耐震診断は「安全性を数値で見る」入口―RC賃貸マンションで押さえたい耐震診断の基礎知識―

賃貸管理の現場では、建物の安全性に関する相談が増えています。特に、昭和56年以前の旧耐震基準で建てられた鉄筋コンクリート造の賃貸マンションでは、「耐震診断をした方がよいのか」「補強工事まで必要なのか」「入居者にどこまで説明すべきか」という問題が実務上重要になります。
2025年度賃貸不動産経営管理士試験問36では、「2017年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説」に基づく耐震診断が問われました。設備・建物分野の問題ですが、実務ではオーナー提案、長期修繕計画、入居者の安全確保、資産価値の維持に直結する論点です。
耐震診断は「危ない建物探し」ではない
耐震診断というと、「危険な建物かどうかを判定するもの」と受け止められがちです。しかし、実務上はもう少し広く、建物が地震時にどの程度の耐震性能を有しているかを把握し、必要に応じて補強計画や改修工事につなげるための出発点と考えるべきです。
国土交通省も、昭和56年以前に建築された建物は、いわゆる旧耐震基準により建築され、耐震性が不十分なものが多く存在するとしたうえで、まず耐震診断を行い、耐震性を把握することを促しています。賃貸住宅では、地震時に入居者の生命・身体に影響が及ぶだけでなく、建物の使用継続、賃貸経営、修繕費用、保険、金融機関評価にも関係します。
診断は「調査・算定・判定」の順
耐震診断の大きな流れは、建物調査、構造耐震指標の算定、耐震性能の判定です。まず、設計図書、建築時期、構造形式、劣化状況、増改築の有無などを調査します。そのうえで、建物の強さや粘り、形状、経年劣化などを踏まえ、構造耐震指標を算定します。最後に、その数値を基準と照らし合わせ、耐震性能を判定します。
ここで重要なのは、耐震診断は単なる書類上の計算ではないという点です。図面が残っていない建物、現況と図面が異なる建物、劣化や改修履歴がある建物では、現地調査が特に重要になります。管理会社としては、図面、修繕履歴、過去の調査資料を整理しておくことが、専門家による診断を円滑に進める前提になります。
第1次・第2次・第3次診断
既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断には、第1次診断法、第2次診断法、第3次診断法があります。
第1次診断法は、柱や壁の断面積などをもとに簡易に評価する方法です。比較的壁が多い建物に適した診断法であり、短時間でおおまかな耐震性能を把握しやすい反面、建物の性質によっては評価に限界があります。
第2次診断法は、柱や壁などの鉛直部材をより詳しく評価する方法です。実務上、鉄筋コンクリート造建物の耐震診断で中心的に用いられることが多い診断法です。第3次診断法では、梁の影響や建物全体の崩壊形も含めて、さらに詳細に評価します。
試験問題で問われたポイントは、第1次診断法の特徴です。第1次診断法は、比較的壁の多い建物では評価しやすい一方、壁の少ない建物では耐力を過大評価するのではなく、過小評価しやすいとされています。したがって、「壁の少ない建物では耐力が過大評価される」という記述は誤りになります。
管理会社に求められる役割
賃貸不動産経営管理士や管理会社が、自ら耐震診断の構造計算を行うわけではありません。しかし、耐震診断の基本的な流れを理解していないと、オーナーへの説明や専門家への橋渡しができません。
たとえば、古いRC造マンションで大規模修繕を検討する場合、外壁補修や防水工事だけでなく、耐震診断の必要性も併せて検討すべき場面があります。また、入居者募集において建物の安全性が問われることもあります。耐震性の問題を放置すれば、地震時の損害だけでなく、入居者対応、オーナー責任、資産価値の低下につながります。
管理会社としては、まず建築年、構造、図面の有無、過去の耐震診断・補強履歴を確認することが重要です。そのうえで、必要に応じて建築士など専門家につなぎ、診断結果をもとに補強計画、修繕計画、資金計画をオーナーと協議することになります。
試験対策としては、第1次から第3次までの診断法を丸暗記するだけでなく、「簡易な診断ほど限界がある」「診断結果は補強計画につながる」という実務の流れを理解しておくとよいでしょう。
過去問にチャレンジ(2025年度問36)
【問題】
「2017年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・同解説」に基づく耐震診断に関する次の記述のうち、不適切なものはどれか。
1 耐震診断の大きな流れは、建物調査、構造耐震指標の算定、耐震性能の判定の順となる。
2 耐震診断には、第1次診断法、第2次診断法、第3次診断法がある。
3 第1次診断法では、比較的壁の少ない建物では耐力が過大評価される。
4 耐震診断の結果、補強が必要と診断された場合には、補強計画を立案する。
正解:3
1〇 耐震診断は、建物調査、構造耐震指標の算定、耐震性能の判定という流れで行われる。
2〇 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断には、第1次診断法、第2次診断法、第3次診断法がある。
3× 第1次診断法では、壁の少ない建物は耐力が過大評価されるのではなく、過小評価されやすい。
4〇 耐震診断の結果、補強が必要と判定された場合には、補強計画を立案する。
【参考文献・参考資料】
・一般財団法人日本建築防災協会「2017年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準・耐震改修設計指針・同解説」
鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準と耐震改修設計指針に解説を付した、RC造耐震診断・改修設計の基本書。
旧耐震基準の建物における耐震診断・耐震改修の必要性、耐震化の目標、支援制度などを整理した公的資料。
住宅の耐震診断、補強設計、耐震改修に関する支援制度について整理した資料。
2025年度賃貸不動産経営管理士試験問題及び正解番号。










