定期借家契約をめぐるトラブルとは? 具体例や貸し手が行うべき対策を解説
定期借家契約を締結するにあたって、どのようなトラブルが発生する恐れがあるのでしょうか。定期借家契約には、普通借家契約とは異なる点があります。具体的には、必ず書面で契約を締結する点、原則として更新が行われない点が、定期借家契約の特徴です。
貸し手は借り手に対して明確に説明を行わないと、後にトラブルが発生する恐れがあります。この記事では、定期借家契約の特徴や、考えられるトラブル事例などを解説します。
目次[非表示]
そもそも定期借家契約とは
定期借家契約とは、契約期間があらかじめ決まっている賃貸借契約です。住宅の賃貸借契約は「定期借家契約」と「普通借家契約」の2種類に分かれており、それぞれの違いは以下のとおりです。
定期借家契約 |
普通借家契約 |
|
---|---|---|
契約方法 |
公正証書等の書面による契約を行う 賃貸人は「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを、契約書等とは別に、あらかじめ書面を交付して説明しなければならない |
書面による契約でも口頭による契約でも可 |
更新の有無 |
期間満了により終了し、原則として更新がない
|
原則更新 |
期間を1年未満とする賃貸借契約 |
可能 |
不可能(1年未満の場合、期間の定めのない賃貸借とみなされる) |
賃借人からの中途解約 |
床面積200m2未満の居住用の建物については、賃借人にやむを得ない事情があれば可能
|
中途解約に関する特約があれば、その定めに従う |
普通借家契約では、書面による契約でも口頭による契約でも構いません(書面で契約するのが一般的)。一方の定期借家契約では公正証書等の書面による契約が要件となっており、厳格な手続きが求められています。
また普通借家契約では、借り手が希望する限り、原則として賃貸借契約を更新することが可能です。定期借家契約のほうは、契約期間の満了に伴い賃貸借契約が終了します。
要件を満たしていない定期借家契約は普通借家契約になるので注意
定期借家契約の要件を満たしていない賃貸借契約は、普通借家契約とみなされるため注意が必要です。つまり、契約期間の満了に伴って貸し手が明け渡しを要求しても、明け渡しを拒否される恐れがあるのです。
なお、定期借家契約を成立させる要件は以下のとおりです。
- 公正証書等の書面によって契約する
- 契約の期間を定める
- 契約の更新がない旨を定める
- 賃貸借契約書とは別途の事前説明書面を交付して説明する
- 定期借家契約の期間が1年以上の場合、貸し手は期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に「期間の満了により賃貸借契約が終了する」旨を通知する
有効な定期借家契約を締結するには、書面において契約の期間を明確に定め、更新を行わない旨を借り手に伝えなければなりません。
契約の更新がないことを書面で説明する際は、原則として貸し手本人が説明する必要があります。ただし、仲介業者である不動産会社が代理人として借り手に説明することも可能です。
実務上は、不動産賃貸を斡旋している不動産会社が説明を行うケースが多い傾向にあります。
出典:国土交通省 定期建物賃貸借 パンフレット
定期借家契約で起こるトラブル事例
実際に、定期借家契約をめぐってトラブルが起こっています。これから定期借家契約の締結を予定している貸し手の方は、以下の事例を参考にしながらトラブルを防ぐ対策を行いましょう。
書面の不備で定期借家契約と認められないケース
契約締結時の書面に不備があり、定期借家契約と認められないケースがあります。具体的には、定期借家契約締結時に契約の更新がない旨を伝えられていないと借り手から主張される事例です。
契約期間の満了に伴って賃貸借契約が終了する旨の事前説明を行っていなければ、定期借家契約とは認められません。定期借家契約と認められない場合は普通借家契約となるため、契約期間が満了しても明け渡してもらえず、トラブルに発展してしまいます。
定期借家契約の効力をめぐるトラブルを回避するためにも、契約締結時にはおいて借り手に対して丁寧に説明することが大切です。
借り手が契約内容を理解しておらず立ち退きを拒否するケース
有効な定期借家契約を締結しても、借り手が内容を理解しておらず、トラブルになるケースがあります。借り手の理解不足に起因するトラブルですが、なかなか明け渡しに応じてもらえないことで、物件管理の予定が狂ってしまうことも考えられるでしょう。
借り手が明け渡し要求に応じない場合、裁判によって明け渡しを求めることになるかもしれません。裁判になると煩雑な手間と労力が発生することから、契約時に借り手の理解を確実に得られるように説明する必要があります。
中途解約の有効性をめぐるケース
原則として、定期借家契約は中途解約ができません。
ただし、床面積200m2未満の居住用の建物について、借り手に転勤や療養、親族の介護をはじめとするやむを得ない事情がある場合は、中途解約の申し入れが可能です。ほかにも、契約書面において中途解約に関する特約があれば、当該の定めに従います。
「やむを得ない事情」に関しては明確な基準があるわけではないため、中途解約の有効性をめぐってトラブルが起こる可能性が考えられるでしょう。
個別具体的な判断が求められるケースでは、解約の有効性をめぐって裁判で争うことになる可能性があります。そうなると余計な手間や労力、コストを負担しなければなりません。
定期借家契約でのトラブルを防ぐ方法
定期借家契約をめぐるトラブルを防ぐためには、事前にトラブルの火種となる要因を除去することが大切です。
以下で、定期借家契約に関するトラブルを防ぐ具体的な方法を解説します。
できれば公正証書で定期借家契約書を作成する
定期借家契約は、必ず書面で締結しなければなりません。書面のなかでも、できれば公正証書で締結するとよいでしょう。
公正証書とは、公証役場で公文書として作成された書類です。文書の成立について真正であるとの強い推定が働き、反証のない限り完全な証拠力を有するという特徴があります。
そのため、定期借家契約に関する書面は公正証書として作成するとよいでしょう。
更新しない場合は「更新がなく期間の満了により終了する」旨を必ず通知する
定期借家契約を、当初の予定どおり期間満了のタイミングで終了させるには、事前通知が必要です。契約期間が1年以上の場合、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に「期間の満了により賃貸借契約が終了する」旨を通知する必要があります。
通知を忘れてしまうと、貸し手は借り手に対して契約終了を主張できません。通知は口頭でも問題ありませんが、トラブルを防止するためにも内容証明郵便で通知するとよいでしょう。
期間の満了により終了する旨の通知を忘れても6ヶ月後に契約を終了できる
期間満了の1年前から6ヶ月前までに行う終了通知を忘れてしまった場合でも、遅くとも通知日から6ヶ月後に契約期間終了の旨を主張できます。
終了通知を怠ったからといって直ちに普通借家契約に切り替わるわけではありません。
ただし、終了通知を怠ると明け渡しを要求できる日が本来の予定より後ろ倒しになってしまいます。そのため、通知を忘れないようにスケジュール管理をきちんと行いましょう。
出典:国土交通省 定期建物賃貸借 パンフレット
まとめ
定期借家契約は普通借家契約とは異なる点があります。後のトラブルを防ぐためにも、契約締結時に貸し手と借り手が契約内容をしっかりと理解することが欠かせません。
契約締結時に強い証明力を持つ公正証書で書面を作成し、更新がなく期間の満了により終了する旨を通知すれば、退去や明け渡しをめぐるトラブルを回避できるでしょう。
LIFULL HOME'S Businessでは、不動産業界に関連したコラムやセミナー情報なども公開しております。ぜひご覧ください。