不動産業に関連した資格は多くありますが、そのなかでも近年、注目を集めているのが賃貸不動産経営管理士です。賃貸不動産経営管理士は、賃貸管理に関する専門知識や技能を持ち、管理を行う、不動産業界でも重要な役割を担う国家資格です。

長年にわたり賃貸業を経営し、宅地建物取引士と賃貸不動産経営管理士のダブルライセンスを持つ方に取得の経緯などについてインタビューをしましたので、受験を検討されている方はぜひ参考になさってください。

賃貸不動産経営管理士は、2021年に国家資格に

賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅管理の知識や技能、倫理観を持つ賃貸管理の専門家です。家主から賃貸管理業務の委託を受け適切に賃貸物件を管理し、入居者対応も行うことから、家主や入居者、双方から信頼される役目を担っているといえます。2021年に、国土交通省の省令により国家資格になりました。

国家資格になった背景は？

2021年に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」（以下、賃貸住宅管理業法）が施行されました。この背景には、サブリース方式におけるトラブルが社会問題化したことなどが挙げられます。さらに、家主の高齢化や管理業務を委託する家主の増加、賃貸住宅志向の高まりや外国人居住者の増加などの背景もありました。このような状況から、賃貸住宅管理業を適切に担う人材を確保する必要性が高まったこともあり、賃貸不動産経営管理士が民間資格から国家資格になりました。

受験者数の推移

賃貸住宅管理業法施行後、賃貸不動産経営管理士の受験申込者数は増加傾向にあり、国家資格化以降では3万人以上が受験申込をしています。2023（令和5）年度の受験申込者数は3万1,547人で、合格者数は7,894名。合格率は27.9％でした。賃貸不動産経営管理士試験の累計合格者数は9万4,401名と、10万人に迫る勢いで増えています。

（出典：受験申込者数および資格登録者に関するデータ-賃貸不動産経営管理士）

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年間1万3千～4千件の原状回復に関する相談が発生

全国の消費者センターには、賃貸住宅に関するさまざまな相談が寄せられています。そのうち、約４割を占めるのが、原状回復に関する相談です。年間1万3千～4千件程度の相談が発生しており、賃貸住宅の代表的なトラブルといえるでしょう。LIFULL HOME’Sの調査結果からも、すべての入居者が原状回復について明確に理解できているとはいえない状況です。入居契約時に、入居者の方の不明点にしっかりと回答することが、トラブルを未然に回避する方法として有効です。

昨年の過去問にトライ！

賃貸不動産経営管理士の試験範囲は、敷金や建築基準法、建物の構造についてなど幅広く、賃貸仲介にも活かせる知識が多く含まれます。過去の試験問題から、ぜひ仲介業の方に身に付けて頂きたい原状回復に関する問題をピックアップしてみました。ぜひチャレンジしてみてください。

【問 1】 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン（再改定版）」（国土交 通省住宅局平成23年8月。以下、各問において「原状回復ガイドライン」という。）に関する次の記述のうち、不適切なものの組合せはどれか。

ア 原状回復ガイドラインによれば、賃借人が天井に直接つけた照明器具のビス穴の跡の原状回復費用は、賃借人の負担とはならない。
イ 原状回復ガイドラインによれば、飼育ペットによる臭いの原状回復費用は、 無断飼育の場合を除き、賃借人の負担とはならない。
ウ 原状回復ガイドラインによれば、賃借人が設置した家具によるカーペットのへこみや設置跡の原状回復費用は、賃借人の負担とはならない。
エ 原状回復ガイドラインによれば、台所、トイレの消毒の費用は、賃借人の負担とはならない。
 
１ 　ア、イ
２ 　ア、ウ
３ 　イ、エ
４ 　ウ、エ

【問2 】原状回復ガイドラインに関する次の記述のうち、不適切なものはいくつあるか。

ア 賃借人が６年間入居後、退去の際に壁クロスに落書きを行った場合、賃借人の負担は残存価値の１円となる。
イ 賃借人の過失により襖紙の張り替えが必要となった場合、６年で残存価値１円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
ウ 賃借人の過失によりフローリング床全体の張り替えが必要となった場合、 経年変化を考慮せず、賃借人の負担となる。
エ 賃借人の過失によりクッションフロアの交換が必要になった場合、経年変化を考慮せず、賃借人の負担となる。
 
１ 　１つ
２ 　２つ
３ 　３つ
４ 　４つ

【問1】の回答は1、【問2】の回答は4でした。いかがでしたか？ 賃貸不動産経営管理士のホームページには、過去問の一覧が掲載されています。気になる方はこちらからご参照ください。

（出典：過去の試験問題一覧-賃貸不動産経営管理士）

賃貸業の現場の声

賃貸不動産経営管理士の「受験申込者数および資格登録者に関するデータ」によれば、「既取得資格」のアンケート結果で最も多かったのは宅地建物取引士（2,330名）でした。宅地建物取引士を取得後、さらなるスキルアップのために資格取得を検討している人は多くいることが推測されます。
 
長年、賃貸業を経営されていて、宅地建物取引士と賃貸不動産経営管理士を取得している有限会社やな瀬不動産 代表取締役 梁瀬雄司様にお話しをお聞きしました。

有限会社やな瀬不動産は、1975年創業。先代であるお父様から事業を継承し、地域密着で賃貸仲介・管理業をメインに経営されています
 
いろいろな不動産関連資格を見てきましたが、いまひとつ興味が湧きませんでした。しかし、『賃貸不動産経営管理士』という資格が創設されたと聞いて、自身の業務内容にも合っており、これなら受けてみたいと思いました。賃貸業にとって、宅地建物取引士は例えるなら普通自動車免許。ないと運転（不動産業務）ができません。賃貸不動産経営管理士は特殊免許のようなもので、取得することで扱える領域が広がります。
 
同じく、賃貸業を経営されていて、宅地建物取引士と賃貸不動産経営管理士を取得している誠不動産株式会社 代表 鈴木誠様にもお話をお聞きしました。 

多くのメディアに出演し、正直不動産の取材協力者としても作品に携わる。完全紹介制という形態を取り、ご紹介の方のみのお部屋を探しています

賃貸仲介業は、単なる場所の提供ではなく、『幸せになれる場所の提供』を心掛けています。つまりそれは、立地や家賃、設備だけをヒアリングするのではなく、そこに『人』が介入することにより、その人にとって幸せとは何かを一緒に考える事が重要です。その際、入居後のことも考える上で、必然的に『管理』の知識もおのずと必要になります。その管理の知識を学べるのが、賃貸不動産経営管理士になります。なので、賃貸仲介業に従事している人は、宅地建物取引士は当然ですが、賃貸不動産経営管理士も必須と考えています。

賃貸不動産経営管理士の試験は年に1回だけ

最後に、2024（令和6）年度の試験実施要領を確認しましょう。日本国内に居住する方であれば、受験要件なくどなたでも受験が可能です。試験は年に1回、2024年度は11月17日（日）に開催されます。受験をされる方は、申込みを忘れないように注意しましょう。

参照：賃貸不動産経営管理士ホームページ

5問免除講習を受講し、合格率を上げることもできる

（一社）賃貸不動産経営管理士協議会の指定を受けた（公財）日本賃貸住宅管理協会、（一社）全国賃貸不動産管理業協会、（公社）全日本不動産協会が、5問免除講習を実施しています。この5問免除講習を修了することで、試験問題50問から5問が免除されます。

令和5年度試験の合格率は、講習未受講者25.4%、講習受講者32.3%と未受講者より6.9%高い結果になっています。受講を検討されている方は早めのお申し込みをおすすめします。

2024年度版「賃貸不動産管理の知識と実務」。試験の一部（5問）が免除になる講習の教材

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