半導体企業が地域の不動産に与える影響は? ラピダス・TSMCを事例に解説
半導体企業の進出による周辺地域の地価上昇のニュースを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ラピダスやTSMCといった半導体関連企業が地域の不動産に与える影響について解説します。また、経済産業省の半導体産業への姿勢についても紹介します。今後の半導体市場と不動産業界について考えてみましょう。
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ラピダス・TSMC等の半導体関連企業が地方に進出
日本国内大手企業8社の出資により設立され、最先端半導体の実用化・量産化を目指すラピダスが北海道千歳市に進出するなど、国内では半導体企業の工場建設が活況を呈しています。千歳市では、ラピダス進出による大規模な雇用創出、関連企業の立地によるさらなる雇用創出や建設関係者の増加が見込まれます。
また、半導体受託製造の世界最大手である台湾のTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県菊陽町に進出したことにより、周辺地域では大規模な雇用の創出や、関連企業の立地が進んでいます。
TSMC子会社のJASM熊本工場
半導体企業が周辺の不動産に与える影響は?
半導体企業の進出は、周辺地域の地価に大きな影響を与えます。
ラピダスの工場を建設中の北海道千歳市点では、住宅地の基準地価が対前年変動率が全国3位となり、大きな地価の上昇が確認されています。
また、TSMCの工場に近い熊本県大津町では、基準地価の対前年変動率が商業地・工業地ともに全国1位になりました。ラピダスやTSMCの進出が、地価に限らず、周辺地域の賃貸市場にも影響を与えていることは想像に難くないでしょう。空室率・家賃相場がどのように変化しているのか、それぞれの地域のデータから解説します。
大手半導体メーカー進出地における地価動向。国土交通省 令和6年地価公示 特徴的な地価動向が見られた各地点の状況より
(出典:令和6年地価公示 特徴的な地価動向が見られた各地点の状況 )
空室数の変化は? 千歳・熊本の事例から
ラピダスが2023年2月に北海道千歳市への進出を発表して以降、工場周辺の記載物件数が減少しました。具体的には、着工8ヶ月後となる2024年5月にはシングル物件が88.1%減少し、進出発表時の954物件から114物件に、ファミリー物件は83.8%減少して進出発表時の530件から86件となりました。
2024年10月時点においても、工事関係者やラピダスおよび関連企業の従業員による賃貸需要が高く、掲載物件数が少ない状態が続いています。
また、熊本県菊陽町についても、TSMCが2021年10月に進出を発表して以降、工場建築予定地周辺のシングル向き賃貸物件とファミリー向き賃貸物件の掲載物件数が急激に減少しました。特に、工場着工から10ヶ月後となる2023年2月には、シングル物件の掲載数が94.3%減少して進出発表時の193件から11物件に、ファミリー物件も94.4%減少して進出発表時の324件から18物件となるなど、大きな減少が確認されました。
しかし、2023年夏ごろからは新築物件の供給が増えて掲載物件数が回復し、2024年10月時点においては、進出発表前の水準を超える掲載物件数となっています。
大規模な工場進出が賃貸物件の需給に大きな変化を与えることがよくわかるデータです。
ラピダス周辺 シングル向け賃貸物件の掲載数。 LIFULL「TSMC(熊本県)、ラピダス(北海道千歳市)の周辺賃貸市場への影響を調査」より
家賃相場の変化は? 千歳・熊本の事例から
空室数において大きな変化が見られましたが、家賃相場のほうはどのような動きがあったのでしょうか。ラピダスが進出した千歳、TSMCが進出した熊本、どちらも同様にファミリー向き賃貸物件の家賃相場が大きく上昇しました。
北海道千歳市のラピダス周辺では、2023年9月の工場着工時点におけるファミリー物件の平均賃料は4万7,191円でした。その後、新築物件の供給増加により2024年10月には10万5,409円に達し、着工時点と比べ123.4%と急激な上昇が見られています。
一方のTSMCの周辺地域では、工場の建設が始まった2022年4月時点のファミリー物件の平均賃料は5万5,686円でした。その後、平均賃料が急激に上がる傾向はなかったものの、2023年8月には新築物件の供給が増加し、平均賃料は8万8,266円と、着工時点と比べて58.4%上昇しました。TSMCの進出発表を受けて計画された物件がほぼ同時期に完成し、新築物件の割合が増えたことによる結果と想定されます。
2024年10月時点では、既築物件の空室が増加したことや、新築物件の割合が安定したことから、平均賃料は7万3,032円まで落ち着きましたが、着工時点と比べると3割以上高い状態が続いています。
千歳・熊本、どちらの地域においても、新築物件の供給増加を原因とする家賃相場の上昇が確認でき、企業進出が地域の賃貸市場にも大きな影響を与えていることがわかります。
ファミリー向き賃貸物件の掲載数と平均賃料の推移。LIFULL「TSMC(熊本県)、ラピダス(北海道千歳市)の周辺賃貸市場への影響を調査」より
(出典:LIFULL「TSMC(熊本県)、ラピダス(北海道千歳市)の周辺賃貸市場への影響を調査」)
半導体企業による地域経済へのインパクト
半導体企業による不動産市場への影響が、地価や空室数、平均賃料から確認できました。半導体企業が地域経済に与える影響は各機関によって試算されており、たとえば、ラピダスの進出による北海道におけるGDP増加額は、2024年7月時点で18.4兆円とされています。
それでは、半導体企業の進出には具体的にどのような経済効果があるのでしょうか。経済効果の考え方は、工場建設等の設備投資段階と生産段階の2つに分けられます。
工場建設段階においては、土木工事や建築工事を行う建設作業員の需要が高まり、働く人の住宅・飲食・宿泊といった分野で経済効果が生まれます。また、半導体製造装置が工場に導入されるため、生産用機械製造業にも影響を及ぼします。
生産段階に入ると、半導体生産に関連する製造業の需要が増え、それに携わる従業員の住宅・飲食・小売り・宿泊といった産業も活性化します。工場周辺のインフラ整備による建設業の需要増も見込まれます。
半導体製造拠点の新規投資による経済効果。内閣府政策統括官「地域課題分析レポート(2024年夏号)~半導体投資による地域経済への影響~」より
(出典:内閣府政策統括官「地域課題分析レポート(2024年夏号)~半導体投資による地域経済への影響~p.6」)
経済産業省は半導体産業を大きく後押し
半導体企業の進出は地域経済にプラスの影響を大きく与えることから、経済産業省は半導体産業に前向きな姿勢を示しています。
2024年11月の補正予算案において、半導体産業への支援として1兆5,000億円を計上する方針を固める等、半導体の国内生産拠点の整備を大きく後押しします。
半導体市場の今後
経済産業省は、国内で半導体を生産する企業の合計売上高として、2030年に15兆円超という目標を掲げています。地域経済の活性化はもちろん、国内生産によって、海外に頼らずに半導体の安定的な供給を確保することが狙いです。
政府による半導体産業支援の予算計上もあり、今後も国内における半導体企業の生産拠点立地から目が離せません。紹介したとおり、不動産市場に与える影響も大きいため、半導体企業の立地動向にアンテナを張っておくとよいでしょう。
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