マンションの相続税評価額の算定ルールが見直し? 変更点を解説
不動産取引に携わる業種・職種では、幅広い分野にわたる知識が求められます。なかでも、税金に関する制度は年々変化していくため、積極的にアップデートを図ることが大切です。
今回は2024年1月1日から変更される「マンションの相続税評価額の算定ルール」について、現行のルールとの違いや具体的なシミュレーションを踏まえて確認してみましょう。
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目次[非表示]
- 1.変更される背景
- 1.1.相続税の基本ルール
- 1.2.マンションの相続税評価額における現行のルールと問題点
- 2.新しく適用されるマンションの相続税評価方法
- 2.1.評価乖離率の計算方法
- 2.2.評価水準の計算方法
- 2.3.土地の相続税評価額の算定
- 2.4.建物の相続税評価額の算定
- 3.新たな評価方法の適用対象とならないもの
- 4.具体的な計算の例
- 5.変更点を正しく理解して顧客に説明しよう
変更される背景
2023年度の税制改正では、マンションに関する相続税評価額の算定方法が見直され、大幅に変更されることが決まりました。2024年1月1日以降に相続・贈与・遺贈で取得するマンションについて、新たな相続税評価額の計算方法が用いられるというものです。
ここでは、詳しい変更内容に入る前に、現行のルールとその問題点を確認して、変更に至った経緯を押さえておきましょう。
相続税の基本ルール
相続は被相続人が財産を取得したタイミングと、相続人へ引き継がれるタイミングに大きなタイムラグが生じるのが一般的です。場合によっては、取得時より財産が何倍にも膨れ上がっていたり、反対に極端に価値を失ってしまったりするケースもあるでしょう。
そこで、財産の価値を適切に算定するために、「時価」に基づいて評価し、そこから相続税の金額を計算することとなっています。
マンションの相続税評価額における現行のルールと問題点
現行のルールでは、マンションの相続税評価額は次のように建物と土地を個別に扱い、後から合計して計算します。
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このように、地方自治体が算定する固定資産税評価額と国税庁が算定する路線価に基づいて計算をするため、実際の評価額には取引動向を反映しづらいのが問題となっていました。実際のところ、相続税評価額は市場価格を2~3割程度下回る傾向にあり、この差額を利用した「マンション節税」が一部で用いられてきました。
特に都心部の高層マンションは、高層階ほど相続税評価額と実際の価値に乖離が生まれやすいことから、富裕層では節税を目的として取得されるケースも増えています。この方法は「タワマン節税」と呼ばれており、一部の富裕層しか利用できないことから、税の公平性を欠く点が問題視されてきました。
マンションの相続税評価額の算定方法が見直されたのは、こうした現状を改善することが目的とされています。
新しく適用されるマンションの相続税評価方法
改正後の方法では、次の手順でマンションの相続税評価額を算定していきます。
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まずは、現行の方法でマンションの相続税評価額を割り出します。その後、市場価格とどの程度乖離しているかを割り出し、「評価乖離率」を算定します。
評価乖離率の計算方法
評価乖離率については、築年数や総階数、所在階、マンション全体の敷地面積、一室の敷地権割合などをもとに、複雑な計算方法で割り出さなければなりません。
評価乖離率の計算方法 (1):築年数 |
そのため、改正後は国税庁のホームページなどで自動計算できるツールが公開される予定です。
評価水準の計算方法
続いて、「1÷評価乖離率」で「評価水準」を算定します。たとえば、評価乖離率が2.0であれば、評価水準は「1÷2.0=0.5」となります。
土地の相続税評価額の算定
土地の相続税評価額は、評価水準に応じて異なる計算方法を適用します。
パターン1:評価水準>1:自用地としての価額×評価乖離率 |
パターン1は、現行の方法で求められた相続税評価額が「市場価値より高い」ことを示します。そのため、評価乖離率(1未満の数値)をかけて評価額を調整します。
パターン2は現行の方法でも「それほど乖離が生まれない」ことを示しているため、そのまま現行の計算式で算定します。
パターン3は「大きな乖離が生まれている」ことを表しており、相続税が実際よりも大幅に節減されている状態です。そこで、現行の評価額に「評価乖離率×0.6」をかけて差を是正します。今回の税制改正は、このパターン3による乖離を解消するために行われたといえるでしょう。
なお、パターン4はマンションの価値がゼロ評価とみなされるケースですが、該当することはほとんどないと考えられています。
建物の相続税評価額の算定
建物の相続税評価額も、土地と同じように評価水準に応じて異なる計算方法を適用します。
パターン1:評価水準>1:自用家屋としての価額×評価乖離率 |
この方法により、マンションの相続税評価額が極端に市場価値と乖離してしまうのを避け、一戸建てと同等レベルにまで増加されるようになります。
新たな評価方法の適用対象とならないもの
前述のように、改正後の評価方法は「評価水準が0.6以上1以下」となった場合は乖離が小さいと判断されるため、適用対象外となります。それ以外にも、適用対象とならないのは次のようなケースです。
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具体的な計算の例
最後に、新たな算定方法が適用された場合の相続税評価額について、具体例を用いておさらいしましょう。今回は、次のような条件のマンションを想定してシミュレーションを行います。
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まずは、以下の計算式で評価乖離率を算定します。
評価乖離率=(1)×(-0.033)+(2)×0.239+(3)×0.018+(4)×(-1.195)+3.220 |
次に以下の計算式で評価水準を算定します。
評価水準 |
このように、評価水準が0より大きく0.6未満であるため、評価額には「自用地・自用家屋としての価額×評価乖離率×0.6」の計算式が適用されます。
改正後のマンションの相続税評価額 |
今回のケースでは、改正ルール適用後の計算結果が、現行の相続税評価額から3,000万円も上回ることが分かりました。
変更点を正しく理解して顧客に説明しよう
これまで見てきたように、マンションの相続税評価額の計算方法は、2024年1月1日を境に大きく変更されます。一戸所有の場合はルールが大きく変わるため、今後は個人からの相談が増える可能性も十分に考えられます。
今回のモデルケースのように、場合によっては評価額に大きな差が生まれる可能性もあるため、顧客からの質問に答えられるようにきちんとルールを把握しておきましょう。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:タワマン節税とは?
A:マンションの相続税評価額が市場価格よりも下がることを利用し、特に乖離が大きなタワーマンションを購入することで、大幅な節税を狙う方法です。2023年の税制改正により、解消に向けて新たな相続税評価額の計算方法が導入される運びとなりました。
Q:マンションの相続税評価額の計算方法はどう変わる?
A:評価乖離率に基づいて評価水準を算出し、現行の方法と大きな乖離が見られる場合には、計算によって補正を行うこととなります。場合によっては、現行の計算結果よりも評価額が大きく上昇し、税額も大幅に高くなる可能性があります。
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