人口減少と高齢化に効果あり?譲渡付き賃貸住宅とは

LIFULL HOME’S総研の中山です。
首都圏ほか各市街地では住宅価格も賃料も軒並み上昇する傾向が続いています。円安による消費者物価の高騰や人手不足を契機とする人件費の上昇、エネルギー価格の先高観など、1990年代からデフレ基調で推移する経済環境に慣れた日本人には、コロナ明けから本格化したインフレに戸惑いを隠しきれない人も多いですが、2020年平均を100とする消費者物価指数(総合)は113ポイント前後で推移していてインフレを反映&上昇しているのに対し、実質賃金指数は現在でも103ポイント前後と10ポイント程度の乖離が発生しており、インフレでも賃金が上昇し物価上昇を吸収して拡大再生産の経済循環を形成する状況とは程遠く、生活実感が豊かにならないというのも頷けます。
地方移住・定住促進の新しい選択肢として注目されるRent To Own
生活費のなかで固定費と言われるのは、毎月決まった金額を支払う必要がある通信料金や保険料、最近ではサブスクもこれに含まれますが、固定費の中で最も大きいウエイトを占めるのが住宅コストです。借りて住むなら賃料、買って住むと住宅ローンの返済(マンションであれば管理費と修繕積立金などが加わります)が該当しますから、このコストを落とすことができれば相対的に可処分所得が増えることになります。しかし、住宅コストを落とすことはより狭い部屋に、より駅から遠くに、またはより郊外方面へと転居することとほぼ同義で、居住快適性や生活利便性が劣後してしまうため、それほど簡単なことではありません。
住宅コスト高騰のなかで、画期的とも言えるのが今回のテーマである“譲渡付き賃貸住宅”です。
譲渡付き賃貸住宅は数年間借りて住めば無償もしくはわずかな金額で購入可能な住宅のこと
譲渡付き賃貸住宅(Rent to Own:賃貸から所有へ)とは、契約当初は賃貸住宅として借りて毎月家賃を支払い、一定期間(これまでの実例では概ね7~25年程度)借りて住み続けると、期間満了後に、土地および建物の所有権が無償もしくは一定額で譲渡される住宅のことです。
仕組みとしては、賃貸住宅の所有者と長期の定期借家契約を締結し、その期間が満了すると所有者から賃借人へと土地・建物の所有権が移転するというものです。したがって、入居時から支払った賃料が当該住宅の購入費用と考えることもできますから、所有権移転までの総額を計算すれば、その金額が物件の価格となります。住宅を購入する際は多くの場合住宅ローンを利用しますが、当然のことながら住宅ローンには金利が長期間に渡って発生しますから、返済総額は大きく膨らみますし、借入時の審査をクリアすることも必要です。しかし、この方法で住宅の所有権を得る場合には(返済ではなく賃料なので)金利が発生せず、また賃貸期間中は固定資産税などの税負担もありませんから、住宅を借りて住みながら一定期間終了後に自分のものになるという、大変“美味しい話”なのです。また、定期借家契約期間中に状況が変わって満期まで居住できない=譲渡契約を履行できない場合でも、退去することが可能です(違約金が発生する場合あり)。
仮に、家族で住むための住宅を家賃15万円で借りると年間の賃料は180万円で、10年借りて住めば賃料の総額は1,800万円ですから、住宅購入よりは安価でも借りて住むための対価であって資産には一切なりません。しかし、この賃料の支払いが将来所有権移転に繋がるのであれば、賃料が資産形成のための積立資金として活用されることになるのです。したがって、毎月の家賃が資産形成の原資に充当されるという点で、極めてユニークな住宅取得手段と注目される所以です。
最近では、静岡ガスのグループ会社が静岡県川根本町にある譲渡付き賃貸住宅の入居者を募集すると公表しましたが、これは入居期間が7年と短く、毎月の賃料も65,000円と比較的安価です。7年間の賃料総額は546万円ですから、極めて安価に住宅の所有権を得ることができる計算になります。
もちろん、これには特定の意図があります。川根本町という過疎化と高齢化が進む地域に新たな居住者を募り、家族と共に地域の活性化に協力してもらう対価として、住宅を安価に提供しようとするものです。
つまり、最終的な物件価格は安価でも、その対価が高いか安いかはその地域の活性化に掛かっているとも言えますから、良い物件に住むことができたと感じられるように、物件の価格以上の居住価値を地域にもたらすことが求められているとも言えます。
2026年度から開始される「川根本町過疎地域持続的発展計画」によれば、林業と観光業が主な産業であり、また銘茶として知られる川根茶の産地で、抹茶需要が海外で急速に拡大していることから産業振興にも期待できるとのことです。人口は約6千人で半数が高齢者ですから、移住・定住を推進することによって転入世帯に寄せる期待は決して小さくありません。
このように、人口減少や高齢化によって行政サービスが低下し“限界集落”と言われる地域が増加する一方、東京などの都市圏では毎年数多くの転入者があって人口が増え続けており、過疎と過密が並行して発生しているのが現状です。この状況を打開するきっかけとして、地域を支える人材を獲得する必要がある自治体・企業と、安価に住宅を入手する代わりに地域活性化に貢献することを厭わない世帯とを、賃貸と購入のハイブリッド方式によって支援するのは斬新で素晴らしい仕組みですから、是非入居者の新たな獲得に苦慮している地域で、譲渡付き賃貸住宅の供給をご検討いただきたいと思います。









