元警察官が近隣トラブルを解決支援。対応実績6万件超のヴァンガードスミスに聞く長期化を防ぐポイント
国土交通省の調査によると、入居者が「賃貸住宅について経験したことがあるトラブルの内容」は、「水漏れや設備などの故障」が29.8%と最も多く、次に多いのが「入居者同士でのトラブルが発生した」で23.4%となっています(賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査)。約4人に1人が入居者同士でのトラブルを経験しており、賃貸住宅で発生しやすいトラブルであるともいえます。
入居者同士のトラブルは設備の故障とは異なり、修理して収束とはいかず、比較的長期化したり深刻化したりしやすい傾向にあります。入居者の満足度にも影響する入居者同士のトラブルについて、近隣トラブル解決支援サービスを展開する株式会社ヴァンガードスミスに聞きました。
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事件化を防ぐ新しい防犯インフラを目指して
入居者同士のトラブルは、深刻化すると殺傷事件に発展してしまうケースもあります。事件化すればニュースなどで見聞きすることになりますが、事件化していない近隣トラブルは、日常的に発生しているといえるでしょう。
2023年度の警察の相談件数は259万6,188件と、前年 より10%増加し、「家庭・職場・近隣関係」に関連する相談は約1万2千件増加しました。2023年度の刑法犯の認知件数は70 万 3,351 件と、前年と比較して10万件超増加しており、相談件数、事件数、ともに増加傾向にあります。
出典:警視庁「令和5年の犯罪情勢」より刑法犯の認知件数の推移
株式会社ヴァンガードスミスは、2015年設立。代表取締役である田中 慶太氏は、北海道警察を退職後、不動産金融事業会社を経て、2015年にヴァンガードスミスを起業しました。警察官は、事件が発生してから捜査を始めますが、田中氏はこの「事件になる前のトラブル」を解決する仕組みとして、サブスク型の近隣トラブル解決支援サービス(mamorocca)の提供をはじめました。元警察官によるサービスとして、メディアにも注目されています。
「殴られた、壊された、などの事件になれば警察は捜査に入りますが、そういった事態になっていなければ、『いったんは様子をみましょう』という対応が一般的です。困っているのにこういった返答をされると、恐らく警察は何もしてくれない、と感じる人もいるでしょう。事件が発生したときに捜査したり、司法手続きに乗せたりという仕事と、事件にならないようにしていくという目標は真逆ですし、事件化を防ぐためには、別の機能が必要だと感じて起業しました」と、田中氏は事業を立ち上げた背景について話します。
株式会社ヴァンガードスミス代表取締役 田中 慶太氏
訪問担当も配置し、収束まで対応
賃貸管理会社向けに、入居者の対応代行サービスを提供する会社もありますが、そういった企業と一線を画すポイントのひとつとして、前述したヴァンガードスミスという企業の成り立ちがあるようです。
「近隣トラブルが長期化してしまうと、入居者の方はその間ずっと苦しんで生活することになりますし、重症化してしまった場合、住めなくなってしまう可能性もあります。迷惑行為や嫌がらせ、騒音など、幅広いトラブルに対応していますが、特に多いのが騒音に関する相談です。元警察官が相談を受けていますので、相談する方の安心感につながると思います。専門で特化してやっていることもあって、積み重ねたノウハウもありますし、困っている人を助けることに高いモチベーションを維持している社員が対応し、トラブルの収束まで支援します」(田中氏)
入居者からの相談はすべて専門の相談員が電話で詳細にヒアリング。これまで警察が対応する手前のトラブルの対応ノウハウというものは存在しなかったことから、田中氏は研究者とともにサービスを設計し、心理学についても研究。元警察官でストレス耐性があり、困っている人を助けることに対して意欲をもったスタッフがこれまでのノウハウを基に対応にあたります。mamoroccaはこれまで累計181万世帯で導入され、6万数千件を超す対応実績があります。
「北は北海道から、南は沖縄まで、全国でご利用いただいています。電話対応で収束が難しい場合は訪問をすることもありますが、この訪問部隊も全国に配置しています。収束まで弊社でやりきる体制を整えています」(田中氏)
大手賃貸管理会社で導入実績あり
ヴァンガードスミスは、不動産業界(主に賃貸管理会社)向けの近隣トラブル解決支援サービス「mamorocca」、法人向け「Pサポ+for Business」など、複数の事業を展開。なかでも7割強は、賃貸管理会社や仲介会社からの契約が占めているといいます。株式会社エイブルや株式会社三好不動産など、賃貸大手企業で導入実績があります。
「管理会社の方からは、『解決してくれるって聞いたんだけど本当?』とお問合せをいただくことが多いですね。入居者同士のトラブルがなかなか解決につながっていないという実情があって悩まれているようです」(田中氏)
ヴァンガードスミスの導入事例には、「長期化したトラブル案件、1ヶ月以内にすべて解決した」や「案件がひどくなって戻ってくることもない」などの声が並びます。ヴァンガードスミスの調査によると、生活音や騒音関連のトラブル経験者にどれくらいの期間継続したのかについて聞くと、1年以上続いたという結果が50.5%となり、半数を占めることがわかりました。
ヴァンガードスミス「近隣トラブルに関する実態調査」
ポイントは早期介入と第三者による中立な対応
トラブルが長期化することにより、入居者の満足度は下がり、引越しせざるを得ない状況に陥ることも考えられます。問題の長期化を防ぐポイントはあるのでしょうか。
「近隣トラブルの根本は、当事者の感情のトラブルであると考えています。最初は『ちょっと気になる』程度であったものが、時間を経て徐々にステップアップし『許せない』というレベルに達してしまうと、処罰感情が生まれトラブルが長期化してしまう可能性が高くなります。
また、一方の意見のみを聞いて正確に現状を把握せずに物件のルールを作ってしまったり、注意文を掲示したり、一方の要望通りに対応することは、結果的に解決につながりません。相互が納得できる解決のポイントを探り、バランスを取ることが重要です。場合によっては、音の原因になっている方に周囲への配慮を依頼し、相談者の方には、ある程度の生活音は許容する必要があることを伝えることもあります」(田中氏)
賃貸管理業の本来の業務に集中
国土交通省が実施した調査(賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査)によれば、賃貸管理業の受託管理業者が自社で実施している業務として「苦情対応」が8割を超えており、トラブル対応に関する業務が日常的に発生していることがうかがえます。
「賃貸管理業は、オーナーさんの新規獲得や、物件メンテナンスの提案をして資産価値を上げていくとか、長期的な対応が必要だと思いますが、日々トラブルが発生していると、そちらを優先する必要があり、対応に追われているようです。導入いただいた企業のみなさまからは、オーナーさんとの対話に時間がさけるようになった、本来の業務ができるようになった、あとは、会社が明るくなった、離職率が下がったというお声もいただいています」(田中氏)
出典:国土交通省 賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査 管理業務の実施内容と実施主体
不動産業界はカスハラが発生しやすい業界。従業員を守るためにも、準備が必要
東京都は2024年9月18日、カスハラ防止条例案を提出。2025年4月に施行を目指しています。飲食業界や空港業界などでも企業がカスハラに対する方針を発表するなど、徐々にカスハラの対策が進んでいます。
「不動産業は、生活に直結した住まいに関わる業界であるため、カスハラが発生しやすいと考えています。設備故障は緊急性が高く、また入居者同士のトラブルは住んでいる期間の長さに比例して不満が蓄積されやすい。継続性があることから、なかには過剰なクレームに発展してしまうことがあります。企業としてカスハラに関する方針を作成することはもちろん重要ですが、それだけでなく、従業員を守るための仕組み、ソフト面でのサポートができる環境をつくることも重要です」(田中氏)