建物事故は「所有者だけの問題」ではない―賃貸管理会社が押さえたいと事故予防―

賃貸管理の現場では、建物や敷地内の不具合が事故につながることがあります。外壁材の落下、階段・手すりの不具合、共用廊下の段差、ブロック塀の倒壊、庭木の倒木、エスカレーターやエレベーターの事故などです。事故が発生した場合、まず問題となるのは、「誰が損害賠償責任を負うのか」という点です。
2025年度賃貸不動産経営管理士試験問34では、土地・建物等に係る損害賠償責任が問われました。中心となるのは、民法717条の土地工作物責任です。これは、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じた場合の責任を定める規定です。
賃貸管理会社は、通常、建物の所有者ではありません。しかし、建物の維持保全や共用部分の点検・修繕対応を受託している場合には、「所有者ではないから関係ない」とは言い切れません。建物の安全確保について事実上の支配をなし得る場合には、占有者として責任を問われる可能性があります。
工作物責任とは何か
民法717条1項は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、まずその工作物の占有者が損害賠償責任を負うと定めています。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が責任を負います。
ここでいう「土地の工作物」は、建物本体だけではありません。塀、擁壁、看板、階段、手すり、外壁、屋上設備、共用部の設備など、土地に接着して設置された人工物が広く問題になります。
管理会社の従業員にとって重要なのは、事故後に責任論を考えるだけでなく、事故前に「危険の兆候」を拾うことです。たとえば、外壁の浮き、手すりのぐらつき、鉄部の腐食、共用階段の滑り、照明不良、ブロック塀の傾きなどは、入居者から見れば日常の不具合でも、管理実務上は事故の予兆として扱うべきです。
管理会社も責任を負うことがある
建物の所有者はオーナーです。しかし、管理会社が管理受託契約に基づき、共用部分の巡回、点検、修繕手配、入居者対応を行っている場合、建物の安全確保について一定の事実上の支配を有すると評価されることがあります。
たとえば、入居者から「共用階段の手すりがぐらついている」と連絡を受けていたにもかかわらず、現地確認もオーナー報告も修繕提案も行わず、後日転落事故が発生した場合、管理会社の対応が問題になります。
もちろん、すべての事故について管理会社が責任を負うわけではありません。問題となるのは、管理会社がどの範囲の管理を受託していたか、不具合を把握していたか、把握できたか、オーナーへ報告したか、危険性に応じた応急措置をしたか、という点です。
経営者の立場では、この問題を「担当者の注意不足」で終わらせてはいけません。巡回点検の頻度、写真記録の方法、オーナー報告のルール、緊急修繕の判断基準、危険箇所の一時使用停止措置などを、会社として整備しておく必要があります。
竹木の倒木にも注意
民法717条2項は、土地工作物責任の規定を、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合にも準用しています。つまり、敷地内の樹木が倒れ、通行人、入居者、隣地建物、自動車などに損害を与えた場合にも、工作物責任と同様の考え方が問題になります。
本問で誤りとされたのは、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合に、所有者が必要な注意をしていれば責任を負わないとする記述です。これは誤りです。民法717条の構造では、占有者が必要な注意をしていた場合でも、最終的には所有者が責任を負うことになります。
管理会社の実務では、植栽管理を景観管理だけで捉えないことが重要です。台風前に大きく傾いた樹木がある、枝が道路や隣地に越境している、支柱が腐食している、根元が空洞化している。このような場合は、剪定や伐採の提案だけでなく、危険性の記録、オーナーへの報告、必要に応じた立入制限や注意喚起も検討すべきです。
製造物責任との関係
問34では、エスカレーターの製造物責任も問われました。製造物責任法は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に損害が生じた場合に、製造業者等の損害賠償責任を定める法律です。
同法上の「製造物」とは、製造又は加工された動産をいいます。建物のような不動産は、原則として製造物責任法の対象ではありません。しかし、エスカレーターのように、引渡し時点では製造物として存在し、その後に建物に取り付けられて不動産に付合した場合には、不動産に付合した後であっても製造物責任の対象となり得ます。
管理会社にとって重要なのは、事故が起きたときに、責任主体が一つとは限らないことです。建物所有者、管理会社、設備メーカー、保守点検業者、施工業者など、複数の関係者が関与することがあります。したがって、設備事故では、メーカー名、設置時期、保守点検契約、点検履歴、修理履歴、事故時の利用状況を速やかに確認する必要があります。
従業員が行うべき初動対応
現場担当者に求められるのは、事故後に法的責任を判断することではありません。まずは被害拡大を防ぎ、事実を正確に残すことです。
事故や危険箇所を把握した場合には、現地写真、動画、入居者からの申出内容、発見日時、天候、周辺状況を記録します。危険性が高い場合には、カラーコーン、掲示、立入禁止措置、応急補修などを検討します。そのうえで、オーナーへ速やかに報告し、専門業者による調査・修繕の必要性を伝えることが重要です。
また、オーナーが修繕を先送りする場合でも、管理会社としては報告内容と提案内容を記録しておくべきです。「危険性を認識し、どのように伝え、どのような対応を提案したか」は、後日の説明責任に直結します。
社長・管理職が整えるべき体制
管理会社の経営者や管理職にとって重要なのは、事故対応を担当者任せにしないことです。建物事故は、発生後に対応を誤ると、損害賠償、保険対応、オーナーとの紛争、入居者対応、会社の信用低下につながります。
最低限、巡回点検チェックリスト、危険箇所の写真記録ルール、オーナー報告書式、緊急修繕の承認フロー、事故発生時の連絡体制、保険会社への連絡手順を整備しておくべきです。特に、夜間・休日に事故が発生した場合、誰が判断し、どこまで応急措置を行うのかを事前に決めておくことが重要です。
また、管理委託契約書において、管理会社の業務範囲、緊急対応の範囲、修繕発注権限、費用負担、保険対応の協力義務を明確にしておくことも大切です。契約書が曖昧なままだと、事故発生後に「管理会社が対応すべきだった」「オーナーの承認がなければ動けなかった」という争いになりやすくなります。
試験対策としては、土地工作物責任では「占有者が第一次責任を負う」「占有者が必要な注意をしていた場合は所有者が責任を負う」「竹木にも準用される」「管理会社が占有者となる場合がある」という流れを整理しておきましょう。実務では、これを点検・報告・応急措置・記録化の問題として理解することが重要です。
過去問にチャレンジ(2025年度問34)
【問題】
土地、建物等に係る損害賠償責任に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
- 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じた場合において、その工作物の占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、その工作物の所有者が損害賠償の責任を負う。
- 建物の管理を行う賃貸住宅管理業者は、建物の安全確保について事実上の支配をなしうる場合、占有者として工作物責任を負うことがある。
- 竹木の栽植又は支持に瑕疵があることによって他人に損害を生じた場合において、その所有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、その所有者は損害賠償の責任を負うことはない。
- エスカレーターの引渡し時点において欠陥がある場合、不動産に付合して独立した製造物でなくなったとしても、当該エスカレーターは製造物責任法の製造物責任の対象となり得る。
正解:3
- 〇 土地工作物の占有者が必要な注意をしたときは、所有者が損害賠償責任を負います。
- 〇 賃貸住宅管理業者も、建物の安全確保について事実上の支配をなし得る場合には、占有者として責任を負うことがあります。
- × 竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合にも、民法717条が準用されます。占有者が必要な注意をしていた場合でも、所有者責任を免れるわけではありません。
- 〇 エスカレーターは、引渡し後に不動産に付合しても、引渡し時点の欠陥が問題となる場合には、製造物責任法の対象となり得ます。
【参考文献・参考資料】
- 2025年度賃貸不動産経営管理士試験問題及び正解番号。










