終身建物賃貸借契約とは? 活用する際の要件や注意点を解説
高齢者が安心して賃貸住宅に住める環境づくりは、高齢化が進む現代社会において重要な課題です。この問題についての一つの解決策になり得るのが「終身建物賃貸借契約」です。終身建物賃貸借契約は高齢者にとってメリットの多い契約であり、今後少しずつ普及していくと予想されています。
また、賃貸側においても終身建物賃貸借契約の活用は、安定した賃料収入につながります。そのため、賃貸管理会社や不動産オーナーはこの制度について理解しておくとよいでしょう。そこで本記事では、終身建物賃貸借契約の概要や活用する際のメリット・デメリットについて見ていきます。
目次[非表示]
- 1.終身建物賃貸借契約とは?
- 1.1.入居者の要件
- 1.2.普通賃貸借契約との違い
- 2.終身建物賃貸借契約を活用するメリット
- 2.1.長期入居になりやすい
- 2.2.遺留品の処理等を円滑に進められる
- 2.3.前払金として一括受領することも可能
- 3.終身建物賃貸借契約を活用するデメリット
- 3.1.自治体の認可が必要
- 3.1.1.【施設に関する基準】
- 3.1.2.【契約に関する基準】
- 3.2.更新料が発生しない
- 3.3.バリアフリーの費用がかかる
- 4.終身建物賃貸借契約を活用する際の注意点
- 5.終身建物賃貸借契約の手続き方法
- 6.終身建物賃貸借契約を活用して安定した賃貸管理を目指そう!
終身建物賃貸借契約とは?
終身建物賃貸借契約とは、賃借人が生きている限り賃貸借契約が存続され、賃借人が亡くなった時点で終了する借家契約です。この際、相続は発生せず、一代限りとなります。
契約対象となる住宅にはマンションや一戸建て、高齢者向け住宅などさまざまなものがあるため、高齢者でも安心して希望の住宅を利用できる環境が整っています。終身建物賃貸借事業は2001年に開始された制度で、認可実績(戸数)は2020年時点で1万3,721戸と、右肩上がりで増加しています。
(出典:国土交通省 国土交通省説明参考資料)
入居者の要件
終身建物賃貸借契約の対象となる物件に入居するには、以下の要件を満たす必要があります。
・契約者の年齢が60歳以上である
・契約者本人が単身である、もしくは同居する人が配偶者か60歳以上の親族である
普通賃貸借契約との違い
普通賃貸借契約との違いについても見ていきましょう。それぞれの特徴について比較表にまとめてみました。
普通賃貸借契約 |
終身建物賃貸借契約 |
|
---|---|---|
契約方式 |
定めなし |
公正証書などの書面 |
契約者の年齢 |
18歳以上 |
60歳以上 |
契約期間 |
1年以上 |
賃借人が亡くなるまで |
契約更新 |
更新あり |
更新なし |
なお、のちほど詳しく解説しますが、賃貸人が終身建物賃貸借契約で物件を貸し出す場合、都道府県知事の認可を受ける必要があります。認可を受けるためには、一定の基準をクリアした物件でなくてはなりません。
終身建物賃貸借契約を活用するメリット
ここからは、終身建物賃貸借契約を活用するメリットを見ていきます。
主なメリットは次の3つです。
・長期入居になりやすい
・遺留品の処理等を円滑に進められる
・前払金として一括受領することも可能
長期入居になりやすい
終身建物賃貸借契約では、契約者が亡くなるまで契約が続くため、長期入居になりやすいメリットがあります。
不動産賃貸事業を運営するうえで、安定した賃料の確保は非常に重要です。入居者が頻繁に入れ替わると、退去時の清掃や広告宣伝などの費用が発生することに加え、次の入居者が見つかるまで空き室状態が続き、その間賃料収入が得られません。
その点、終身建物賃貸借契約を活用して長期入居が実現すると、安定した賃料収入が得られ、賃貸事業をスムーズに進められるでしょう。
国土交通省 大家さんのための終身建物賃貸借契約の手引き
遺留品の処理等を円滑に進められる
国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」と組み合わせることで、遺留品の処理などを円滑に進めやすくなる点も大きなメリットです。
終身建物賃貸借契約は一代で終了する契約のため、原則として、入居者が亡くなった時点で賃貸借契約は終了します。しかし、契約自体が終了しても、室内に残された遺留品を無断で撤去することはできません。
相続などの手続きが終了するまでは、室内に遺留品が残ったままとなるため、入居者募集もできず、空き室期間が長引いてしまうでしょう。
この問題の解決策として、終身建物賃貸借標準契約に盛り込まれた「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が挙げられます。「残置物の処理等に関するモデル契約条項」は、賃貸物件の賃借人が亡くなった際に、その物件内に残された遺留品などをどのように扱うかを事前に定めた契約条項です。
この条項は、賃貸借契約時に賃借人と受任者(推定相続人や住居支援法人など)が残置物処理に関する死後事務委任契約を締結する仕組みです。
終身建物賃貸借契約とこの条項を組み合わせることで、室内に遺留品がある場合に、指定された受任者による迅速な引き取りや処理ができるようになります。
国土交通省 残置物の処理等に関するモデル契約条項
前払金として一括受領することも可能
終身建物賃貸借契約では、全契約期間にわたって受領すべき賃料の全部または一部を「前払金」として一括受領できる点もメリットの一つです。前払金は賃借人の年齢や想定される居住年数を基に計算され、全額を一度に受け取ることも可能です。また、一部を前払いとして受け取り、残りを分割した賃料として受け取るという形も取れます。
賃貸人は前払金としてあらかじめ受け取れるため、将来の家賃滞納リスクを軽減できるでしょう。
国土交通省は終身建物賃貸借標準契約書の標準契約書を公開しています。契約時の参考にするとよいでしょう。
終身建物賃貸借標準契約書
国土交通省 大家さんのための終身建物賃貸借契約の手引き
(出典:国土交通省 大家さんのための終身建物賃貸借契約の手引き)
終身建物賃貸借契約を活用するデメリット
一方で、終身建物賃貸借契約には次のようなデメリットがあります。
・自治体の認可が必要
・更新料が発生しない
・バリアフリーの費用がかかる
自治体の認可が必要
終身建物賃貸借契約を活用するには事前に自治体の認可が必要であり、認可を得るためには、物件の床面積やバリアフリー基準を満たさなければなりません。
認可基準は各自治体で異なるため、事前に問合せておくとよいでしょう。一例として、東京都の基準は以下のとおりです。
【施設に関する基準】
・1戸あたりの床面積が原則として25m2以上(居間、食堂、台所、浴室等、高齢者が共同して利用するために十分な面積を有する共同の設備がある場合は18m2以上)であること
・賃借人がシェアハウスなどで共同して居住する場合は、以下の基準に適合するものであること
・住宅全体の面積が15m2×N+10m2以上であること(Nは入居定員)
・専用居室の入居者を1人とすること
・専用居室の床面積が9m2以上であること
・共用部分に居間、食堂、台所、便所、洗面設備、洗濯室、浴室等を設けること
・便所、洗面設備、浴室は、居住者おおむね5人に1箇所の割合で設けること
【契約に関する基準】
・家賃の全部または一部を前払金として一括して受領する場合、前払金の算定方法が書面で明示されるものであり、かつ、必要な保全措置が講じられるものであること
・賃貸の条件として、権利金やその他の借家権の設定の対価を受領しないものであること
・工事の完了前に敷金を受領せず、加えて家賃の全部または一部を事前に一括で受け取ることもしないこと
東京都住宅政策本部 終身建物賃貸借制度
更新料が発生しない
終身建物賃貸借契約は更新がなく、長期間の入居を期待できます。しかし、その一方で、更新がないために更新料の支払いを受けられないというデメリットがあります。
賃貸経営において更新料は重要な収益源であるため、終身建物賃貸借契約を締結すると、この部分の収益が減ることになるのです。
バリアフリーの費用がかかる
終身建物賃貸借契約を利用するには、一定のバリアフリー基準をクリアしなくてはなりません。そのため、場合によってはバリアフリー化のためのリフォーム費用が発生します。これらの費用を加味したうえで、事業計画を進めていく必要があるでしょう。
ただし、バリアフリー化のためのリフォームに対する補助金を設けている自治体もあるため、一度物件のある自治体ホームページなどで確認し、要件を満たす場合は補助金を利用することをおすすめします。
対象となる住宅には、段差のない床、浴室等の手すり、幅の広い廊下等を備えていることなどの基準が設けられています
終身建物賃貸借契約を活用する際の注意点
終身建物賃貸借契約を活用する際に注意したいのが、前払い金についてです。前払い金を受け取ることで、賃料滞納リスクを軽減できます。その一方で、想定以上の長期入居になった場合には、経済的な損失が生じる可能性があるのです。
賃料を前払い金として受け取ると、その後、想定年数を超えた部分について追加の賃料を請求できません。
たとえば、想定居住年数を20年として前払い金を受け取ったとします。この場合、賃借人がそれを超えて住み続けたとしても、超過した期間に対しては追加の賃料を受け取ることができないのです。
このように、入居が想定以上の期間続くと、賃貸人は実質的な賃料収入を失うことになります。
終身建物賃貸借契約の手続き方法
最後に、手続き方法について見ていきます。
「終身建物賃貸借契約」を締結する際には、自治体の認可が必要です。政令市または中核市にある物件の場合、各市の担当部署に確認します。その他の地域に物件がある場合は、都道府県の担当部署に問合せてください。
認可を受けるための手続きは主に次のとおりです。
・賃貸住宅の位置や戸数、賃貸条件などを記載した事業認可申請書を作成
・間取り図などの必要書類を添付する
・自治体の担当部署に提出する
認可が下りれば、原則として60歳以上の賃借人と「終身建物賃貸借契約」を締結することが可能になります。そのほかにも、自治体ごとに必要書類が異なる可能性があるため、事前に確認しておくようにしましょう。
終身建物賃貸借契約を活用して安定した賃貸管理を目指そう!
終身建物賃貸借契約とは、賃借人が生きている間賃貸借契約が継続され、賃借人が亡くなった時点で終了する契約です。この際に相続は発生せず、一代限りとなります。
終身建物賃貸借契約は長期入居になりやすく、契約書の条項によって遺留品の処理などを円滑に進められるメリットがあります。一方で、この契約形態を利用するには自治体の認可が必要であり、要件を満たすためのバリアフリー化工事費用が発生する可能性があります。
これらの費用などを考慮したうえで、終身建物賃貸借契約を検討し、安定した賃貸管理を実現させましょう。
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