外国人に賃貸物件の需要はある? 市況動向と契約時の注意点
日本国内では少子高齢化にともない、労働人口の減少が大きな課題となっています。一方で、大都市圏を中心に外国人居住者は年々増加しており、労働力や生産力の確保という点から、積極的な受け入れを行う自治体・企業も増えています。
不動産経営においては、こうした現状を踏まえて、外国人をターゲットにすべきかどうかを決断することも重要なテーマとなってくるでしょう。今回は外国人居住者に関する市況の動向や、賃貸借契約を結ぶ際の注意点について解説します。
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目次[非表示]
- 1.市況動向から見る在留外国人数
- 1.1.在留外国人は急激に増加している
- 1.2.大都市圏に集中している
- 2.外国人の入居者と契約するメリット
- 2.1.少額の空室対策で効果が出やすい
- 2.2.日本人とニーズが重なりにくい
- 2.3.紹介や居住年数の長期化による安定収入が見込みやすい
- 3.外国人の入居者と契約を結ぶときの注意点
- 3.1.事前に確認すべきこと
- 3.2.保証に関する考え方の違い
- 3.3.入居マナーや基本的なルールに関する認識の違い
- 3.4.契約書の作成方法
- 4.契約後のトラブルを回避するためのポイント
- 4.1.保証会社への加入を必須条件にする
- 4.2.ガイドラインを活用する
市況動向から見る在留外国人数
まずは、市況の動向をとおして、在留外国人の数がどのように推移しているのかを確認しておきましょう。
在留外国人は急激に増加している
法務省出入国在留管理庁のデータによれば、2022年末の在留外国人は307万人を超えており、過去最高を更新しています。10年前の2012年時点で、在留外国人数は206万人であり、10年間で100万人以上、割合にして50%程度も増加していることがわかります。
この背景にあるのは、外国人労働者の受け入れに対する政府の支援や、企業のグローバル化などの動きです。特に労働力不足の解消につながる特効薬としての側面が強く、外国人の雇用を行う企業に対して、手厚い補助金や助成金が設けられていることからもわかります。
大都市圏に集中している
都道府県別のデータによれば、在留外国人数がもっとも多いのは東京都の59万6,148人となっており、次いで愛知県、大阪府がそれぞれ20万人台後半となっています。さらに、三大都市圏に続いて神奈川県、埼玉県が20万人台前半となっており、全体的に大都市や都市近郊に集中していることが明らかです。
また、在留カードおよび特別永住者証明書上に記載された国籍別のデータを見ると、上位から中国、ベトナム、韓国、フィリピン、ブラジルの順に並んでいます。上位10ヶ国・地域ではいずれも前年末(2021年末)に比べて増加しているのもポイントです。
このように、在留外国人の数はここ数年で格段に増えており、それにともなって生活インフラの需要も高まっていると考えられます。
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外国人の入居者と契約するメリット
賃貸物件の経営者にとって、外国人の入居者を受け入れることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは3つのポイントに分けて見ていきましょう。
少額の空室対策で効果が出やすい
文化の違いなどにより、外国人が日本の賃貸物件を探す際には、極端にグレードの高い設備を求めるケースはそれほど多くありません。たとえば、バス・トイレに対する考え方も日本とは異なるため、3点ユニットの部屋でも特にデメリットを感じないという方は多いです。
大規模なリノベーションを実施するのではなく、無料インターネットの整備や家具・家電の備え付けといった点に力を入れるほうが、かえって効果的である場合もあるでしょう。そのため、少額の投資で入居率の向上を目指すことも可能です。
日本人とニーズが重なりにくい
都心部へのアクセスが悪いエリアや、少し環境が不安になるようなエリアでも、外国人の方にとっては、それほど気にならないというケースも多いです。たとえば、外国人の方が働いている工場や通っている学校などが近く、商業施設がある程度そろっていれば、借り手を見つけられる可能性は十分にあるといえます。
紹介や居住年数の長期化による安定収入が見込みやすい
外国人の方は入居審査のハードルが高くなりやすいため、日本での部屋探しに難航してしまうケースも多いです。そのため、一度入居が決まれば、日本の入居者よりも長く住み続ける傾向にあります。
また、外国人の受け入れを行っている賃貸物件はあまり多くないため、外国人同士の紹介によって空室が埋まっていくというケースもあります。留学している学校の後輩や職場の仲間、自国から日本に来る知人など、入居者自身のコミュニティに紹介してくれることもあるため、入居率の向上を見込みやすいのもメリットです。
外国人の入居者と契約を結ぶときの注意点
賃貸物件に外国人入居者を受け入れる場合は、文化や習慣の違いによるトラブルを想定して、未然に防ぐための仕組みを整えておくことが大切です。ここでは、国土交通省が公表している「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」の内容を含めて、契約を結ぶ際に注意すべきポイントをご紹介します。
事前に確認すべきこと
外国人の場合は、まず滞在資格のチェックが必要です。また、契約に関する考え方の違いが存在するため、契約期間やルームシェアの有無などの細かな点も事前に確かめておくといいでしょう。
最低限確認しなければならないこととしては、次のような項目があります。
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保証に関する考え方の違い
国によっては、契約時に債務保証を必要としないケースもあるため、部屋を借りる際の保証の必要性を明確に伝えることが大切です。外国人の保証に対応している家賃債務保証会社を利用するか、身元の明確な連帯保証人を立てる必要があることを説明しましょう。
入居マナーや基本的なルールに関する認識の違い
外国人入居者の受け入れで、特にトラブルにつながりやすいのが次のような問題です。
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外国人入居者の受け入れを行う物件では、その他の物件での部屋探しが難しいことから、また貸しのターゲットになってしまうリスクもあります。契約者ではない人が勝手に入居していたり、規定を超える人数で住んでいたりする事態を防ぐためにも、契約時に契約違反に該当することをきちんと説明しましょう。
また、ゴミ捨てについてはルールの把握が難しいため、物件の所在地域の決まりを丁寧に伝えておく必要があります。場合によっては、外国語での資料を作ってエントランスに貼り出しておくなども工夫も重要です。
家賃回収については、前述のように保証会社を活用して、トラブルを未然に予防することが大切です。
契約書の作成方法
契約書は日本語のものを使用しても問題はありませんが、内容をきちんと説明することが重要です。特に生活ルールなどは、口頭だけでなく契約書にきちんと盛り込み、後から振り返られるように整えておくことが望ましいです。
ゴミ捨てのルールや入居マナーについては、チェックシートも活用して入居者と一緒に確認しておくといいでしょう。
契約後のトラブルを回避するためのポイント
最後に、契約後のトラブルを回避するための基本的なポイントを確認しておきましょう。
保証会社への加入を必須条件にする
家賃の確実な回収という点を考えれば、連帯保証人を立ててもらうよりも、保証会社を利用してもらうほうが安心してトラブルを回避できます。保証会社を利用していれば、万が一入居者からの支払いが正しく行われなかった場合でも、明け渡しまで責任を持って対応してもらえるので安心です。
そのうえで、身元保証人や緊急連絡先として日本人を立ててもらうと、より入居後のトラブルを回避しやすくなります。
ガイドラインを活用する
国土交通省の「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」では、外国人受け入れ時の実務対応について、Q&A形式で詳しく解説されています。また、賃貸借契約書の外国語訳や、入居時の生活ルールをまとめた「入居の約束チェックシート(8ヵ国語版)」といった資料も用意されているため、積極的に活用していくのがおすすめです。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:賃貸に外国人入居者を受け入れるメリットは?
A:賃貸物件に外国人入居者を受け入れるメリットには、「空室対策が少額に収まりやすい」「日本人とは別のニーズを持っている」「紹介や長期入居などで安定収入が見込みやすい」といったものがあります。交通利便性の低いエリアでも、外国人の受け入れに力を入れることで、工夫次第では空室率の低下が期待できるようになります。
Q:外国人入居者特有のトラブルにはどんなものがある?
A:文化や価値観の違いから、ゴミ出しなどの共用部分に関するトラブル、保証に関するトラブル、無許可でのまた貸しなどが起こりやすい傾向にあります。国土交通省の「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」も参照しながら、想定されるトラブルと未然に防ぐための対策をおさえておきましょう。
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