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騒音の受忍限度とは? 判断基準や過去の判例を解説

騒音の受忍限度とは? 判断基準や過去の判例を解説

普段の生活の中では、受忍限度をめぐってトラブルが起こることがあります。特に問題になりやすいのが、生活音をはじめとする騒音です。受忍限度を超えて他人に迷惑をかけた場合は、被害者に対して損害賠償をする必要があります。

しかし、受忍限度のボーダーラインを見極めることは難しく、裁判所に判断を委ねるケースも少なくありません。

この記事では、騒音の受忍限度について、実際の判例を用いながら解説します。

目次[非表示]

  1. 1.受忍限度とは
  2. 2.受忍限度の判断基準
  3. 3.騒音の受忍限度に関する相談事例
    1. 3.1.借主と貸主の関係
    2. 3.2.被害者と加害者の関係
  4. 4.受忍限度を判断する際の基準値・規制値
  5. 5.騒音問題のルールづくりは自治体の資料を参考にしよう
  6. 6.まとめ

受忍限度とは

受忍限度とは、住宅や周辺環境において、通常受忍(受け入れる)すべき不快や迷惑の程度を指します。例えば、普段の生活で騒音をめぐるトラブルが起こることは珍しくありませんが、受忍限度の範疇に収まる音量であると判断されれば、受忍すべきと見なされます。

音を発生させたとしても、それ自体は適法ないし有意義な事業行為であるケースも考えられるでしょう。例えば、道路工事の音は大きいですが、インフラを整備するために欠かせません。

少しの騒音で争いが頻発するのは、社会生活上好ましくありません。そこで、該当の騒音について、一般的な生活を送るうえで受忍すべきかどうかを判断するために、受忍限度という考え方があるのです。

受忍限度の判断基準

受忍限度の具体的な判断基準は、明確には定まっていません。受忍限度は「社会通念上」の限度であり、客観的・多角的に判断することは困難です。具体的な状況や地域の慣習、個々の感受性などによって捉えられ方が異なるため、最終的には裁判所が判断するのが一般的です。過去の判例では、被害の程度だけでなく、被害の防止措置や周囲の環境などの事情を総合的に考慮することとしています。

騒音に関しては、法令や条例によって、生活環境を守るための基準値が定められています。しかし、基準値を超えているからといって、直ちに受忍限度を超えていると判断するわけではありません。

受忍限度は社会通念上という観点で判断されるため、基準値を目安にしたうえで、さまざまな事情を勘案する必要があるのです。

騒音の受忍限度に関する相談事例

国土交通省が公開している「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」を参考に、夜中の騒音に関する相談事例を解説します。

(参考:国土交通省 民間賃貸住宅に関する相談対応事例集

借主と貸主の関係

民法上、貸主は借主に対して建物を使用・収益させる義務を負っているため、貸主は建物を使用・収益に適した状態(居住に適した状態)に維持しなければなりません。これに伴い、貸主は、迷惑行為を行っている借主がいる場合、当該借主に迷惑行為をやめさせる必要があります。 

夜中に騒音を発生させている借主がいる場合、事実関係や契約内容を十分に確認したうえで、騒音が常識の範囲を超えていると考えられるようであれば、注意喚起などを行うことが推奨されます。
例えば「深夜は音量に注意してください」といったお知らせのチラシを全室に配布する、音楽機器の使用を制限するなどの対応が可能でしょう。

また、状況を放置すると、被害者が不眠症に陥るなど、健康被害が発生する可能性もあります。加害者の迷惑行為によって損害を被った場合、被害者は加害者だけでなく貸主に対しても損害賠償請求が可能です。

つまり、貸主が騒音の発生状況を放置すると、貸主としての義務を怠ったとして損害賠償請求を受けるリスクが生じるのです。これを避けるためにも、管理会社と協力しながら適切な対応を取る必要があるでしょう。

被害者と加害者の関係

例えば、隣室の住人が毎夜騒音を立てるため、不眠症に陥った旨の相談対応事例があります。この場合、被害者は隣室の住人に対して慰謝料や損害賠償を請求ができます。

本来であれば、賃貸借契約は貸主と借主の間の契約であり、借主同士に契約上の権利義務関係はありません。しかし、借主間の相隣関係の問題として、騒音が受忍限度を超えた場合は、精神的苦痛に対する慰謝料請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権が発生します。

なお、請求を行う場合には、被害者側が騒音被害が受忍限度を超えていることを主張・立証しなければなりません。社会通念上の受忍限度を超えたかどうかは、個々の事情を勘案したうえで、裁判所が判断します。

被害者側が証拠を集める際は、音圧レベルや騒音値(dB)を測定できる騒音計を用いるのが一般的です。

受忍限度を判断する際の基準値・規制値

環境基本法では「専ら住居の用に供される地域」と「主として住居の用に供される地域」においては、昼間は55dB以下、夜間は45dB以下が「騒音に係る環境上の条件について生活環境を保全し、人の健康の保護に資する上で維持されることが望ましい基準」とされています。

(出典:環境省 環境基準

また、横浜市では住居地域(第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域・第一種中高層住居専用地域・第二種中高層住居専用地域)での「家庭用機器・音響機器騒音防止の目安となる指針値」として、以下の数値を示しています。

  • 昼間(午前8時から午後6時まで):50dB
  • 朝(午前6時から午前8時まで)・夕(午後6時から午後11時まで) :45dB
  • 夜間(午後11時から午前6時まで): 40dB

(出典:横浜市 生活騒音防止に関する配慮すべき指針

また、東京都環境局が生活の中で発生する音の大きさの目安を示しているため、参考にするとよいでしょう。

  • エアコン:約41~59dB
  • 温風ヒーター:約44~56dB
  • 換気扇:約42~58dB
  • 風呂または給排水音:約57~75dB
  • 家庭用ヒートポンプ給湯機(エコキュート):約38~46dB
  • 家庭用燃料電池コージェネレーションシステム(エネファーム):約37dB
  • 洗濯機:約64~72dB
  • 掃除機:約60~76dB
  • 目覚まし時計:約64~75dB
  • 電話のベル音:約64~70dB
  • ピアノ:約80~90dB
  • エレクトーン:約77~86dB
  • ステレオ:約70~86dB
  • テレビ:約57~72dB
  • 犬の鳴き声:約90~100dB
  • 子どものかけ足:約50~66dB
  • ふとんをたたく音:約65~70dB
  • 車のアイドリング:約63~75dB
  • 人の話し声(日常):約50~61dB
  • 人の話し声(大声):約88~99dB

(出典:東京都環境局 生活騒音

40dBは、一般的に図書館の館内と同じ値といわれています。あくまでも基準値ではあるものの、騒音トラブルを未然に防ぐためにも、どの程度の音量なのかを理解し、できる限り対策を行うことが大切です。

騒音問題のルールづくりは自治体の資料を参考にしよう

貸主の立場から騒音問題を未然に防ぐためには、事前に居住ルールを設けることや、居住者に可能な範囲での協力を仰ぐことが効果的です。自治体の中には、騒音を防ぐためのルールづくりや対策に関する資料を作成・公開しているところがあるため、参考にするとよいでしょう。

例えば、東京都環境局では、騒音を減らすための方法として、具体的に以下のような例を挙げています。

【洗濯機】

  • 設置場所は隣家に騒音が伝わらないように配慮する
  • 集合住宅などでは、壁や床に振動を伝えないよう置き方に注意する
  • 振動を防ぐために防振マット(ゴム)や消音マットの使用を検討する
  • 早朝や深夜時間帯の使用は控える
  • 機器から異音が発生するときは、速やかに修理する

【エアコン】

  • 近隣への影響が少ない位置や向きを選んで設置する
  • 早朝や深夜時間帯の使用はできるだけ控える
  • 機器から異音が発生するときは速やかに修理する

【ピアノ・電子オルガン】

  • 夜間や長時間演奏する場合は本格的な防音対策(工事)を行う
  • 防音をしていない場合は夜間演奏を止める
  • 演奏する部屋は外壁に接していない部屋か隣家への影響が少ない部屋を選ぶ
  • 演奏するときは窓や扉を必ず閉める

【テレビ・ステレオ・カラオケなど音響機器】

  • 早朝や深夜時間帯は音量を小さくする
  • 置き場所や向き隣家への影響が少ない所を考慮する
  • 夜間はスピーカーではなくヘッドホンやイヤホンを使う

(参考:東京都環境局 考えよう 「生活騒音」

貸主は騒音の被害者からの損害賠償請求を防ぐためにも、賃貸借契約を締結するにあたっては、騒音に関するルールをあらかじめ明文化しておくとよいでしょう。内容の例としては、楽器の使用の禁止・制限やペットの制限などが挙げられます。

注意喚起を行うなどしても改善がみられない入居者に対しては、法的措置に移行する旨を明記しておけば、一定の抑止効果が期待できるでしょう。

(出典:環境省「その音だいじょうぶ?」

まとめ

騒音をめぐるトラブルは当事者同士では解決が難しく、最終的には裁判所が判断することが一般的です。

実際の加害者・被害者はいずれも借主ですが、貸主も騒音問題とは無関係ではありません。貸主は、借主に対して建物を使用・収益に適した状態に維持すべき義務を負っており、騒音が生じている状況を放置すると、損害賠償請求を受けるリスクがあります。

騒音トラブルを防ぐためにも、受忍限度をめぐる過去の判例や、省庁や自治体が公表している資料を参考にするとよいでしょう。


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柴田 充輝
柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。保有資格はFP1級・社会保険労務士・行政書士・宅建士。金融メディアや不動産メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆経験がある。自身でも株式投資や不動産投資を行い、実体験に基づく質の高い情報の提供と、読者にとってわかりやすい執筆を心がけている。本業のかたわら、FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。

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