- 1.計画修繕の必要性
- 1.1.負のスパイラルを回避
- 1.2.収益性の向上
- 2.計画修繕に向けた準備と実施イメージ
- 3.修繕時期を見極める点検の重要性
- 4.計画修繕に向けた資金確保と備え
- 5.計画修繕による好循環を
計画修繕の必要性
計画修繕とは、建物や設備の劣化部に関する修理や交換を計画的・予防的に行うことです。つまり、経年劣化を放置せず、劣化が大きく進む前に修繕することを指します。
賃貸物件の管理会社やオーナーにとって、計画修繕の必要性やメリットはどのような点にあるのでしょうか。「負のスパイラル」と「収益性」の2つの観点から解説します。
負のスパイラルを回避
小まめな修繕を行わず、経年劣化を放置した場合、どのような問題が発生するのでしょうか。
建物や設備が老朽化した状態では、物件の価値や魅力が低下し、入居率や家賃が次第に低下していきます。家賃収入の減少が続けば資金が不足し、建物の老朽化を遅らせるための修繕ができなくなります。結果、建物の老朽化・陳腐化がさらに進行し、入居率も同様に低下が続く、負のスパイラルに陥ってしまうのです。
一方、適切なタイミングで老朽化した部分を修繕した場合はどうでしょうか。
適切なタイミングで修繕ができるよう、長期の修繕計画を策定し、老朽化の進行を防ぐように努めると、物件の価値・魅力の維持ができるでしょう。入居率も保たれ、安定した家賃収入を得られることで、次の修繕の資金確保につながっていきます。
経年劣化による不具合や破損事象の例
(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」)
収益性の向上
老朽化が目に見えるほど進んでいない場合や、不具合が発生していない状態での予防的な修繕は、過剰な対応に感じるかもしれません。不具合が顕在化してから修繕を行うほうが、低コストで的確に対処できるようにも考えられます。
しかし実際は、不具合が発生してからの修繕よりも、計画修繕のほうが修繕費を抑えられるといわれています。
たとえば、建物の外壁破損によって雨漏りしてしまった場合を考えてみましょう。この場合、入居者への補償や、修繕に伴う一時退去にかかる費用、大きくなった破損箇所の修繕費などが発生します。さらに、修繕を行っている間は家賃収入が入らなくなります。これらはすべて、早期に外壁の修繕を行っていれば発生しなかった損失です。
実際に、計画修繕を実施したことの効果に関するオーナーアンケートにおいて、「高い入居率の確保」29.3%、「家賃水準の維持」28.0%、「入居期間の長期化」22.5%という結果が出ており、計画修繕のメリットがよくわかります。
さらに、計画修繕を実施した場合のほうが実質利回りが高くなるという、国土交通省住宅局の試算もあります。
計画修繕を実施したことの効果(オーナーアンケート調査)
資料:「民間賃貸住宅市場の実態把握及び分析に関する調査検討計画修繕の実態など調査報告書」(令和5年3月)国土交通省
(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」)
計画修繕に向けた準備と実施イメージ
それでは、計画修繕を実施するにはどのような準備が必要なのでしょうか。
具体的な計画を立てるためには、建物の屋根・外壁・階段・廊下・給排水管、外溝などについて、点検や修繕の時期の把握や、それぞれの費用のシミュレーションが必要です。点検チェックシートや長期修繕計画書などを作成し、該当箇所・時期・費用・内容といった項目ごとに整理しておくとよいでしょう。
また、室内の給湯器・浴室・キッチンといった設備も、交換時期や費用をシミュレーションしておくとよいでしょう。室内設備は、入居を決めるにあたって特に重視されるポイントであるため、時代の変化やターゲット層のニーズを捉えた設備交換も効果的です。
ここでは、全体の費用感や、どのような修繕がどのタイミングで必要となるのかを、RC造(鉄筋コンクリート造)20戸の場合を例に紹介します。
修繕時期と費用 RC造20戸のケース
民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブックによれば、RC造20戸(1LDK~2DK)の場合、新築から30年目までにかかる修繕費用として、1戸当たり約225万円、棟全体では4,490万円必要だとされています。
5~10年ごとに小まめに実施する必要があるのが、ベランダ・階段・廊下の塗装や、排水管の高圧洗浄です。また、築10~15年、築21~25年の節目では、屋根・外壁の塗装や、ベランダ・階段・廊下の防水施工も必要となります。
さらに、築21~25年のタイミングでは、屋根の葺き替えや浴室設備の修理交換も加わるため、1戸当たりの修繕費はほかの時期と比べて最も高い116万円、棟全体で2,320万円が見込まれます。また、築30年以降も修繕費用は発生します。
物件の規模感や建築時の採用設備によって時期や費用の差はありますが、一つの目安として参考にしてみてください。
5~10年目ではベランダ、階段、廊下(塗装)、室内設備の修理、排水管の高圧洗浄など。年数に応じて建物の修繕が発生します
修繕時期を見極める点検の重要性
修繕計画に沿って修繕を実施することが重要であることはもちろん、効果的な修繕には点検が大きな役割を果たします。
老朽化を放置したことによる負のスパイラルや、想定外の費用負担を防ぐためには、日常的な点検や、年に一度の定期点検による不具合の早期発見が重要です。
さらに、台風や地震などの後に臨時で点検を行い、建物に損傷がないかを確認することも効果的です。屋根や壁のひび割れを早期に発見できれば、入居者に被害が及ぶ前に修繕ができ、結果的にコストを抑えることができるでしょう。
計画修繕に向けた資金確保と備え
長期修繕計画を立てることで、修繕費も長期的に予測できます。資金不足によって計画修繕を行えないケースも考えられるため、計画を踏まえた資金積立が重要です。
たとえば、例として紹介したRC造20戸の場合、30年後までに随時必要な修繕費の総額は4,490万円でした。下図のように、1戸当たり月約7,000円を積み立てると、築10年以降、約5年おきに修繕を行ったとしても、築25年で2,000万円規模の修繕を実施する資金をしっかりと用意できます。
国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」より引用
いざ修繕が必要になった際に、資金不足で不具合を放置せざるを得ない事態にならないよう、オーナーに対しては修繕計画のほか、資金計画もきっちりと立てる提案をすることが大切です。
計画修繕による好循環を
一見、そこまでしなくてもよいように思える計画修繕ですが、長期的には物件の価値や魅力を維持し、安定的に家賃収入を得ることにつながります。
計画修繕をした場合と不具合を放置した場合の両方の想定を伝え、長期的な資金プランを示すことで、物件オーナーにも計画修繕の必要性がよく伝わるのではないでしょうか。
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