岐路に立つ民泊 住民トラブルが相次ぎ自治体が次々に方針転換

宿泊者のマナー違反だけでなく事業者も法令違反を繰り返すケースが多発
LIFULL HOME’S総研の中山です。
インバウンド増加の受け皿として、また宿泊需要の増加にも対応可能な「民泊」がいま岐路を迎えています。
貸す側にとっては、住宅地での空き家や空き部屋を利活用することで収益化することができ、また大規模なリフォームなどを施さなくても貸すことができる(イニシャルコストが低い)という“一石二鳥”の制度です。
借りる側にとっても簡便な手続きで安価に宿泊できるのがメリットですが、宿泊者による騒音やマナーを守らないことで発生する近隣とのトラブル、ずさんなゴミ出しなど“近所迷惑”な問題が次々に顕在化。東京都新宿区が住宅地での営業を原則禁止するなど、規制強化に舵を切る自治体が増えてきました。その新宿区では、吉住健一区長が規制強化の理由を「民泊増加で地域の生活環境悪化が課題となっており、区民から何とかして欲しいという切実な要望が寄せられている」と述べた通り、民泊による居住環境の悪化と近隣住民からの苦情の多さが規制強化に繋がっています。
また、全国最多レベルの特区民泊が集中している大阪市でも、2026年5月29日をもって特区民泊の新規申請および床面積増加などの変更認定受付を終了しました。
併せて大阪市議会では民泊の開業規制を強化する改正案が提出され、居住実態のある建物で民泊を開業する場合、木造や鉄骨造りのアパートなどでは原則認めないほか(RC造など遮音性の高い建物に限定)、宿泊客がいる間は施設から1km以内に従業員の常駐を義務付けるなど、トラブル防止と発生した場合の速やかな解決について制度を強化することにしています。
このような自治体の民泊規制強化の方針に対して、国(観光庁)も、2026年6月に自治体が条例改正によって住宅地での民泊営業を実質的に禁止できる「営業日数ゼロ日」の条例設定を容認する通知を出し、規制強化を認める決定を下しました。
民泊新法の年間180日ルールに対する条例の上乗せ規制は、民泊の受け入れ促進の観点から一定の制限内に留められてきましたが、この前提が転換することになります。2018年6月に「住宅宿泊事業法」(民泊新法)が施行されて以降、拡大を続けてきた民泊事業も、開始8年を経て既存民泊施設の整理・淘汰の時代へと大きく変化します。
上記の新宿区や大阪市のほか、住民トラブルが深刻なエリアを抱える全国の自治体では、今後さらに踏み込んだ規制が広がる可能性があります(実際に渋谷区、墨田区など条例改正が相次いでいます)。
また、民泊新法も、法令を守らない事業者を排除することができるように罰則規定を強化することも検討されていますから、宿泊事業の裾野の拡大を目的としてきた民泊制度自体も改正される可能性が高く、今後は大目に見てくれる可能性はなさそうです。

これまであった“抜け穴”を様々な方法で塞ぐ試みが具体化し始めている
民泊の規制における主な“抜け穴”としてこれまで指摘されてきたのは、旅館業法(簡易宿所など)の許可を取得してマンションの1住戸を「ホテル・旅館」として登録し、民泊新法では年間180日に制限されている営業日数の上限を回避して通年営業したり時間貸したりする手法です。
この通称グレーゾーン民泊と言われるものは、上記の通り自治体および国の規制強化によって新規受付が停止された自治体を中心に旅館業法事業者としての申請が増加しています。民泊新法だけでなく旅館業法もセットで制度を再整備しなければ、マナーを守らない事業者も近隣住民の苦情も減らすことはできません。
一番効果的なのは海外からの訪問客にルールやマナーを説明して理解・認識してもらい、それでも何らかトラブルになった場合は過料を科されることもあるという制度設計に変更することです(もちろん深刻な事態になれば刑事罰が科される場合もあるでしょう)。しかし民泊の主旨とは必ずしも合致しないため、民泊自体を規制し、事業者にルールの徹底を遵守してもらうことが何より重要です。
それでも空き家や賃貸住宅として活用できていない住戸を利活用する方法として、民泊事業は依然魅力的で有効な手段であることに変わりはありませんから、規制強化の状況下でも運営できるか否かの検討・再確認が求められます。
1-1.各自治体の条例改正について経過措置などの条件を確認する 1-2.所有物件と建築基準法・用途地域との整合性を改めて確認する 2.収益構造を営業日数から利用品質の向上に変更し、収益力を維持する(要追加コスト) 3-1.売却や事業転換など“出口戦略”も検討する:民泊事業からの撤退 3-2.民泊新法から旅館業法適用物件への変更を検討する:民泊事業の継続 |
1は基本的な確認事項、2は収益力を高め安価に貸さず利用客の質も高める変更、3は事業を継続するか否かの判断です。上記の項目の検討によって、特定の地域で民泊事業者として運営を継続するべきなのかを具体的に考える必要があります。
世田谷区では、家主が同じ住宅に住む民泊を対象として“規制緩和”とも受け取れる営業日数の180日への引き上げを検討していますが、実際には適切な運営がされていることが確認できた施設であることや、周辺住民への事前の周知、苦情発生時には10分程度で現地対応するよう義務付けられる前提です。
やはり制度の変更に伴って民泊が“貸すだけで安定した収益を得られる事業”もしくは“国際的な民間交流の拠点となるポジティヴな事業”として社会に認識されてはいない事実を意識し、民泊事業を継続する場合は規制強化に粛々と対応してもらいたいと思います。










