宅地建物取引業法の改正で電子契約開始! 背景や改正内容を解説
政府によってDX(Digital Transformation:デジタル・トランスフォーメーション)やペーパーレス化が推進されるなか、さまざまな分野で電子契約が進んでいます。
不動産業界においても、2022年5月18日に『宅地建物取引業法』の改正が施行されたことによって、賃貸借契約・売買契約の電子化が順次開始されました。
電子契約の導入を検討しているものの、「電子契約や法改正についてあまり理解できていない」「改正内容について知りたい」という担当者もいるのではないでしょうか。
この記事では、賃貸借契約・売買契約におけるIT活用の背景と法改正の詳細について解説します。
目次[非表示]
- 1.ITを活用したこれまでの賃貸借契約・売買契約
- 2.宅地建物取引業法の改正内容
- 3.書面の電子交付に関する3つの改正ポイント
- 3.1.①電子書面の要件
- 3.2.②電子書面の提供方法
- 3.3.③承諾の取得
- 4.まとめ
ITを活用したこれまでの賃貸借契約・売買契約
今回の法改正が行われる前においても、賃貸借契約・売買契約の一部の業務についてはITの活用が認められていました。
画像引用元:国土交通省『ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について』
IT重説
IT重説とは、テレビ会議などの双方向でやり取り可能なITシステムを活用して、オンライン上で重要事項説明を行うことです。
これまで、重要事項説明は対面で行われていましたが、2017年からIT重説の運用が順次可能となりました。現在は、賃貸・売買取引の双方でIT重説の運用が可能となっており、対面による重要事項説明と同様に取り扱われています。
▼IT重説の本格運用の開始時期
賃貸取引 |
2017年10月 |
---|---|
売買取引 |
2021年4月 |
IT重説を運用することで、遠隔地に住んでいる顧客や、来店が困難な顧客に対して説明が行えるようになります。日程調整の幅が広がるため、スピーディな契約が可能です。
(出典:国土交通省『ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について』『ITを活用した重要事項説明 実施マニュアル』『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』)
書面の電子交付
賃貸・売買取引の契約締結時に交付する重要事項説明書と契約書は、法改正前まで“書面での交付”が義務づけられていました。
前述したIT重説を運用する際も同様です。事前に書面で交付することが必須となっており、PDFファイルや電子メールでの送付は認められていませんでした。
しかし、2022年5月18日に宅地建物取引業法の改正が施行されたことによって、賃貸・売買ともに、重要事項説明書・契約書の電子交付が認められました。
書面の電子交付が可能になることで、契約業務の効率化や、顧客の利便性向上などが期待できます。
(出典:国土交通省『ITを活用した重要事項説明 実施マニュアル』『不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。』『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』)
宅地建物取引業法の改正内容
2021年9月に、『デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律』が施行されました。それに伴い、宅地建物取引業法・宅地建物取引業法施行規則の一部が改正されています。
国土交通省は、賃貸・売買取引の電子書面交付の社会実験を実施しました。開始時期は以下のとおりです。
▼電子書面交付の社会実験の開始時期
賃貸 |
2019年10月 |
---|---|
売買 |
2021年3月 |
この社会実験の結果を踏まえて、2022年5月18日から改正規定が施行されています。主な改正内容は以下のとおりです。
▼宅地建物取引業法の主な改正内容
- 宅地建物取引士による押印の廃止
- 電磁的方法による書面の交付(重要事項説明書・契約締結時書面・媒介契約締結時書面等)
宅地建物取引業法の改正により、賃貸借契約・売買契約ともに書面の電子交付が可能になりました。IT重説と組み合わせて運用することで、非対面での円滑な取引を実現できます
(出典:国土交通省『ITを活用した重要事項説明 実施マニュアル』『不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。』『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』/デジタル庁『デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律』)
書面の電子交付に関する3つの改正ポイント
法改正によって、宅地建物取引士の押印が廃止され、契約書面の電子交付が可能になりました。ここからは、電子交付に関する改正ポイントを解説します。
①電子書面の要件
当事者間でのトラブルを防止するために、電子書面には一定の要件が設けられています。
▼電子書面の要件
- 顧客が書面(紙)を出力できること
- 電子書面が改変されていないかどうかを確認できること
改変されていないかどうかを確認できる措置の具体例として、電子署名やタイムスタンプなどが挙げられます。
また、交付する宅地建物取引士を明示するために、作成した重要事項説明書・契約書の電子書面には宅地建物取引士の記名が必要です。
(出典:国土交通省『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』『不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。』)
②電子書面の提供方法
電子書面を交付する際は、事前に電子書面の提供方法を説明する必要があります。提供方法は、以下のとおりです。
▼電子書面の提供方法
- 電子メールによる提供
- Webページからのダウンロード形式による提供
- 電子書面を記録したCD-ROMやUSBメモリ等の交付
なお、承諾後であっても、電子交付を拒否できること、その際は書面や電子メール等で申し出る必要があることを伝えるべきとされています。
(出典:国土交通省『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』『不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。』)
③承諾の取得
不動産取引の書面を電子交付することについて、事前に承諾を得ておく必要があります。
そのためには、「電子書面を確認できるIT環境があるか」「利用予定のソフトウェアに対応可能か」などの聞き取りが重要です。事前に承諾を得る方法は、以下のとおりです。
▼事前に承諾を得る方法
- 承諾書(書面)の受領
- 電子メール等で受信
- Webページ上での承諾の取得
- 承諾する旨を記録したCD-ROMやUSBメモリ等の受領
電子書面の交付について、承諾書や電子メールなどの記録に残る形で承諾を得ることで、承諾の有無をめぐる当事者間のトラブルを防止できます。
(出典:国土交通省『重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル』『不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。』)
まとめ
この記事では、宅地建物取引業法の改正について、以下の項目を解説しました。
- ITを活用した賃貸借契約・売買契約
- 宅地建物取引業法の改正内容
- 書面の電子交付に関する3つの改正ポイント
宅地建物取引業法と宅地建物取引業法施行規則の一部が改正されたことで、2022年5月18日から賃貸・売買ともに書面の電子交付が可能になりました。
書面を電子交付する際は、電子書面の要件や提供方法、承諾の取得などが必要です。今回ご紹介した3つのポイントを参考に、運用開始前に実施体制を整えて、業務フローを作成してみてはいかがでしょうか。
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