一次対応で「炎上」させない!賃貸管理会社の電話対応術
毎日のように発生する、自社管理物件の入居者からの問い合わせ。
賃貸管理会社にお勤めの皆さんも、常日頃から設備の不具合や契約の更新・解約、契約内容に関する問い合わせなど、入居者からのあらゆる電話連絡に対応していると思います。
電話をかけてくる方の伝え方もさまざまです。
賃貸管理会社にやってほしいことが明確で、要望をはっきりと伝えてくる方もいれば、賃貸管理会社に伝えたい内容が定まらないまま、ひとまず対応を一緒に考えてくれないかと電話をかけてくる方もいます。
そうした「人や状況によりけり」な電話対応の連続は、賃貸管理会社で働くうえでの醍醐味であり、この仕事の厄介な部分といえるでしょう。
なかでも問題となるのは、何十、何百と入居者対応をこなすなかで一度は経験することになる「案件の炎上」です。
入電当初は小さな問題であったはずが、対応を少し誤ってしまったばかりに、あっという間に大きな問題へと発展してしまう。案件が炎上すると仕事が複雑化するだけでなく、担当者自身も非常に悔しい思いをします。電話口で受けるお叱りの声に、心の健康メーターもだんだんと削られていきます。
とはいえ、炎上案件はランダムで発生するわけではありません。
そこには必ず「原因」があります。
本コラムでは、入居者の「要望」をきちんとくみ取り、安易に炎上させない・入居者が安心して話せる工夫についてお伝えします。
目次[非表示]
「電話」だからこそ話し方に細心の注意を
最近はWEB問い合わせを導入する会社も増えてきましたが、まだまだ多くの賃貸管理会社にとって、入居者からの最初の連絡は「電話」であることが多いと思います。
本来、電話は非常に神経を使うコミュニケーションツールです。
理由は単純で、電話ではお互いの顔を見ることができないからです。
人は誰かとコミュニケーションを取る際、相手の印象形成の約80%を「視界から入る情報」に頼っているといわれています。一方、「耳から受け取る情報」の影響度は全体の約7%に過ぎません。
つまり、音声のみのコミュニケーションには「ごまかし」が利かないのです。姿を見せることができれば、印象の80%が見た目に左右される以上、たとえば清潔感のある髪型や服装を選ぶだけで相手に爽やかな印象を与えることが可能でしょう。
しかし、普段から7%しか影響を与えていない「声」だけで、「爽やかな印象」を与えるとなると至難の業です。裏を返せば、相当に意識して会話をしない限り、相手にこちらの望む「よい印象」を与えるのは不可能ということです。
電話をかけてきた入居者は、電話口の私たちの声を聞いて、その声色から私たちの人物像を想像します。頼るものが声しかない以上、電話で受け取った声情報だけで私たちのイメージを膨らませ、「この人は○○な人だ」と想像で決めつけてしまうのです。
この「想像でイメージする人物像」をどれだけコントロールできるかが勝負です。
入居者がイメージする人物像をコントロールすることができれば、問題の処理にかかる時間もグッと短縮することが可能となります。
その際、「入居者にイメージさせたい人物像」は下記の3点です。
- 頼りがいのある人物
- 親身になってくれる人物
- きちんと対応してくれる人物
ポイントを押さえれば、たとえ声だけであっても、こうした人物像をイメージしてもらうことは不可能ではありません。
入居者のテンポに合わせて喋る
電話を受けて、まず意識するべきは「相手に心を開かせる」ということです。
相手が心を開かない限り、胸の内に抱えている真の要望は見えてきません。まずは相手に心を開かせ、要望を探ることが重要です。
要望を表面化させるまでの間に有効なのが「ペーシング」という手法。
ペーシングとは、「相手が使用している言葉遣いやテンポ・音程に自分の話し方を合わせる手法」で、相手の懐に入り込むコミュニケーションスキルのひとつです。
よく、「電話応対ではワントーン上げて喋るといい」「広角を上げて喋るといい」といわれますが、そういった一律の対応をするのではなく、ペーシングはあくまで「相手」に自分を合わせます。明るく快活な話し方が、困っている・怒っている入居者にとっても心地のよいものであるとは限りません。まずは入居者の電話の内容に寄り添う姿勢が必要なのです。
声のトーンやテンポを合わせていくと、相手は自然と「親身になってくれる人」を想像しやすくなります。あくまで相手のペースを尊重しながら、入居者の要望をじっくり探っていきましょう。
オウム返しを使用する
ペーシングには多少の慣れが必要ですが、相手に心を開かせるテクニックとしてすぐに活用できるのが「オウム返し」です。
ご存じのとおり、オウム返しとは相手が発した言葉をそのまま繰り返すこと。
オウム返しをすると、相手は「話が伝わっている」と実感し、「状況を一緒に想像してくれている」と安心感を抱きます。
入居者は管理会社に電話をかける際、以下2点の無意識の願望を抱いています。
- 状況を理解してもらいたい
- 話を理解し、共感してもらいたい
オウム返しをすることで、この「理解・共感」の願望を満たしてあげることができるのです。
たとえばエアコンの故障の連絡の場合、
入居者 :「最近冷たい風が出なくて~、ちゃんと掃除しているんですけど~」
管理会社:「清掃されているのに冷たい風が出ないのですね。最近とは、具体的にはいつ頃からですか?」(オウム返し)
こうして生まれた安心感が、頼りがいのある人・親身になってくれる人という人物像につながっていきます。
頼りがいのある人には、いろいろな要望を伝えたくなるため、ヒアリング時もより詳しい状況まで伺うことができます。
また、親身になってくれる相手には攻撃的な感情が生まれにくいものです。問題を過剰に発展させない抑制効果も発生するのです。
語尾を伸ばさない、滑舌よく話す
最後に、話し方の意識です。電話での「人物像づくり」においては、声質や使う言葉だけでなく、話し方そのものも重要となります。
たとえば、語尾を伸ばす話し方。
これは、相手に対し「稚拙な・頼りない」といったイメージを与えてしまいます。
一度稚拙なイメージを持たれてしまうと、その後も信頼関係を構築することが難しくなり、最終的に入居者の要望を探りにくくなってしまいます。そして要望が探れなければ、こちらの提案も的外れなものとなり、余計に「要望が伝わっていない!この人はわかっていない!」とストレスを感じられてしまいます。
結果、どんどん問題が大きくなる負のスパイラルに陥っていくのです。
また、会話のキャッチボールをスムーズに進めるためには、滑舌の良しあしについても意識しましょう。
質問のたびに聞き直したり、会話の意図が相手に正しく伝わらないと、問題の解決にはなかなか至りません。また、聞き取りづらい会話は相手に不信感を与えてしまうため、相手の要望を正しくくみ取りにくくなってしまいます。
滑舌は生まれつきのものだったり、成長の過程で形成されたものであったりするため、改善しようと思ってもすぐに変えられるものではないかもしれませんが、継続的なトレーニングによって多少の改善をすることができます。
代表的な方法は、舌を大きく回して口の中(歯茎の外側、頬など)をなぞっていく「舌トレ(舌の筋力トレーニング)」です。併せて、意識的に発声のスピードを落としたり、口を大きく開けるようにしたりするなど、相手が聞き取りやすい会話を意識するとよいでしょう。
一次対応の良しあしが、その後の業務の効率を決める
入居者からの要望は実にさまざまです。
しかし、「炎上」を避けつつ一次対応で処理できれば、時間をロスすることはありません。
賃貸管理の現場では、一次対応のミスによって大きな時間ロスを生んでいるケースが毎日のように起こっていると感じます。入居者に合わせた適切な対応を心がけ、効率的な業務を行えるよう少しずつ訓練していきましょう。