不動産業界での人材採用のポイントは? 人材定着率を上げるために取り組むこと
労働人口の減少による担い手不足は、さまざまな業界や企業で悩ましいテーマとなっています。不動産業界においても新規採用は難化しており、組織力を高めるためには単に採用力を強化するだけでなく、「人材の定着」が喫緊の課題といえます。
この記事では、人材の定着率に関する基本的な考え方や解消すべき課題を解説します。そのうえで、定着率の向上につながる具体的な取組みについて見ていきましょう。
≫ 人材を定着させるには? 不動産業界における人材育成の課題と解決法
目次[非表示]
- 1.人材定着率とは?
- 1.1.人材定着率の計算方法
- 1.2.人材定着率の指標
- 2.人材が定着しないことで生じる課題
- 2.1.コストの損失につながる
- 2.2.企業イメージの低下を招く
- 2.3.既存の従業員に悪影響を及ぼす
- 3.人材の定着率を高めるための方法
- 3.1.待遇面の改善
- 3.2.労働環境の改善
- 3.3.社内コミュニケーション不全の解消
- 3.4.採用におけるミスマッチの防止
- 4.複数の採用手法を組み合わせてみよう
- 4.1.ダイレクトリクルーティング(ダイレクトソーシング)
- 4.2.リファラル採用
- 4.3.ミートアップ
人材定着率とは?
自社の組織や人材のあり方について考えるうえでは、具体的な数値をもとに見直すことが大切です。ここでは、人材定着率の基本的な考え方と指標について解説します。
人材定着率の計算方法
人材定着率とは、ある期間において、自社でどのくらいの従業員が増減しているかを計る指標です。具体的な計算方法は次のとおりです。
定着率(%)=(期末の従業員数-期中の新規採用数)÷期初の従業員数×100 |
計算の期間は「年次」「四半期」などのように自由に設定できますが、年度単位で求めるケースが一般的です。具体例として、次のようなケースで人材定着率を計算してみましょう。
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人材定着率の指標
厚生労働省の『令和4年雇用動向調査結果』によれば、令和4年(2023年)における年初の離職率は産業全体で「15.0%」とされています。つまり、産業全体における定着率は「85.0%」ということです。
一方、不動産業、物品賃貸業における離職率は「13.8%」となっており、定着率は「86.2%」と産業全体の平均値に比べればやや高い数値です。近年では、不動産業界における離職率がやや低下傾向にあり、産業全体で見ても平均的な数値に落ち着いています。
この背景には、働き方改革や有給休暇取得率の向上といったさまざまな要因が考えられます。いずれにしても、人材の定着率に課題を感じている不動産会社は、業界平均の数値を意識して現状を把握することが大切です。
人材が定着しないことで生じる課題
人材が定着しない企業では、組織運営においてさまざまなデメリットが生じます。ここでは、定着率の低下が招くリスクについて見ていきましょう。
コストの損失につながる
企業が人材を育てるうえでは、大きな採用コストと教育コストが発生します。たとえば、新卒採用にかかるコストは、就職みらい研究所が公表している「就職白書2020」によれば、平均で1人あたり93万6,000円となっています。
教育コストは企業の取組みや離職までの期間によっても異なりますが、育成担当者の人件費なども含めれば、採用コスト以上に大きく膨らむケースも多いです。定着率の低い企業では、これらのコストが無駄になってしまうため、大きな損失を生み出す原因となります。
企業イメージの低下を招く
離職につながる原因にはさまざまなものがありますが、離職率が高い企業には、どうしても「人材を大事にしていない」というイメージがつきまとってしまいます。そのことが、採用時や取引先の獲得時に大きなマイナス要因として働く可能性は高いです。
離職率が高いまま改善されなければ、外部から労働環境や育成環境に関する不信感を持たれ、新たな人材を確保するのにますます苦労するという悪循環に陥ってしまいます。
既存の従業員に悪影響を及ぼす
なかなか人材が定着しない会社では、残った従業員に業務の負荷がかかり、組織全体としての活力が失われてしまいます。また、せっかく育成した人材が離職していく姿を見れば、既存の従業員も、仕事のモチベーションや会社に対する貢献意欲を失ってしまう恐れがあります。
特に重要な人材の離職をきっかけに、残った従業員の業務が増えたり会社への不信感が募ったりして、さらなる離職の連鎖を招くケースは決して珍しくありません。
人材の定着率を高めるための方法
人材の定着は一人ひとりの従業員を大事にし、会社や仕事に対する前向きな感情を引き出すことによって実現されるものです。そうした意味では、短期的な取組みで劇的な変化を生み出すような特効薬はありません。
基本的なことを丁寧に進め、着実に従業員との信頼関係を築いていく必要があるのです。ここでは、定着率を高めるための具体的な方法について見ていきましょう。
待遇面の改善
従業員の離職を防ぐには、給与や福利厚生といった待遇面の改善を図ることが大切です。給与や賞与は能力を適切に評価していることの表れでもあるため、他社や業界水準と比べて問題がないかを確認するとともに、従業員の満足度をこまめに確かめておくといいでしょう。
また、小規模な会社であれば、従業員それぞれと面談を行い、現状の悩みや待遇面の希望をヒアリングするのも効果的です。給与や待遇に関する考え方は、人それぞれに異なるため、個人の意見を尊重できるように働きかけるのが理想といえるでしょう。
労働環境の改善
待遇面とともに、労働環境の見直しも重要となります。まずは特別なことをしようとするのではなく、休日出勤や残業の有無、年次有給休暇の取得など、基本的な事柄で取りこぼしている点はないかをチェックすることが大切です。
そのうえで、自社の状況や従業員の意見を踏まえて、「フレックスタイム制やリモートワークの導入」「キャリア相談」「資格取得のサポート」といった独自の取組みにも目を向けてみるといいでしょう。
社内コミュニケーション不全の解消
社内における「人間関係の悪化」や「コミュニケーション不全」も、離職につながる主要な原因とされています。定着率を高めるためには、従業員が孤立したり悩みを抱え込んだりしないように、社内コミュニケーションを活性化させることも重要です。
代表的な施策としては、立場の近い先輩従業員が1対1でサポートする「メンター制度」や、自由な雰囲気で対話ができる「ワールドカフェ」、気軽に考えを発信できる「社内チャットツール・SNS」の導入が挙げられます。コミュニケーションの活性化にはさまざまなアプローチが考えられるので、自社の規模やオフィス環境、従業員の性質に合わせて適切な方法を見極めましょう。
採用におけるミスマッチの防止
定着率の向上を目指すには、採用時のミスマッチを防ぐことも重要です。特に中途採用においては、個人のスキルや経験と自社の業務とのミスマッチにより、せっかく採用しても活躍の機会が得られずに離職してしまうといったケースが増えます。
そのため、「求職者にきちんと自社の情報を公開する」「経営理念や社風を説明し、理解を深めてもらう」「カルチャーフィットを重視して採用を進める」といった点を意識し、ミスマッチの解消に努めることが大切です。
複数の採用手法を組み合わせてみよう
採用時のミスマッチを防ぐには、さまざまな採用手法に目を向けてみることも大切です。ここでは、主に中途採用において、ミスマッチの回避が期待できる採用手法をいくつかご紹介します。
ダイレクトリクルーティング(ダイレクトソーシング)
ダイレクトリクルーティングとは、企業の側から求職者にアプローチをかける採用手法のことです。具体的には、専門の会社が保有する人材データベースを参照し、条件が合うと判断できた人材を見つけ、企業自らスカウトメールを送信するという仕組みです。
従来の「待ち」の姿勢の採用手法に比べて、精度の高いスクリーニングが可能であり、1対1でコミュニケーションを図れることから、マッチ度の高い人材を採用しやすいのがメリットです。
リファラル採用
リファラル採用とは、自社の従業員を通じて、活躍してもらえそうな友人・知人を紹介してもらう採用手法です。自社の従業員が「この人なら自社に合う」と判断してくれた人材を対象にするため、カルチャーフィットする可能性が高く、離職の可能性が低くなりやすいのが特徴です。
また、採用される側も事前に転職後のイメージが持てるため、前向きに入社を検討しやすくなるのもメリットです。
ミートアップ
ミートアップとは、オフィスに候補者を招き、従業員との交流を通じて会社の雰囲気を味わってもらう手法です。もともとは、共通の目的や興味を持った人が集まる交流会を意味する言葉であり、主にインターネット上のつながりで用いられていました。
現在では、ある特定のテーマに興味がある人に参加してもらい、情報交換や交流を行える場として、ビジネスシーンでも広く使われるようになっています。集まった人との交流を通じて、自社の魅力をダイレクトに伝えられることから、低コストで採用ブランディングが行える手法としても活用されています。
ミートアップを経由した人材は、自社に対してある程度の理解と好印象があると判断できるため、採用時のミスマッチが起こりにくいと考えられるでしょう。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:不動産業界における人材定着率はどのくらい?
A:厚生労働省の『令和4年雇用動向調査結果』によれば、不動産業、物品賃貸業における離職率は「13.8%」となっていることから、定着率は「86.2%」と計算できます。これは、産業全体の平均値に比べればやや高い数値にあたります。
Q:定着率を高めるために取り組むべきこととは?
A:まずは、待遇面の改善や労働環境の見直し、社内コミュニケーションの促進といった基本的な事柄に取り組むことが大切です。また、採用時のミスマッチを防ぐことも、定着率を高めるうえで重要な施策となります。
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