不動産会社が知っておくべき「家族信託」の仕組み。成年後見制度や提携先の選び方を解説

社会の高齢化が進むなか、不動産オーナーの認知症リスクは不動産会社にとって見過ごせない課題です。オーナーが認知症になると、不動産の売却も賃貸契約の締結もできなくなり、資産が事実上凍結してしまいます。
こうしたリスクに備える手段として注目されているのが「家族信託」です。本記事では、家族信託の基本的な仕組みから成年後見制度との違い、不動産会社が得られるビジネスチャンスまで、実務に役立つポイントを解説します。
目次[非表示]
- 1.家族信託の基本的な仕組み
- 1.1.委託者・受託者・受益者の関係
- 1.2.不動産を中心とした信託財産
- 2.成年後見制度との違い
- 3.オーナーが抱える資産凍結リスク
- 3.1.認知症になると売却ができない
- 3.2.賃貸経営に悪影響が出る
- 4.家族信託で実現できること
- 4.1.認知症の発症後も不動産売却が可能
- 4.2.収益物件の柔軟な運用継続
- 4.3.二次相続までの資産承継設計
- 5.不動産会社の収益ポイント
- 5.1.継続的な管理業務の受託
- 5.2.信託後の売却仲介機会
- 6.提携先となる司法書士の選び方
- 7.まとめ
家族信託の基本的な仕組み

家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理を託す制度です。認知症を発症して判断能力が低下した場合にもスムーズに財産管理ができ、資産の凍結を防げる点が特徴です。
委託者・受託者・受益者の関係
家族信託では、委託者が受託者に財産管理を託します。委託者・受託者・受益者の関係をまとめると、以下のとおりです。
役割 | 具体例 | |
|---|---|---|
委託者 | 財産を信託する人 | 高齢の親 |
受託者 | 財産を管理・運用する人 | 子どもなどの信頼できる家族 |
受益者 | 信託の利益を受ける人 | 高齢の親自身、または配偶者・子ども |
委託者は財産の持ち主であり、何を信託するか、どう管理するかを決める立場です。受託者は信託契約に従い、受益者の利益のために財産を管理・運用します。不動産なら、賃貸経営の継続・修繕・売却などが該当します。
受益者は信託財産から生じる利益(賃料収入など)を受け取り、受託者を監督する権限も持つ存在です。
不動産を中心とした信託財産
家族信託では、不動産・預貯金・株式などが信託対象となります。自宅や収益物件を信託すれば、所有者が認知症になっても受託者の判断で売却や賃貸経営の継続が可能です。
不動産の家族信託では、所有権移転登記と信託登記の2つが必要です。名義は受託者に変わりますが、登記簿に「原因:信託」と記載され、信託財産であることが公示されます。
委託者と受益者を同一人物にすれば、実質的な権利は委託者が保持するため、贈与税は発生しません。
成年後見制度との違い
成年後見制度は、判断能力が低下した人物を法律的に保護し、支援する制度です。家庭裁判所が後見人を選任し、その監督の下で財産管理が行われます。
一方、家族信託は裁判所の関与がなく、家族間の契約によって柔軟な財産管理ができる制度です。それぞれの違いを整理しましょう。
不動産処分の自由度
成年後見制度では、居住用不動産の売却に家庭裁判所の許可が必須です。許可なく売却すれば契約は無効となり、また裁判所が不許可と判断すれば売却できません。
家族信託の場合は、受託者に売却権限を与えておけば、委託者が認知症を発症しても、受託者が売買契約を締結できます。裁判所の許可が不要なため、スムーズな売却を実現できます。
財産管理の柔軟性
成年後見制度は「財産保全」が目的であるため、積極的な運用や処分は認められません。賃貸マンションの大規模修繕や建て替え、リフォームなどは後見人の判断では実行できず、家賃改定や管理会社の変更も制限されます。
家族信託なら、信託契約の内容に従い、柔軟な財産管理が可能です。受託者は賃貸経営の継続や大規模修繕、建て替え、空室対策などを信託目的の範囲内で実行できます。
裁判所の監督有無
成年後見制度では家庭裁判所の監督を受けるため、年1回程度、財産目録や収支報告書の提出義務があります。書類作成の負担は大きく、重要な財産処分には事前許可が必要なため、迅速な意思決定が困難です。
一方の家族信託では裁判所の監督がなく、受託者が負う義務は受益者への報告のみです。そのため迅速な意思決定が可能で、不動産売却や大規模修繕などの重要な判断を、市場のタイミングに合わせて実行できます。
オーナーが抱える資産凍結リスク
不動産オーナーやその家族にとって、認知症による資産凍結は深刻な問題です。判断能力が低下すると、所有する不動産や預貯金を事実上管理できなくなり、資産活用が停止してしまいます。
不動産会社としては、オーナーが抱えるリスクを理解し、早期の対策を提案することが重要です。
認知症になると売却ができない
認知症によって意思能力を失うと、不動産の売買契約を締結できなくなります。親族でも、本人に代わって勝手に売却はできません。これにより、施設入居費用や相続税納税資金の確保が困難になる問題が起こり得ます。
不動産会社にとっては、意思能力が疑われる状態で契約すると、のちに「当時は意思能力がなかった」と主張され、契約の有効性が争われるリスクもあります。
賃貸経営に悪影響が出る
賃貸物件のオーナーが認知症になると、新規入居者との賃貸借契約が結べず、空室を埋められなくなります。既存入居者との契約更新や解除、退去時の原状回復工事も進められません。
それだけでなく、大規模修繕やリフォーム、建て替えの契約も締結できません。管理会社の変更や周辺相場に合わせた家賃の見直しもできないため、収益性が低下する可能性があります。空室対策も修繕もできず建物が劣化すれば、さらに空室が増える悪循環になりかねません。
家族信託で実現できること

家族信託を活用すれば、認知症による資産凍結を防ぎ、オーナーの意思に沿った柔軟な財産管理が可能になります。
不動産会社にとって、家族信託の仕組みやメリットを理解することは、顧客への提案力を高めることにつながります。特に高齢のオーナーを顧客に持つ場合、家族信託の活用によって取引がスムーズに進む効果も期待できるでしょう。
認知症の発症後も不動産売却が可能
家族信託のメリットは、委託者が認知症になった後でも、受託者が不動産を売却できる点です。信託契約に売却権限を明記しておけば、裁判所の許可は不要で、市場のタイミングを逃さず売却が可能です。
受託者の判断ですぐに自宅などを売却でき、売却代金を医療費や介護費用など、さまざまな用途に使えます。
収益物件の柔軟な運用継続
賃貸物件のオーナーにとって、家族信託は賃貸経営を継続できる手段です。受託者が賃貸借契約の締結・更新・解除などの管理を行えるため、認知症になっても経営が止まりません。
大規模修繕や建て替えも受託者が決定でき、リフォームや設備更新による空室対策も可能です。
二次相続までの資産承継設計
家族信託では、受益者連続型信託の仕組みにより、二次相続までの資産の承継先を事前に決められます。
通常の遺言では、一次相続(自分の相続)までしか指定できません。しかし、家族信託なら「父→母→長男」のように、複数世代にわたる承継順序を設定可能です。
たとえば「配偶者の生活保障のために配偶者を受益者とし、配偶者亡き後は長男へ」といった設計ができます。配偶者との生活を保障をしながら、その後の資産の行き先も指定できる点が、家族信託のメリットの一つです。
不動産会社の収益ポイント
家族信託の普及により、不動産会社には新たなビジネスチャンスが生まれています。認知症による資産凍結を防ぐことで、将来の不動産取引を確保できるだけでなく、顧客との長期的な関係構築も可能になります。
継続的な管理業務の受託
投資用不動産の家族信託を締結した後も、賃貸管理業務は継続します。受託者(多くは子世代)との新たな関係が構築され、管理契約の長期安定化につながるでしょう。
従来は、高齢の委託者(親)が亡くなると、管理契約が解除されるリスクがありました。しかし、家族信託によって受託者が引き続き窓口となることで、世代交代後も管理業務が継続しやすくなります。
また、受託者は信託財産の管理責任を負うため、専門的な賃貸管理サービスへのニーズが高まります。管理報酬の長期安定化と、次世代顧客との関係構築を同時に実現できるでしょう。
信託後の売却仲介機会
家族信託を通じて受託者(子世代)との信頼関係を構築しておくことで、将来的に不動産を売却する場合、仲介の依頼を受けられる可能性が高まります。
信託設定時から関わることで、物件の詳細や家族の事情を深く理解でき、売却検討時には「真っ先に相談される存在」になれるためです。親の認知症発症後でも、受託者の判断で不動産を売却できるのが家族信託のメリットであり、そのタイミングで仲介を任せてもらえるかもしれません。
提携先となる司法書士の選び方
家族信託は2007(平成19)年スタートの新しい制度です。制度のスタート後20年弱たちますが、対応できる専門家はいまだに限られています。提携する司法書士を選ぶ際は、まず年間取扱件数や具体的事例を把握し、家族信託の実績と専門性を確認しましょう。信託契約書作成から登記までワンストップで対応できる司法書士が理想です。
税務面の相談には税理士、相続トラブルには弁護士との連携が不可欠です。専門家とのネットワークを持つ司法書士を選ぶと、問題が発生した場合もスムーズに対処できます。
まとめ
家族信託は、認知症による資産凍結を防ぎ、オーナーの意思に沿った柔軟な財産管理を実現する有効な手段です。高齢者人口が引き続き増えると予想される社会において、注目度はますます高まっていくでしょう。
不動産会社にとっては、管理業務の受託を継続できたり、将来の売却仲介機会を確保できたりといった複数の収益ポイントが生まれます。時代のニーズに適応するためにも、顧客にどのような貢献ができるかを検討しましょう。
信託設定後の不動産売却をサポートする際には、LIFULL HOME'S の売却査定サービスをご活用ください。家族信託の設計に必要な「今の不動産価値」を把握できます。適正な価格査定と円滑な取引を通じて、顧客との長期的な信頼関係を構築しましょう。
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