不動産に関わる令和7年度概算要求の内容は? 防災や空き家対策も
2024年8月、国土交通省は、2025年度(令和7年度)予算案に向けた概算要求を提出しました。不動産業界に関係する内容としては、どのような予算が盛り込まれているのでしょうか。
国土交通省内の不動産・建設経済局と住宅局による概算要求の全体像を紹介します。次年度以降に向けて、どのような方向性が示されているのかチェックしてみましょう。
目次[非表示]
- 1.予算概算要求とは?
- 2.「不動産・建設経済局」の概算要求の全体像は?
- 2.1.地理空間情報の充実と「建築・都市のDX」の推進
- 2.2.土地政策の推進
- 2.3.建設・不動産市場の環境整備
- 3.前年度比で予算額が大きく増えた項目は?
- 3.1.地理空間情報の活用と「建築・都市のDX」
- 3.2.空き家等の流通・活用促進事業
- 4.住宅局の概算要求の全体像
- 4.1.住宅や建物の防災力強化
- 4.2.マンション老朽化への対応
- 5.内容は確定? 概算要求後の流れ
- 6.概算要求は業界の方向性を知る重要な情報源
予算概算要求とは?
予算概算要求とは、次年度の予算を決めるために各省庁が政府に提出するもので、何にどれくらいの予算が必要なのかをとりまとめたものです。概算要求では事業やプロジェクトに必要な予算の規模感や前年度との差が示されるため、政策の優先度や実施可能性を読み取ることができます。
特に、国土交通省が発表する概算要求は、不動産業界に直結する内容も多いです。これからの業界トレンドを知るためにも全体像を確認し、関係する分野については各トピックも把握しておきましょう。
「不動産・建設経済局」の概算要求の全体像は?
不動産・建設経済局の概算要求では、主要施策として以下の3つが取り上げられています。
1.地理空間情報の充実と「建築・都市のDX」の推進
2.土地政策の推進
3.建設・不動産市場の環境整備
地理空間情報の充実と「建築・都市のDX」の推進
1つ目の、地理空間情報の充実と「建築・都市のDX」の推進においては、国土数値情報の整備として道路データを30年ぶりに更新することや、自治体が持っている地理情報のオープンデータ化、地理空間情報の情報連携をどう実現するか整理するための調査などが盛り込まれています。
さらに、不動産管理の円滑化を目的とする「不動産ID」の実現に向けたシステム構築の検討、災害後の復興や土地取引の円滑化を目的に、土地の境界を明確にする地籍調査の推進のための経費が挙げられています。
「不動産ID」を情報連携のキーとした建築・都市DX社会推進事業
土地政策の推進
2つ目の土地政策の推進としては、所有者不明の土地・空き地の利活用や適正管理、地価公示の着実な実施、不動産鑑定士の担い手確保が示され、不動産市場の基盤・インフラとなる要素に関する経費が要求されています。
建設・不動産市場の環境整備
3つ目の建設・不動産市場の環境整備においては、建設業法に基づいた処遇改善や取引適正化の実地調査を行う「建設Gメン」の取り組み強化や、働き方改革による建設業の魅力向上、空き家の流通・活用推進、不動産管理業の適正化・発展などに関する項目について経費が要求されました。
前年度比で予算額が大きく増えた項目は?
続いて、これら多くのトピックスのなかでも、前年度比で予算額が大きく増えた項目をピックアップします。
地理空間情報の活用と「建築・都市のDX」
前年度比3.8倍の予算が示された「国土数値情報をはじめとする地理空間情報の充実及び利活用促進」。すぐに使える国土数値情報は、災害対応においても有用であると確認されたため、災害の増加や激甚化を踏まえて、災害リスクデータの鮮度改善や充実に取り組むとされています。
新規施策ではなく、これまでの施策の継続や拡充ではありますが、宅地造成等工事規制区域および特定盛土等規制区域データの新規整備、土砂災害警戒区域や雨水出水浸水想定区域の更新・追加などが整備内容として盛り込まれています。
新規の取り組みとして挙げられているのは、国土数値情報の基になる自治体保有データのオープン化や、国土数値情報との相互連携です。自治体のニーズの把握や実現に向けた調査・検討を行うための予算が要求されました。
地理空間情報の充実と「建築・都市のDX」の推進の施策から、「国土数値情報の整備促進」
空き家等の流通・活用促進事業
近年、社会問題にもなっている空き家や空き地への対策は、前年度比2.06倍の概算要求がなされました。内容は、地域の不動産会社と自治体の連携強化による空き家流通の取り組み支援や空き家流通の実態調査です。
2018(平成30)年運用開始の「全国版空き家・空き地バンク」という空き家情報検索ツールにより、2024(令和6)年6日までに1万7,700件の空き家が成約しており、このツールのさらなる活用によって、空き家の流通を活性化させようという動きがあります。
(出典:国土交通省「令和7年度 不動産・建設経済局関係 予算概算要求概要」)
住宅局の概算要求の全体像
一方、住宅分野の概算要求については、どういった点に注目すべきでしょうか。住宅局関係の主要事項としては、下記の5項目が挙げられています。
1.住まい・くらしの安全確保、良好な市街地環境の整備
2.既存ストックの有効活用と流通市場の形成
3.住宅・建築物における脱炭素対策等
4.誰もが安心して暮らせる多様な住まいの確保
5.住宅・建築分野のDX・生産性向上の推進等
能登半島地震を踏まえた防災・減災対策の強化や、老朽マンション対策、住宅・建築物分野の脱炭素、住宅セーフティネット機能の強化などに触れ、全体の予算額は前年度比1.2倍となっています。
今回、新規に概算要求された主な事業を紹介します。
住宅や建物の防災力強化
能登半島地震の発生によって耐震改修の重要性と緊急性が顕在化したことから、「住宅・建築物防災力緊急促進事業」の創設が新規で盛り込まれました。
住宅の耐震化や防災性の確保のほか、避難者を受け入れる防災拠点の施設整備の加速も対策課題として経費が要求されています。新規の事業としては最高額の300億円が要求されていることからも、防災力強化の位置づけがよくわかるのではないでしょうか。
マンション老朽化への対応
マンションそのものの老朽化と居住者の老いの進行が懸念されています。そこで、マンションの長寿命化に向けた取り組みや、自治体による老朽マンション対策を支援する事業を「マンション対策総合支援事業」という名称で創設するための予算が要求されました。
具体的な予算額としては40億円が見積もられています。
令和7年度概算要求の主要事項より、既存ストックの有効活用と流通市場の形成
内容は確定? 概算要求後の流れ
概算要求の内容を解説しましたが、要求された内容がすべて次年度の予算として確保されるわけではありません。
各省庁から8月頃までに提出された概算要求を踏まえ、財務省が内容を精査し、内閣に報告をします。その後、内閣が財務省からの報告を基に次年度の予算案を作成し、1月の通常国会の議論を経て議決される流れです。
(出典:国税庁「国の予算」)
概算要求は業界の方向性を知る重要な情報源
概算要求のすべてが実際の予算として確保されるとは限りませんが、概算要求は各省庁が目指している方向性を知る重要な手がかりです。自身の業種が土地分野であれば不動産・建設経済局、住宅分野なら住宅局の資料に目を通しておくと、国としての大きな流れをつかむことができます。
国土交通省のホームページに掲載されている予算概算要求概要は、ビジュアル資料としてまとめられており非常にわかりやすいため、短時間で自分に関係する要点を把握できるはずです。
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