不動産業で成功する経営戦略とは?PEST分析は必要?
不動産会社を成長させていくためには、しっかりとした計画と戦略が必要になります。私自身、複数社の不動産会社の経営戦略を支援してきました。多くの不動産会社は、1年程度の目標を設定し、その目標をクリアするように営業活動を行っています。しかし、成長をし続けている不動産会社は、5年程度の中期計画の経営戦略を立てて、予算管理を実施し、それを修正しながらも、その計画を遂行しています。成長し続ける不動産会社とそうではない不動産会社の違いは、こうした中長期の「戦略」の違いにあるように感じます。今回のコラムでは、成長し続けている不動産会社が実行している経営戦略について紹介していきます。
目次[非表示]
事業領域を設定する
創業当初は、賃貸事業を運営していた不動産会社が、数年後に売買事業をスタートさせることもあれば、その逆もあります。一方で、創業時から賃貸事業も売買事業も運営する会社もあれば、明確に将来的にも賃貸事業のみ、売買事業のみしか運営しないと事業を特定して経営をする不動産会社もあります。
どれが正解というわけではないですが、成長し続けている不動産会社は、自社の「事業領域」を計画的に策定し、運営しているケースが圧倒的に多いように感じます。
とある不動産会社は、創業時、賃貸仲介事業のみでスタートしました。その3年後に賃貸管理業をスタートし、そしてさらにその3年後には、一戸建て販売を始めました。現在、その不動産会社は、自社で賃貸マンションを保有し、自社保有の物件を増やしています。
ここでポイントとなるのが、その不動産会社の代表の方が、創業時に立てた計画に沿って事業を拡大していることです。攻める事業領域の計画を立てて、その計画をベースに、資金計画を考えながら経営を行っていました。逆に、なし崩し的に事業領域を広げてしまうと、資金面、人材面で状況が厳しくなり、立ち行かなくなってしまうことがあります。改めて、事業領域の特定と計画性が不動産会社の経営には重要になってきます。
財務的な戦略を策定する
とある不動産会社では、買取再販業を行っていました。その会社は仕入れの営業力が強く、次々と物件を購入していきました。しかし、ある時期から会社のキャッシュが足りなくなってしまいました。 買取再販のような事業を行う不動産会社では、会社の資金計画がとても重要になります。仕入れを強化したが故に、社内にキャッシュが不足してしまうケースは、意外に多くあります。
また、金融機関の資金調達を見据えた決算計画も非常に重要になります。当期の利益が発生した場合、必要以上の税金対策を実施して、利益を圧縮したが故に、金融機関からの資金調達がうまくいかなくなったケースもあります。自己資本比率を高め精緻な事業計画を立てる不動産会社は、総じて金融機関からの受けはよいです。当然のことながら、事業規模が大きくなればなるほど、金融機関との付き合いは重要になってきます。
とある不動産会社では、優秀なCFOを採用し、経営戦略に決算対策をしっかりと盛り込むことで、事業を大きく成長させていました。このような財務的な計画を策定することで、「売り上げを伸ばす期」と「利益を出す期」のように事業計画にメリハリが出るようになりました。改めて財務的な戦略もしっかりと立てていくことが重要になってきます。
PEST分析を行い、柔軟に対応していく
PEST分析とは、外部環境を「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の4つの要素に分類して、自社への影響を分析することです。
不動産事業は外的な要因に左右されやすい事業です。政権の交代によって政策の変更があったり、金利の方針転換などの金融政策により、不動産市況が変化することも多々あります。また人口減などの社会的な問題も、不動産事業では見過ごせないポイントです。実際に、街の流出流入は、不動産事業に大きな影響を与えます。
また職人不足による建築費の高騰なども、現在かなり大きな影響を与えています。さらにテクノロジーの進化により、業務の効率化が進んでいます。これまでのアナログな営業活動を行うだけでは、他社に差をつけられてしまうこともあります。
根本的な経営戦略の方針は変える必要はないですが、こうした外的な環境の変化に柔軟に対応していく必要があります。世の中の動きを見極めて事業戦略を見直していくことで、リスク軽減が図れますし、また大きなチャンスをつかむ可能性もあります。
しっかりと外的な情報を取得しながら柔軟に対応することも経営戦略ではとても重要になってきます。
採用、育成計画を立てていく
いくら精緻な事業計画を策定しても、それを実行するのは、当然のことながら従業員になります。よく人員の欠員補充のために、その補充として採用を行う不動産会社が多いですが、成長を持続している不動産会社は、採用計画をかなり細かく立てています。経営戦略上、必要な人員を必要な時期に採用することで、もともと立てていた事業計画を実行することができます。
上場会社であれば、採用予算枠を来期が始まる前に設定します。しかし、非上場の企業でこうした採用計画を立てている会社は少ない印象です。とある不動産会社では、この採用計画を年次でしっかりと策定し、採用を成功させていました。これにより計画していた事業戦略などをうまく推進することができ、事業を大きく伸ばしていました。
また採用計画のみならず、育成計画も同時にしっかりと立てていかなければいけません。社内の人事ルールを整備し、業務のマニュアルを作成し、再現性を担保することで、一定の業務成果を見越すことができます。
悪い例としては、採用をして、あとは現場に任せてしまう場合です。これだと、成長スピードは人それぞれになってしまいますし、離職リスクも高くなってしまいます。会社として従業員の育成にしっかりと取り組むことで、経営戦略の推進が図れます。
社内外へ発信する
精緻な経営戦略を立てても、それが社長しか把握できていない状態だと、宝の持ち腐れになります。自社の経営戦略をしっかりと従業員に説明し、そして理解してもらうことで初めて、戦略の実行のスタートを切ることができます。
とある不動産会社では、毎年全従業員を集めて、かなり細かく経営戦略や事業計画の説明を行っていました。その会社は、当時10名程度の規模でしたが、当時からこの説明をしっかりと行っていました。現在その不動産会社は、数千名の規模になっています。
また、社内だけではなく社外への発信も積極的に行ったほうがよいでしょう。社外発信することで、顧客へのアピール、自社のブランディングになりますし、なにより採用などにもよい影響を与えます。また社外へ経営戦略を発信することで、良い意味で「やらなければいけない」状態になります。こうした意味でも策定した経営戦略の発信は、とても重要になります。
以上のように、今回は不動産会社において経営戦略を策定する重要性をお伝えしました。このあたりの取り組む姿勢は、各企業によって大きく異なります。しかし、成功している不動産会社のほぼ全社が経営戦略をしっかりと策定し、取り組んでいます。参考にしていただければ幸いです。