不動産会社が知っておくべき「住宅セーフティネット制度」の概要
住宅セーフティネット制度とは、住宅確保要配慮者(高齢者や障がい者など)の居住環境を確保することを目的に制定された制度です。民間の空き家や空室の有効活用にもつながることから、不動産会社や賃貸住宅のオーナーも知っておいて損はない仕組みといえます。
今回は住宅セーフティネット制度の内容を解説したうえで、セーフティネット住宅に登録するメリットや注意点も併せてご紹介します。
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住宅セーフティネット制度とは
住宅セーフティネット制度とは、民間賃貸住宅を住宅確保要配慮者(高齢者や障がい者など)の入居を拒まない住宅として募集・登録し、供給するという制度です。少子高齢化に伴う高齢世帯の増加により、安定した住宅供給の必要性はますます高まっています。
一方で、民間の空き家や空室は増加傾向にあることから、これらを活用して住宅確保法配慮者の受け皿とするのが問題解決の有力な方途と考えられました。そこで2017年10月に住宅セーフティネット制度がスタートすることとなったのです。
まずは、住宅セーフティネット制度の基本的な内容について、3つのポイントに分けて見ていきましょう。
(出典:住宅セーフティネット制度について)
住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度
セーフティネット住宅制度では、住宅確保要配慮者の入居を「拒まない」賃貸住宅を登録するという点に大きな特徴があります。住宅確保要配慮者には、次のような範囲が含まれます。
住宅確保要配慮者の範囲
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ただし、登録の際には、入居を拒まない住宅確保要配慮者の範囲を限定すること(「高齢者の入居は拒まない)など)も可能です。また、集合住宅であれば、住戸単位でも登録が可能なため、条件は柔軟に設定しやすいといえるでしょう。
なお、住宅の登録基準については、以下のように定められています。
住宅の登録基準
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改修・入居に向けた経済的支援
登録された住宅には一定の要件の下、改修費などの経済的支援が行われます。対象となる工事の内容は決められていますが、補助率3分の1まで、最大で「50万円/戸」までが国費で補助される仕組みです。
また、登録住宅の入居者に対しても、地方公共団体と国が協力して補助を行うこととなっています。
住宅確保要配慮者と建物のマッチング・入居支援の枠組み
住宅セーフティネット制度では、住宅確保要配慮者がスムーズに住宅を見つけられるように、登録住宅とのマッチングサポートの仕組みも検討されています。具体的には、不動産関係団体や居住支援団体、地方公共団体で「居住支援協議会」を構成し、住宅確保要配慮者と登録住宅の貸主の双方に対して支援を実施するという仕組みです。
(出典:新たな住宅セーフティネット制度における居住支援について)
制度が定められた背景
2017年に施行された住宅セーフティネット制度は、当初「新たな住宅セーフティネット制度」という名称で扱われていました。「新たな」という言葉がついているとおり、過去にも類似した制度として、2001年公布の「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づく「高齢者円滑入居賃貸住宅の登録制度」が存在していました。
当時から高齢者世帯は増加傾向にあり、公営住宅ではカバーできない住居問題を解消するために、賃貸住宅を登録する制度として施行されたのです。しかし、貸主や管理会社の抵抗感を払拭することができず、あまり機能しないまま2011年には廃止となりました。
また、代わって策定された「サービス付き高齢者向け住宅の登録制度」も、一定以上の所得がある層しかカバーできない点や、高齢者以外の住宅確保要配慮者を想定できていない点が課題とされてきました。そこで、より幅広い対象者を想定した制度として、住居確保の問題解決に民間の空き家・空室を活用するのが有効であるという観点から、新たなセーフティネット制度が策定される運びとなったのです。
(出典:住宅セーフティネット制度の現状について)
セーフティネット住宅の登録戸数
セーフティネット制度がどの程度浸透しているかは、実際に登録されている住宅戸数から推し測ることができます。ここでは、セーフティネット住宅登録システムの仕組みとともに、登録戸数の動きを見ていきましょう。
セーフティネット住宅登録システムの仕組み
セーフティネット住宅登録システムとは、オーナーが賃貸物件を登録し、広く情報公開が行える無料のシステムのことです。登録方法には2種類のパターンがあり、住宅確保要配慮者のみが入居可能な「専用住宅」と、それ以外でも入居できる「登録住宅」のどちらにするかを任意で選べます。
登録された住宅情報は誰でも閲覧することができ、エリアや家賃の価格帯、面積・間取り、専用住宅限定の有無、入居対象者といった各種条件を指定して絞り込めます。
登録住宅数は87万戸超に上る
セーフティネット住宅制度が導入された当初は、2020年度までに全国で17万5,000戸の登録住宅確保を目指すとされていました。しかし、制度が浸透するにつれて登録戸数は順調に増え、2023年9月末時点で87万5,855戸にも上るなど、大きな効果が表れています。
一方で、「単身世帯向けの物件数が少ない」「専用住宅の登録数が少ない」といった課題も残っており、今後の解決策が待たれるところでもあります。
セーフティネット住宅登録のメリットと注意点
セーフティネット住宅に登録すると、物件のオーナーにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは注意点も含めて解説します。
メリット
前述のように、一定の要件を満たせば国による改修費の補助が受けられるのが大きなメリットです。また、低所得者への賃貸においては、自治体によって家賃補助や家賃債務保証料低廉化の補助も受けることができます。
そのため、遊休資産を合理的に活用できる手段となり得ます。
注意点
セーフティネット住宅の登録自体は、「住宅確保要配慮者」に限定しなくても行えるため、さまざまな入居者を想定した受け入れが可能です。しかし、改修費や家賃などの補助を受けるには、「専用住宅」としなければなりません。
特に、改修費の補助を受けるためには「専用住宅としての管理期間が10年以上であること」が条件となるため、途中で売却などの予定変更を行う可能性がある場合には注意が必要です。また、自治体によって補助のルールが異なるため、物件ごとに所在する市区町村での制度を確認しておく必要もあります。
住宅セーフティネット制度に関するFAQ
国土交通省では、住宅セーフティネット制度の導入にあたってさまざまなハンドブックやガイドブックが公表されています。ここでは、そのうちの一つである「住宅セーフティネット制度活用Q&A集」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000056.html )を参照し、気になりやすいポイントをピックアップしてご紹介します。
Q:登録はどのようにするのですか?
登録する物件が政令市や中核市にある場合はそれぞれの市長に、それ以外の市区町村にあれば都道府県知事に必要書類を提出します。必要書類は以下のとおりであり、申請書の作成はセーフティネット住宅情報提供システムを使ってWeb上で行えます。
必要書類
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Q:入居審査は誰がするのですか?
通常の物件と同じように賃貸人が行います。なお、国や自治体からの補助を受けない登録住宅(専用住宅以外の住宅)については、要配慮者以外の入居者も受け入れることが可能なため、審査にあたって特に要配慮者であることを確認する必要はありません。
Q:家賃の設定はどのようにすればよいですか?
家賃は近傍同種の住宅の家賃と均衡を失しない額に設定する必要があります。ただし、国による改修費の補助を受けた場合には、公営住宅に相当する家賃水準以下にする必要があります。
●記事のおさらい
最後に、今回の内容をQ&Aで確認しておきましょう。
Q:住宅セーフティネット制度とは?
A:民間賃貸住宅を住宅確保要配慮者(高齢者や障がい者など)の入居を拒まない住宅として募集・登録し、安定した供給を実現するための制度です。居住環境の確保とともに、増加する空き家や空室の利活用にもつながることが期待されています。
Q:セーフティネット住宅に登録するメリットは?
A:一定の要件を満たすことで、改修費や家賃等の補助を受けることができます。ただし、改修費の補助を受けるには、10年間にわたって「専用住宅」(要配慮者のみが入居可能な住宅)として運用する必要がある点に注意が必要です。