事故物件の定義は?「人の死の告知に関するガイドライン」が示す告知義務
警視庁は、2024年上半期(1~6月)に自宅で死亡しているのが見つかった一人暮らしの数、いわゆる「孤独死・孤立死」の件数の集計を初めて発表しました。
発表によると、自宅で一人で死亡した人の数は全国で3万7,227人に上り、全体の約76%が65歳以上の高齢者でした。また、中高年世代(45~64歳)は、全体のおよそ20%を占めています。
過去に人の死が発生した物件を取り扱う可能性がある不動産事業者は、買主や借主への告知の要否や告知内容の判断について知っておく必要があります。
そこで本記事では、人の死が発生した物件における不動産取引時の対応について、国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を基に解説します。
参照:警視庁「令和6年上半期(1~6月分)(暫定値)における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について
目次[非表示]
- 1.事故物件の明確な定義はない?
- 2.人の死の告知に関するガイドライン制定の背景
- 3.ガイドラインの位置づけと適用範囲
- 4.不動産会社に求められる調査義務はどこまで?
- 5.人の死の告知に関するガイドラインが示す告知義務
- 5.1.告知しなくてもよい3つのケース
- 5.1.1.1.自然死・日常生活での不慮の事故死
- 5.1.2.2.「1以外の死が発生」または「特殊清掃などが行われることになった1の死の発覚」からおおむね3年経過した場合
- 5.1.3.3.取引対象の隣接住戸もしくは日常的に使用しない共用部分で発生した場合
- 5.2.取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は告知が必要
- 5.3.告知すべき事項と注意点
- 6.まとめ
事故物件の明確な定義はない?
事故物件とは、一般的に何らかの事故や事件によって入居者が部屋で亡くなった物件を指します。つまり、人の死に関する「心理的瑕疵がある物件」といえます。
心理的瑕疵がある物件については、購入あるいは賃借希望者に対して、契約前にその旨を告知しなければなりません。ただし、人の死が心理的瑕疵に当たるか否かについて法律上明確な基準はなく、告知の必要性や告知内容の判断が難しいケースもあります。
過去の裁判例では、取引の目的や事案の内容、事案発生からの経過時間、近隣住民の周知の程度などを考慮して、 信義則上、告知すべき義務の有無が判断されています。
物件の告知事項のなかでも、特に心理的瑕疵に関わる内容は判断が難しいとされています
参照:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
人の死の告知に関するガイドライン制定の背景
個々の不動産取引においては、物件での人の死が告知すべき事項に当たるか否かや告知する内容について判断が難しいケースがあり、不動産会社によって対応が異なることもあります。
時間の経過とともに心理的瑕疵は希釈されていき、やがて消滅するとの裁判例もありますが、なかには人の死に関する事案のすべてを告知している不動産会社のケースもあり、貸主が単身高齢者への貸し出しを避けるなど、高齢者の住居確保に対する弊害も指摘されています。
このような状況を踏まえ、不動産取引の適正化や住居確保の安定を図るため、人の死が発生した物件の対応を判断するための一定の考え方を示したものが国土交通省による「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)です。
高齢単身者の入居を拒む要因のひとつとなることが懸念されており、判断基準となるガイドラインが策定されました
(出典:国土交通省 「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」)
ガイドラインの位置づけと適用範囲
このガイドラインは、過去に人の死が生じた物件を取り扱う際に、宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上負うべき調査・告知義務について、過去の裁判例や取引実務に照らし、妥当と考えられる一般的な基準をまとめたものです。
告知の要否や告知内容については判断が困難なケースもあるため、ガイドラインに示されている対応を行わなかったことだけを理由に宅地建物取引業法違反となるわけではありません。
また、ガイドラインに沿った対応を行ったとしても、物件での人の死に関して取引相手との間に紛争が生じた場合の民事上の責任を必ずしも回避できるわけではない点に注意が必要です。
なお、ガイドラインの適用範囲は、人が継続的に生活する場として利用する居住用不動産となっており、オフィスなど事業用の不動産は対象外です。
不動産会社に求められる調査義務はどこまで?
ガイドラインでは、宅地建物取引業者は、原則として売主や貸主、管理会社から情報提供を受ける以外に、周辺住民への聞き込みを行ったり、インターネットで調査したりといった自発的な調査を行う義務は負いません。
通常の不動産取引でも提出される告知書(物件状況報告書)への記載を売主などに求めることで、媒介活動における調査義務を果たしたものと考えられます。
もっとも、売主や買主が告知書に適切に記載できるよう、記載例を示すなど必要に応じた助言をするとともに、故意に告知しなかった場合は、民事上の責任を問われる可能性がある旨を伝えることが望ましいといえます。
なお、調査の過程で人の死に関する事案の存在を疑う事情がある場合は、売主や貸主に確認する必要があります。
宅地建物取引業者には不動産の販売活動において情報収集も必要な業務として位置づけられていますが、特段の事情がなければ、人の死に関する事案が発生したか否かを自発的に調査する義務は認められていません
人の死の告知に関するガイドラインが示す告知義務
人の死に関する事案について、ガイドラインが示す告知の要否の判断基準と告知すべき内容について解説します。
告知しなくてもよい3つのケース
ガイドラインでは、告知しなくてもよいケースとして次の3つの基準を挙げています。
1.自然死・日常生活での不慮の事故死
賃貸借および売買取引いずれにおいても、原則として自然死や自宅の階段からの転落死など、日常生活の中で発生したと捉えられる不慮の事故死については、告知義務はありません。
2.「1以外の死が発生」または「特殊清掃などが行われることになった1の死の発覚」からおおむね3年経過した場合
該当の物件で1以外の死が発生した場合や特殊清掃が行われた場合は、買主や借主が契約を行うかどうかを判断する際に重要な影響を及ぼす可能性があるため、告知が必要です。
ただし、賃貸取引に関しては、原則として、事案発生からおおむね3年が経過すると告知義務がなくなります(売買取引に関しては3年を経過しても告知義務あり)。
なお、専用で使用するベランダや玄関、エレベーターなど借主が日常的に使用する共用部分で発生した事案についても、取引対象の不動産(部屋)と同様に取り扱う必要がある点に注意してください。
3.取引対象の隣接住戸もしくは日常的に使用しない共用部分で発生した場合
1以外の死や特殊清掃が行われた場合でも、買主や借主が日常的に使用しない集合住宅の共用部分で発生した場合には、原則として告知義務はありません。
賃貸借取引と売買取引で告知の必要がある経過期間が異なります。詳細はガイドライン全文を参照ください
(出典:国土交通省 「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」)
取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は告知が必要
告知しなくてもよいとされる3つのケース以外の場合は、原則として取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるため、告知が必要です。
また、次の場合は、事案発覚からの時間経過や死因にかかわらず、調査において判明した事実を告げる必要があります。
・買主・借主から事案の有無について問われた場合
・社会的影響の大きさから、取引の相手方が把握しておくべき特段の事情があると認識した場合
告知すべき事項と注意点
買主や借主に告知する内容は、事案の発生時期(特殊清掃などが行われた場合は発覚時期)や場所、死因(自然死・他殺・自死・事故死などの別)とされています。
ただし、宅地建物取引業者が媒介契約上の調査を通じて判明した事項について告知すれば足り、売主や貸主などから不明の回答、あるいは無回答の場合でも、その旨を告げれば告知義務を果たしたことになります。
なお、告知する際は、亡くなった方やその遺族の名誉、生活の平穏を害さないよう十分に配慮することが求められます。たとえば、亡くなった方の氏名や年齢、住所、家族構成のほか、具体的な死や発見時の状況まで伝える必要はありません。
また、のちのトラブルを防止する観点から、書面による告知が望ましいといえます。
ガイドラインには、作成時点で妥当と考えられる一般的な基準がまとめられています。個別の事案や借主、買主の要望によっては慎重に対応する必要があります
まとめ
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」は、近年の裁判例や取引実務を考慮し、現時点で妥当と考えられる、宅地建物取引業者が果たすべき一般的な基準を定めたものです。
大筋としてはガイドラインに従うとしても、事案の事件性や周知性、社会に与えた影響のほか、取引の相手方からの依頼内容や締結される契約内容によっては、個別に判断しなければならないケースもある点に注意が必要です。
また、現在のガイドラインは、人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引や搬送先の病院で亡くなった場合の取扱いは対象としていない点も押さえておきましょう。
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