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不動産IDの実現可能性は? 住宅流通、賃貸でも有益な取組みのメリットと課題

不動産IDの実現可能性は? 住宅流通、賃貸でも有益な取組みのメリットと課題

LIFULL HOME’S総研の中山です。

今回は徐々にその実現可能性が高まっている不動産IDがテーマです。

「日本の不動産取引は制度が複雑でよくわからないことが多い」という海外の機関投資家・個人投資家の不満を聞くことがあります。これは、日本の不動産に住居表示=建物を特定するための記号と、地番=土地を特定するために付与された番号があり、さらにその表記の“揺らぎ”=算用数字か漢数字か、町丁目表記かハイフンかなどの違いがあり、誤記載なども含めて不動産を特定することが難しいケースが少なくないことに起因します。

目次[非表示]

  1. 1.不動産IDとは?
    1. 1.1.不動産IDは“不動産版マイナンバー制度”のイメージ
  2. 2.不動産IDのメリット
  3. 3.不動産IDを活用可能にするための課題は少なくない

不動産IDとは?

不動産IDとは、こういった不動産取引に関する手間やトラブルを解消するため、国の方針としての「データ駆動型社会に向けた情報の整備・連携・オープン化」に沿って2020年に打ち出された、1つの不動産&一筆の土地単位で付与される固有の番号・記号のことです。

不動産IDは“不動産版マイナンバー制度”のイメージ

既に不動産登記簿には13桁の番号が付与されていますから、この13桁の番号にさらに4桁の特定コードを追加して、例えば住所の表記ゆれや同一住所・地番に複数の建物がある場合でも、一義的に不動産を特定することを可能にする構想です。さらに、このIDに建物の修繕履歴や売買履歴、インフラ整備・物件管理情報などを紐付けておけば、不動産取引の際に時間や労力をかけて事前の情報収集を行う手間を省くこともできるようになりますから、時間もコストも削減できるという点で不動産会社にも大きなメリットがあります。

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国土交通省 不動産IDルールガイドライン 概要によれば、不動産IDは、不動産登記簿の不動産番号(13桁)と、4桁の特定コードで構成されます

(出典:国土交通省 不動産IDルールガイドライン 概要

≫  不動産IDとは? 国土交通省のガイドラインの概要と今後の動きを解説

不動産IDのメリット

また、不動産IDは、国が権利関連の情報や納税状況など不動産を管理するために付与するものではなく(もちろんそれも可能ですが)、国内外問わず誰でも活用可能なオープン情報とする構想なので、日本の不動産は魅力的だが情報収集が面倒で売買契約に至るまで時間が掛かると、これまで敬遠していた海外マネーをさらに呼び込むきっかけにもなり得ます。

LIFULL HOME’Sなど不動産ポータルサイトに掲載されている物件情報の重複や履歴確認もこの不動産IDと連携させれば一気に整備され、購入や賃貸を希望するユーザーにとってもメリットが大きく、何より“おとり物件”の根絶に向けての効果も期待されます(LIFULL HOME’Sの実証事業では、一棟で登記されている物件の部屋番号が把握できない現状を踏まえ、現段階で不動産IDの精度を検証するに留めています)。

さらに、これまで一部の事業者が保有していた不動産関連情報がオープンになることによって市場の透明性が高まり、不動産取引が活発になることも期待されています。透明性が高まればAIを活用したサービスなどの精度も高まりますから、業務効率の更なる向上やユーザーへの情報提供の精度&スピードを上げることができるでしょう。他にも、低未利用土地の利活用、所有者不明土地の所有者探索などにも有用ですから、土地利用の効率化が図られることになり、例えば特殊詐欺グループなどが拠点とする物件の速やかな特定など、犯罪予防や治安の観点からも活用の可能性が考えられており、用途は多岐にわたります。

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国土交通省 不動産IDの中長期も含めた活用方法及びメリットより、不動産IDの中長期も含めた活用方法及びメリット<段階①(社内での情報管理)>
不動産IDの導入により、物件情報の名寄せ・紐づけの容易化や、不動産情報サイトにおける重複掲載、おとり物件の排除など、さまざまなユースケースにおけるメリットが想定されています

(出典:国土交通省 不動産IDの中長期も含めた活用方法及びメリット

不動産IDを活用可能にするための課題は少なくない

ただし、ここまで不動産情報の特定および一元化を進めれば、当然のことながら個人情報との結びつきや法令および公序良俗に反する利用の制限など、あらかじめ留意しておくべき事項も相応に増えていくことが想定されます。

マイナンバーは新型コロナウイルスの急拡大によって取得件数が大きく伸びました。しかし、コロナ以前は個人が特定されるとか個人情報を国に管理されるなどの懸念が取り沙汰され、その有用性よりもリスクがクローズアップされたことを覚えている方も多いと思います。現状はそれと似たような状況と言えます。

不動産IDによって物件の特定が容易になれば、物流・宅配や行政サービスなどで独自のアプローチが可能になる一方、不動産IDとマイナンバーなどが一元管理されると個人情報の特定が容易になる可能性が高まりますから、便利ではあるものの、プライバシー保護の観点から懸念は拭えませんし、そこには個人情報保護法の高い壁が存在することも忘れてはなりません。

この点については国も、不動産IDは単体では特定の個人を識別することはできないものの、不動産ID等を保有する者において、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる場合には、「不動産ID等及び当該他の情報」による情報全体として個人情報保護法第2条第1項の「個人情報」に該当する、としています。当然のことながら不動産流通や賃貸など契約の場面では、取引に関する不動産IDの活用について当事者の同意が必要不可欠ということになるでしょう。

他にも、賃貸マンション&アパートの各部屋を判別する番号が付与できず、反対に区分所有マンションでは各住戸の不動産番号は付与されるものの、マンション全体の不動産IDが付与されないのは利便性に欠けると言わざるを得ません。

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国土交通省 不動産IDルールガイドライン 概要より、不動産IDの活用に向けた前提(活用の際の留意点)

(出典:国土交通省 不動産IDルールガイドライン 概要

このように、不動産IDを実際に利活用可能なものにするには、国や自治体が一方的に進めるだけでは困難です。官民がそれぞれ同時に不動産IDの実効性を高める努力、具体的には多くの不動産関連情報を不動産IDと連携させることが必要です。国が強い意志を持って制度を推進することができるのか、そして安全性を担保できるのかが最大の焦点と言えます。

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中山 登志朗
中山 登志朗
株式会社LIFULL / LIFULL HOME'S総合研究所 副所長 兼 チーフアナリスト 出版社を経て、 1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職。

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